快楽の魔王パレットアイズ
魔界。
ササライは、トリステッツァの城で盤上遊具の駒を手に考えていた。
それぞれ、役割のある駒を操作して盤上の『王』と取る単純な遊びだ。
これを考えたのは人間であり、ササライは「こういう遊び」を考える感性や柔軟性は人間のが魔族より優れていると思っていた。
現に、このボードゲーム。『チェスフィールド』にハマっている。
ちなみに、相手は十五歳ほどの少女……ではなく、『快楽の魔王』パレットアイズ。
「あんたの手番よ。さっさとしなさいよね」
「まぁまぁ、こういうのってさ、次にどの駒を置くか考えるのが楽しいんだよ。そして、きみがどう出るかを考えて、ボクはさらに次の手を考える……ふふ、楽しいね」
「あっそ」
パレットアイズはツインテールを揺らし、グラスいっぱいに入っているカラフルな飴玉を一つ取り、口の中へ入れてコロコロ舐める。
パレットアイズは、飴を舐めながら大きく欠伸をした。
「───……あれ」
「ん?」
「ああ……死んだか」
「死んだ? なになに、あんたの負け? ふふふ、考えてもあたしに勝てないってわかった? ふふふ、盤上遊具みたいな『遊び』であたしに挑もうなんて甘い甘い。あたしは『快楽の魔王』よ? 楽しむこと、遊ぶことに関して、あたしの右に「違う違う」
ササライはパレットアイズの声を遮り、『騎士王』の駒を動かした。
「魔剣の試作を渡した、えーと……名前忘れちゃった。魔族くんが死んだのさ」
「はぁ~? あいつ、『伯爵』でしょ? 新人聖剣士に負けるとかダサッ」
パレットアイズは、『城塞』の駒を動かし、新しい飴玉に手を伸ばす。
「まぁ別にいいよ。生きても死んでもいいやつ……だった気がするし。それに、魔剣のデータ収集がメインだったし……」
ササライは指を鳴らすと、頭上に小さな黒い『穴』が開いた。
そこから、粉々になった粒子のような物が出てきて、ササライの傍で形となる。
それは、魔剣だった。
「うんうん。実際に聖剣と触れ合わせて正解だった。今まで気にしたことなかったけど、女神の聖剣ってすごいなぁ……ボクでも、同じものは再現できないや」
「あんたがそこまで言うなんてね。でも、使い手がヘボばかりじゃ意味ないじゃん」
「だね。歴代の所持者で、そこそこ使えたのは……なんだっけ?」
「あんた、ほんっとどうでもいいことは『忘れ』ちゃうわね。えーと……」
「あっはっは。パレットアイズも覚えてないじゃないか」
「う、うっさい「ティラユール、よ」
と、二人が向かい合うテーブルに、長いロングウェーブヘアの女性が来た。
「エドワード・ティラユールだったかしら? ふふ、いい男だったから覚えてる。トリステッツァにほんのちょっぴり、傷を負わせたこともある聖剣士ね」
「へー……で、そのトリステッツァは?」
「泣き疲れたみたいで、寝ちゃったわ」
「相変わらずガキよねー」
パレットアイズがそう言い、『翼竜』の駒を動かした。
ササライはにっこり笑い、『女帝』の駒を動かす。
「チェック」
「え……あ!? うそ、待った!!」
「駄目~……はい、きみの負け」
「キャァァァァ!? かか、快楽の魔王であるあたしが、遊びでぇぇぇ~……おのれササライぃぃぃ」
「あっはっは。これ、ゲームだけど頭脳戦みたいだしね。きみじゃ分が悪かったかな?」
「ばば、馬鹿にすんな!! くぅぅ……」
パレットアイズは、駒をバラバラにしてササライを睨む。だがササライは笑っていた。
バビスチェは、パレットアイズの頭をヨシヨシと撫でる。
「いいもん。こっちでは負けたけど、次の『手番』はあたしだし!! ふふふ、ササライが殺せなかった聖剣士、あたしがやっつけるんだから」
「お、強気だね」
「ふふ、パレットアイズってば可愛い」
「まったりすんな!! さーて、さっそく準備しようかしら」
パレットアイズは立ち上がり、チェスフィールドの駒を掴んだ。
「さぁ、いつも通り楽しく遊ぶわよ。あたしは『快楽の魔王』パレットアイズ!! 人間を思いっきり楽しませてやるんだから!!」
握り締めたチェスフィールドの駒。
手を開くと、『王冠』の駒が飴細工になっていた。
快楽の魔王パレットアイズ。
人間を楽しませ、人間で遊び、『快楽』へと誘う魔王。
『快楽』とは決して、楽しいことだけではない。





