氷聖剣フリズスキャルヴと氷魔剣フェンリル③/氷
「いくよ」
ユノは自身の周囲にいくつもの氷柱を作り身を隠す。
さらに、冷気を発生させ、半径二百メートル内を霧で満たした。
氷柱、冷気、そして氷結する地面……周囲がユノのフィールドへ変わる。
「『氷河世界』」
そう言い、冷気の中に隠れる。
だが、氷の狼こと『氷魔剣フェンリル・アダージュウルブス』となったアミュは、氷の尻尾を掲げゆらゆらと動かす……すると、尾の先が凍り付き、剣のような形状に。
そして、凍り付いた尾が一気に伸び、剣となった切っ先で周囲を一気に薙ぎ払った。
冷気で見えないが、氷柱が切断されズズンと倒れる音が周囲に響く。アミュの半径三十メートルほどの障害物が、一気に薙ぎ払われた。
「ギャハハ!! どこに隠れても無駄だ!! テメェはブッた斬ってかみ殺してやらぁ!!」
もう、窓際の令嬢のような雰囲気は消えていた。
怒りに我を忘れたアミュは、オオカミの姿で遠吠えする。
「ウォォォォォォォォォォン!! 殺してやるァァァァ!!」
『あなた、獣みたい。さっきまで可愛いお嬢様だったのに』
ふと、アミュの背後にユノが現れた。
アミュの『氷尾』が振られ、ユノが両断される……が、そのユノは霧に映った残像。
「こそこそしてんじゃねぇぇ!! 出て来いやガキィィィィィィ!!」
『あなた、お嬢様じゃないの? 貴族令嬢じゃないの?』
再び、真正面にユノが現れる。
アミュは飛び掛かり、ユノの喉を食い千切った……が、やはり残像。
『わたし、あなたのこと知りたいかも』
「ハッ……アタシはな、オオカミなんだよ!! 赤ん坊の時に捨てられて、オオカミに育てられた!! 親が死んで、ササライ様に拾われて、こうして魔剣士やってんだ!! アタシを捨てた人間を殺して、殺して、殺しまくるためになぁぁぁ!!」
『そうなんだ』
ユノが現れた。ユノが現れた。ユノが現れた。
全て、霧に映った残像。
アミュは舌打ちする。そして同時に、どこかで何かが砕ける音がした。
「───……しまっ」
アミュはようやく気付いた。
ユノはここにいない。
ここから先にある『吸魔の杭』を狙い……その破壊が成功した。
崩れる音は、杭がユノによって破壊された音だった。
◇◇◇◇◇◇
霧が晴れ、氷柱が全て砕け、ようやく目の前に本物のユノが現れた。
吸魔の杭は砕け散っている……アミュは舌打ちする。
「テメェ……ハナから杭を壊すことを」
「うん。最優先。でも、あなたのことも忘れてないよ。杭を壊したら倒そうって決めてた。これなら、勝っても負けても、わたしの勝ちだから」
最優先は『吸魔の杭』……勝利条件を満たしてから、アミュを倒す。
アミュは大きく息を吐いた。
「クソが。熱くなっちまった……まあいい。テメェ、本当の決着を付けようぜ」
「うん。あのね、アミュ……わたし、全力の技を出す。だから、アミュも全力でお願い」
「……あァ?」
ユノは、レイピアを構える。
半身で切っ先を向け、体勢を低くし、鎧から冷気が静かに噴き出していた。
全力、全身全霊の一撃を放つ、ユノ最強の技の構え。
「わたし、七聖剣士として、七魔剣士のあなたに勝つ。勝って、ロイに撫でてもらう」
「……ハッ、男か」
「うん。アミュ、恋はしたことある?」
アミュはお尻を突き上げ、前傾姿勢になり、尻尾を揺らめかせる。
人ではある。だが、オオカミに育てられたアミュは、二足歩行より四足歩行が自然な形。今、この構えを取ることが、アミュの最大の奥義を放つ構えであった。
「恋……ねぇよ。でも、恩義はある。ササライ様のために、テメェをかみ殺す」
「わたしは、勝つために、あなたを倒すよ」
そして───同時に動いた。
◇◇◇◇◇◇
ユノの鎧、『氷聖剣鎧フリズスキャルヴ・スカディ・アヴローラ』の背中、足、腰が一部展開し、そこから冷気が噴き出す。
ただの冷気ではない。ユノの魔力を変換した冷気であり、通常の冷気よりも冷たく、色は青みがかっている。
冷気の噴射が、まるで翼のように見え、それが推進力となり突撃する。
ユノ、最強にして最後の技。それは、レイピアによる『突き』だ。
単純にして、基本の技である突き。
だが、それを究極にまで高め、鎧と聖剣の力で底上げした突き。
「『青の突き』」
青の閃光となったユノの突き。
それに対し、アミュも同じ。
鎧の一部を展開し冷気を発生させ、それを推進力とし突進する。
だが、ユノと違うのは、冷気は推進力だけではなく、凍り付かせ、身に纏う鎧にもなる。
凝結し、直径十メートルほどの《氷の狼》となったアミュが、水色の冷気を放ちながらユノに向かっていく。
「『氷河狼冥牙』!!」
青の閃光、氷の狼が真正面から激突。
音が消え、衝撃波が周囲を破壊した。
遠くで見ていたロイも、一瞬だけ目を閉じてしまうほどの衝撃。
「ユノ……!!」
矢を番えるが、放ってはいけない気がした。
セレネも同じだろうか。眼を細め、矢を番えるだけで放たない。
そして、見えた。
「「…………」」
鎧が砕け、ボロボロになったユノとアミュが倒れ、二人は完全に気を失っていた。
死んではいない。
だが、動く気配もない。
相打ちにより引き分け……それが、ユノとアミュの戦いによる結果だった。





