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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第六章 混沌の虹・七聖七魔の聖魔剣と至高魔王ササライ

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八咫烏と月光鳥

 ロイとエレノアは、ひたすら走っていた。


「城にみんな行ったの!?」

「ああ!! 恐らく、そこに魔剣士たちと、ササライがいる!!」


 背後では、聖剣士と魔界貴族の戦いが激化している。

 王都の城壁をよじ登る魔獣もいた。恐らく、城下町でも戦いは始まっている。

 ロイは歯噛みする。


「オルカ、ユイカ……どうか無事で」

『クソ。魔族の援軍、人類の援軍のタイミングもピッタリだ。そしてこれから向かう王城……結果的には、七戦し、三勝三敗一分けという接戦……これから戦うのは魔王ササライと、それぞれ手負いの聖剣士、魔剣士……だが、勝機はある』

「勝機?」


 走りながらエレノアは言う。

 ササライの城は見えるが遠い。


『ロイ、お前の聖域で聖剣士を強化し、魔剣士を弱体化させる。そうすれば負傷した聖剣士でも勝ち目はある』

「でも、セレネもいる」

『ああ。ロイ……いい加減、権能を使え。今のお前なら、我輩の七つの権能をフル活用できる。はっきり言う……これまでの魔剣士の戦いを見たが、お前の全力を出せば、七人相手だろうと勝てる』

「……買い被りすぎだ。あのグレコドローマとか、ライハとか、アークレイとか……俺だけじゃ」

『勝てる。ロイ、いい加減に自分を低く見積もるな。今のお前は間違いなく、魔王レベルの強さだ』


 エレノアはゴクリと唾を飲み込む。

 不思議だった。

 ロイは隣を走っている。だが、戦闘形態で意識を周囲に配りつつも、ロイは自分の気配を完全に殺している……足音すらしないので、まるで浮きながら走っているようだった。

 もし、完全に隠れて狙撃をすれば、エレノアも感づけない。


「……ロイ。あのさ」

「──エレノア!!」


 ロイはエレノアの前に飛び出し、魔弓デスゲイズを振り矢を叩き落とした。

 いつの間にか、十メートルほど先にセレネが立っていた。

 真っ白いコート、フード、マスクを被り、ロイに矢を向ける。

 ロイは深呼吸し……一歩前に出た。


「……確かに、お前の言う通り。はは、なんでかな……ササライのシナリオに踊らされていたのか、どうもアイツとだけは権能を使わずに決着を付けたかった」

「……ロイ?」

「エレノア、少し下がってて」


 ロイはさらに一歩前に出て、セレネに言う。


「セレネ。はっきり言う……俺は、お前を殺すつもりはない。お前とは殺し殺されるじゃない、同じ狩人として高め合いたいって思ってる」

「……それは無理。私、ササライ様の弓だから」

「俺も、七聖剣士の援護役。表立って戦うことはない。でもな……ササライを倒すためには、やらなきゃいけないんだ」

「……で、どうするの?」

「全力でいく。権能も使わない、俺の……八咫烏の、ロイとしての、狩人としての、俺がこれまで積み上げてきた全力でお前を倒す」


 ロイの呼吸が浅くなる。

 エレノアは驚いていた。


「ま、待って。あんた……全力って」

「魔王の時も、修行の時も、俺は本当の意味で全力じゃなかった。新しい権能とか使ったし、身体がボロボロで全力とか出せない戦いもあったしな」

「……それで、私を全力で倒すの?」

「ああ」


 ロイはゆらりと身体を揺らすと、矢を一本抜く。

 なんの仕掛けも、魔力も籠っていない。その辺の村でも買える一本の矢。

 

「……──」

「……ッ!! 面白い」


 ロイの気配が変わったのを感じたのか、セレネも一本の矢を抜く。


「いいよ。私とロイ……互いに一本の矢で、決着を付けよう」


 二人の空気が張り詰め、エレノアはゆっくりと後ろに下がった。


 ◇◇◇◇◇◇


 セレネは、言葉と裏腹に緊張が隠せなかった。

 ロイ。

 八咫烏の少年は、まだ十六歳という若さなのに、熟練を遥かに超えた威圧感をしていた。が……全力を出すと言った瞬間、その威圧感は消え、木の葉のような気配となる。

 ゆらりと、矢を弓に番えた。

 セレネも矢を番えた。これから放たれる矢はどこを狙うのか。

 緊張がピークに達する……と同時に、セレネは呼吸法により精神を落ち着ける。

 目の前にいるロイ。そして、セレネ。


「決着を」


 ロイがそう呟き、矢が放たれた。

 セレネも矢を放つ。

 全く同時に飛んだ矢──だが。


「えっ」


 消えた。

 ロイの矢が消えた。

 デスゲイズの権能……だが、権能ではない。

 突如、右腕に熱が走った。


「あっ……」


 なぜ、矢が刺さっているのか。

 ロイが消えていた。

 瞬きをしていない。だが、いない。

 ロイは、セレネの真横にいた。そこから矢を放ち、セレネの腕を射抜いたのだ。


「……なんで?」


 最初に出たのは、疑問だった。


 ◇◇◇◇◇◇


(信じられない)


 デスゲイズは、もし身体があったら震えが止まらなかった。

 ロイは権能を使っていない。

 間違いなく、完全に、自分だけの力で矢を放った。

 矢を番えたまでは、その場にいた。

 だが、矢を放つ瞬間、ロイは動いた。

 セレネの真横に移動し、右腕を狙ったのだ。

 音も、気配も、空気も、空間も、この世に存在する全てを騙す速度で動き、世界を嘲笑ったのだ。


『……』


 ロイはいた。

 だが、世界がそれを認識できなかった。

 動いたことを、世界が理解できなかった。

 人の身に、いや神ですら持つことのできない『弓』の才能。

 エレノアが唖然とし、眼を何度も擦っているのが見えたが、もうデスゲイズにはどうでもよかった。

 ロイがセレネの真正面にいると、世界を騙した。

 ただの身体能力で。

 バカだった。あまりにも、人間を超え……神をも超えていた。

 ロイの本気は、世界を超えた。


「俺の勝ちだ」


 セレネは何も言わず、矢の刺さった腕を押さえた。

 もう、敗北どころではない。

 徹底的に、打ちのめされた。

 もう、弓が持てないほど、セレネは敗北してしまった。


「……っ」

「ほら、腕見せろ」

「……今の、なに」

「ん? 矢を放った瞬間、移動しただけ。お前は矢を放ったと錯覚しただろ? 実際は真横に移動して、お前の右腕を射抜いた……痛むぞ」

「っづ!?」


 ロイは矢を抜くと、手持ちの道具でセレネの腕に包帯を巻く。

 手当てを終え、仮面を外して素顔を晒し、セレネに言う。


「俺たちは行く。勝負は俺の勝ちだから、もう邪魔するなよ……行こう、エレノア」

「う、うん。ねえ今のホント何? わけわかんない」


 ロイとエレノアは走り出し、残されたセレネは動けなかった。


「……ロイ」


 天才を超えた神才……セレネはもう、ロイに挑もうなど考えることがなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] てっきりセレネも権能に似た能力を使うのかと思ったけど違ったかw ロイが想像よりも狩人としてしっかり強くて個人的には満足
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