炎聖剣フェニキアと炎魔剣イフリート②/聖炎、魔炎
エレノア、ヴェスタの剣が交差し、鍔迫り合いから離れた瞬間だった。
突如、上空からロイ、そしてセレネが現れ、エレノアとヴェスタの隣に並ぶ。
「え……」
「セレネ、どうしたの?」
互いに、現れた弓使いに驚いていた。おかげで戦闘は一時中断……ロイは言う。
「エレノア。ここからは俺も戦闘に参加する」
「え……こ、これから?」
「ああ。他の七聖剣士の戦いは終わった。気味が悪いくらい拮抗している」
「他の、って……」
「サリオス、アオイは勝ち。ララベル先輩、スヴァルト先輩、ロセ先輩は負け。ユノは引き分け。二勝三敗一分けだ」
「……じゃあ」
「ああ。お前が勝てば引き分け、負けたら聖剣士の敗北だ。まあ……あの杭を壊せば勝ちだが、剣士の戦いって意味では負けだ」
「そっか。じゃあ……負けられないね!!」
炎聖剣フェニキアから炎が燃え上がる。
ヴェスタも、セレネから聞いていた。
「わたしが負けたら引き分け?」
「ええ。勝てば、魔剣士の勝ち……」
「そっか。じゃあ、エレノアに勝たないと。でも……わたしとエレノア、全く同じ強さだから、決着まで時間かかるかも」
「大丈夫。そのために、私がいる」
セレネは、鉄の矢を一本手で弄ぶ。
ロイも矢を抜き、ナイフのように構え……ロイとセレネは同時に飛び出し、矢を剣のように合わせ、互いの喉に突きつけた。
「ロイ。この意図、わかるよね」
「ああ、嫌でもな……そっちの魔剣士には同情する」
『……やはり、そういうことか』
互いに離れ、矢を番えて同時に放ち、再び距離を取る。
一瞬の攻防に驚いたエレノアだが、ロイに聞いた。
「ちょっと、どういうこと?」
「……シナリオ通りってことだ」
「シナリオ?」
「ああ。エレノア、お前は間違いなく、あのヴェスタに勝つ。そうなれば、聖剣士と魔剣士の戦いはイーブン……そこで決着をつけるのが、俺とセレネだ」
「……は?」
「俺とセレネの戦い、その次が恐らく……お前ら七聖剣士と、魔王ササライの戦いだ」
「……な、なにそれ?」
ロイは確信、デスゲイズも確信した。
『ササライ。恐ろしい奴だ……この状況を演出するために、ここまで力の拮抗する者を用意するとは』
すると、周囲が一気に騒がしくなる。
地響きに近い揺れ。そして、数多くの気配。
ロイは察した。
「……援軍か!!」
やって来たのは、世界各国からの援軍……そして、ササライが追加で出した魔界貴族の支援だった。
戦場は再び混乱し、争いが続いていく。
◇◇◇◇◇◇
援軍、そして追加戦力の戦いが始まり、戦場は更なる混乱を極めていた。
その様子を、サリオスが確認。
「始まった……くそ!! 各国から支援が来たと思えば、魔族も追加戦力を投入だと!?」
サリオスは現在、サリオスの城へ向かっている最中だ。近くにちょうどいい丘があったので登り、戦場を確認したところ、魔族と聖剣士の戦いがさらに激しくなっていた。
そして、サリオスは見た。
「──まずい!! 王都に魔獣が……!!」
王都の外壁に、魔獣たちが取りついていた。
一か所だけではない。何か所も、多くの魔獣が昇っている。
町に入られるのも時間の問題。サリオスは歯噛みする……すると。
「今、できんのは魔王をブチ殺すことだ」
「スヴァルト先輩!!」
「気持ち、わかるけど……行くわよ」
「ララベル先輩!!」
ボロボロで、上半身裸のスヴァルトが、片腕を失ったララベルを担いでいた。
そして、その背後からロセが現れる。
「サリオスくん、無事でよかった……」
「ロセ先輩!! 怪我は……」
「うん。大丈夫。ありがとうね」
ロセはにっこり微笑む。少しだけ安心したのか、サリオスも力が抜けた。
四人は情報の共有をする。魔剣士に敗北したこと、勝利したことを伝える。
「……勝ったのは、オレだけですか」
「ごめんね……先輩なのに、負けちゃって」
「ハハっ、笑えねぇぜ。上級生であるオレらは無様に負けて、サリオスだけが勝利かい」
「……悔しいわね」
三人の先輩が悔しがっていると、ユノを担いだアオイが現れた。
「皆、ここにいたか」
「みんな、おつかれ……」
「アオイ、ユノ!! よかった、無事だったか!!」
サリオスが駆け寄る。二人は大きな怪我をしておらず、無事なようだ。
こうして、七聖剣士の六人が揃った。
情報をすり合わせ、ロセが言う。
「あとはエレノアだけ。わたしたちは予定通り、このままあの城へ向かい、至高魔王ササライを討伐します」
「……あのさロセ。こんな言い方したくないけど……勝てるの?」
ララベルが言う。
あちらには、自分たちが敗北した魔剣士最強の三人と、無傷の魔王ササライがいる。
今、ここにいる七聖剣士は六人。全員が傷を負っていた。
すると、サリオスが言う。
「それでも……オレたちは戦わなくちゃいけないんです。平和の、未来のために」
「へ、男前なこと言いやがって……まあ、オレも賛同するぜ。ここで引くつもりはねぇ」
「拙者も同じ意見だ」
「わたしもー」
「ちょっと、アタシが悪人みたいじゃん……まあ、そうだね。ロセ、ごめん」
「いいの。国は気になるけど……あっちは、聖剣士たちに任せましょう。きっと国を守ってくれる。そんな気がする」
ロセたち六人は頷き、同時に視線をササライの城へ向けた。
「行きましょう!!」
サリオスが一歩踏み出すと、残りの五人も歩き出す。
一度だけユノは立ち止まり……振り返った。
「…………エレノア、待ってるから早くね」
それと、ロイも。
ユノは言葉にはせず、愛する少年の顔を思い浮かべるのだった。





