至高魔王ササライ・世界はひとつ①/聖剣士たち
エレノアは、ロイがいないことに気付いた。
「あれ? あ……そっか、あいつ、もう援護に入るつもりね」
ロイがいない、つまり援護に入った。
きっと、エレノアたちですら気付かないところから、援護射撃をするのだろう。
そう思うだけで頼もしく、力が湧いてきた。
そして、城の近くでユノたちに追いついた。
「おーい!!」
「あ、エレノア」
とくに驚きのないユノが最初に気付き、サリオスたちも気付いた。
エレノアは手を振り急停止。サリオス、ユノ、アオイ、そしてロセ、ララベル、スヴァルトと順に見つめ、思いっきり拳を握って突き出した。
「勝ちました!! 八咫烏から聞きました。これで聖剣士と魔剣士の勝敗は引き分け、あたしたち七人で最後の戦いですね!!」
「うん。エレノア、すっごく元気」
「ふ、それこそエレノアだ」
ユノ、アオイが頷く。
ロセ、ララベル、スヴァルトは辛そうだった。
「わりーな、後輩たちに胸張って言えねえが……情けねえことに負けちまって」
「待った!! スヴァルト先輩、そんなことどうでもいいです」
「あ?」
エレノアは、スヴァルトにビシッと手を向けて言葉を遮る。
ララベル、ロセにも顔を向け、ウンウン頷きながら言う。
「あたし、思うんです。七聖剣士って、一人よりみんなで戦った方が強いって。魔王を倒した時だってみんな一緒でしたし、一人じゃ出ない力も、みんな一緒なら常に出せる。つまり、あたしたち七人なら、魔剣士だって倒せます。それに、八咫烏もいますしね」
「「「…………」」」
ロセ、ララベル、スヴァルトはポカンとしていた。
そして、サリオスが「あははっ」と笑って頷く。
「確かに、エレノアの言う通りです。誰が勝ったか負けたかより、大事なのはオレたち七人で魔王を倒し、世界を救うってことだ」
「うんうん。サリオス、いいこと言うじゃん。初めて会った時のナンパ野郎とは思えないセリフね」
「そ、それはもう忘れてくれ!! く、黒歴史ってやつだ」
「はいはい。今のあんたけっこうカッコいいし、モテるんじゃない?」
「そ、そういうことも言わないでくれ!! ああもう、エレノア……キミも変わったよ」
「そう? あたし、もともとこういう感じよ?」
二人のやり取りを見て、アオイがクスクス笑う。
「フフ。本当に、仲間とは素晴らしい。うむ……皆、聞いて欲しいことがある」
「「「「「「?」」」」」」
六人の視線がアオイに集中する。
アオイは、髪をほどき、着ていた制服の前をはだけた。
制服の中から見えたのは、サラシに包まれた胸。そして、サラシをはだけると……なんと、胸当てに包まれた、どう見ても女性の胸にしか見えない膨らみが見えた。
「「「「「「……え」」」」」」
「隠していて済まない。拙者……男ではない。性別を偽っていたこと、ここに謝罪をする」
唖然とする六人。
エレノアより小さく、ユノより大きな、どう見ても女性の乳房がそこにあった。
サリオスはグルンと顔を背け、スヴァルトはロセに眼突きされ視界が封じられる。
そして、唖然としていたエレノア、ユノが復活した。
「ううううう、うそ!? アオイ、女の子ォォォォォ!?」
「ああ。家庭の事情でな……」
「それ、ほんもの?」
「ああ、本物の乳房である」
「どれどれ……もみもみ、うん本物だ」
ユノがアオイの胸を触って確認すると、間違いない本物だった。
眼を突かれて悶絶していたスヴァルトが復活し言う。
「はは、じゃあ聖剣士で男はオレ、殿下の二人だけだったのかい。やれやれ」
「驚きねぇ……あら? じゃあアオイくん。あなた、男子寮で生活を?」
「……うむ。その、実はロイには早くにバレてな。いろいろ手伝ってもらっていた」
「「……ロイ?」」
エレノア、ユノがムッとする。
ララベルは「あはは」と笑って言う。
「ま、いいんじゃない? それより、その胸隠しなよ。サリオスの坊ちゃんが鼻血出してるわよ?」
「だだ、出してません!!」
サリオスは耳まで真っ赤になっていた。
サラシを外した時、胸当てに覆われていたので生で見たわけではないが、同世代の女子が胸を見せるという行為に、青少年はいろいろ想像してしまったようだ。
アオイはサラシを巻き、髪を結う。
「仲間に隠し事はしないと決めた。これで、遠慮なく剣を振るえる……ふふ、心が軽くなった気分である」
「うーん。ユノ、後でロイにいろいろ聞かなきゃね」
「うん。男子寮でのお手伝い……お風呂とかも?」
「うむ。風呂も何度か手を借りた」
「……あいつ殴る」
「むー。わたしと一緒だとすぐ逃げちゃうのに」
不思議と、魔王ササライの本拠地前なのに、全員がリラックスしていた。
一呼吸置き、サリオスを中心となって城の前に並び、城を見上げる。
「みんな……これが最後の戦いだ」
サリオスが光聖剣サザーランドを抜いて掲げる。
「ええ!! やってやるわ!!」
エレノアが炎聖剣フェニキアを掲げる。
「わたし、勝つ」
ユノが氷聖剣フリズスキャルヴを掲げる。
「ふ……我が雷は、これまでになく痺れるぞ」
アオイが雷聖剣イザナギを掲げる。
「ふふ。なんだか負ける気がしないかも~」
ロセが、地聖剣ギャラハッドを掲げる。
「片手しかないけど、いいハンデね!!」
ララベルが、風聖剣エアキャヴァルリィを掲げる。
「けっ……今度は負けねえぞ」
スヴァルトが、闇聖剣アンダンテを掲げる。
七本の聖剣が掲げられると……城のテラスに、七人の魔剣士が現れた。
一対一ではない。聖剣士と魔剣士の戦いが始まる。
「さあ、行くわよ!!」
エレノアが叫び、『忘却王城彼方永久』に踏み込んだ。





