炎聖剣フェニキアと炎魔剣イフリート③/シナリオ
ロイ、エレノアが同時に飛び出すと、ヴェスタとセレネも飛び出した。
「エレノア!!」
「ええ、シナリオだか何だか知らないけど……!!」
「ッ!!」
「えっ」
なんと、エレノアはセレネへ、ロイはヴェスタに向かっていく。
ササライのシナリオでは、ヴェスタはここで負け、セレネとロイの戦いとなる。そしてその陰で、七聖剣士とササライの戦いが始まる……と、デスゲイズは考えている。
その方が盛り上がるから……ササライなら、そうすると。
ロイは矢を番え、ヴェスタに向けて放つと同時に消えた。
「えっ」
真正面に飛んできた矢を叩き落とすと同時に、別方向から、別方向から、無数に矢が飛んで来る。
その速度、凄まじさにヴェスタは心底冷えた。だが、炎魔剣を振り矢を叩き落とす。
だが……ヴェスタの相手をしているのがロイなら、エレノアの相手をしているのはセレネである。
「ぐ、このっ……マジでロイみたいじゃん!! でもねえ!!」
エレノアは、矢を叩き落とす。
セレネの矢は、エレノアの心臓、喉、頭を狙って飛んで来る。
だが、エレノアは矢を落とす。
「……あなた」
「はっ!! 驚いた!? あたしはねぇ、八咫烏と毎日毎日毎日毎日毎日、模擬訓練してんのよ!! あんた、七魔剣士と模擬戦なんてしないでしょ!?」
その通りだった。
セレネは、七魔剣士と極力関わろうとはしていない。そもそも、魔剣の能力を見たのだって初めての相手もいた。
ロイとは違う。セレネは舌打ちをした。
セレネはロイと互角。なので、どのように攻撃するか、どこを狙うのかが、ロイと似通っている。常にロイと訓練しているエレノアが躱し、対処することは不可能ではない。
そして。
「ぐっ!?」
「ッ!!」
ヴェスタが、ロイの矢を右腕に受けた。
二の腕に矢が刺さり、ヴェスタは苦悶の表情を浮かべる。
そして、ヴェスタはロイを睨み──炎魔剣を構えた。
「『魔装』!!」
「待て!!」
セレネが叫ぶ。
だが、矢を刺された怒りにヴェスタはロイしか見えていない。
魔剣の解放。ヴェスタの全身を、赤黒い全身鎧が包み込む。
「『炎魔剣イフリート・バーナウロア』!! お前……殺す」
「お前には無理だ」
「黙れ!!」
ヴェスタが炎魔剣をロイに向ける。漆黒の炎が巻き起こるが……ロイは笑い、振り下ろされる剣を両手を広げ受け入れようとした。
そのまま両断……とはならない。
ロイは剣が振り下ろされる瞬間までその場にいて、紙一重でヴェスタの剣を回避する。
そして……剣を振り下ろし終わったヴェスタの前には。
「決めろ」
「ええ、『鎧身』!!」
ロイと入れ替わるように、『炎聖剣鎧フェニキア・ブレイズハート』を身に纏ったエレノアが、聖剣を振り被っていた。
「しまっ……」
油断。
頭に血が上ってしまった。セレネの言うことを聞けばよかった。負ける。
一瞬だけそう考えが巡った。だが、肩から脇腹に熱い線が入ったような感覚と共に、ヴェスタの鎧が砕け散り……攻撃の余波で背後の『吸魔の杭』も砕け散った。
ヴェスタは倒れ、吸魔の杭が砕ける。
ヴェスタが最後に見たのは、拳を合わせるエレノアと八咫烏の姿だった。
◇◇◇◇◇◇
ヴェスタが目を覚ますと、エレノアがいた。
「え、エレノア」
「あ、起きた?」
「な、なにを……」
ヴェスタの身体には、包帯が巻かれていた。
そして八咫烏が傍に。セレネはすでにいない。
「止血はしたから。じゃ、あとは好きにしたら? あたしたち、ササライのところに行くわ」
「……なんで」
「え?」
「なんで救ったの?」
当然の疑問だった。
デスゲイズも、ロイも同じ意見……放っておいて、すぐにでもササライの城へ行こうとデスゲイズは提案し、ロイもそうした方がいいと思っていた。
でも、エレノアが「傷の手当てをする」と言い、今に至る。
エレノアは、ニコリとほほ笑んだ。
「あんた、どうも悪い奴には見えないのよね。あのさ……全部終わったら、またやりましょ」
「ぜ、ぜんぶ……って?」
「あたしたちがササライを倒したあと。ササライを倒せば、あんたも自由でしょ。だったら、うちの学校に来たら?」
「……はあ?」
「……エレノア、俺も意味わからんぞ」
ロイも呆れそうになった。
敵、魔剣士を学園に誘うなど、意味不明にもほどがある。
だが、エレノアは言う。
「まあ、意味わかんないよね。あたしもそう思う……でも、あたしアンタと仲良くできそうな気がするの。ま、勘だけどね……よし、行くよ八咫烏!!」
「ああ。ったく、わけわからん」
『同感だ』
「そこうっさい。さ、行くわよ!!」
エレノア、ロイは行ってしまった。
残されたヴェスタは、包帯の巻かれた胸を押さえる。
「……へんなやつ」
不思議と笑みがこぼれてしまうくらい、変なヤツだと思うのだった。





