氷聖剣フリズスキャルヴと氷魔剣フェンリル①/破壊と創造
「スヴァルト先輩……」
ロイは、血濡れのスヴァルトを見て顔をしかめる……そして、立ち去るアークレイに殺気を向けた瞬間、アークレイがロイのいる方を見た。
その鋭敏な感覚に、ロイは舌打ちする。
『別格だな。あいつは、魔剣士最強だ』
「ああ。七人の中で最強……あの、ララベル先輩やロセ先輩が戦った奴より強い」
『だが、お前の方が強い』
デスゲイズは断言する。
確かに、全ての権能をフルで使い、『八咫烏』として本気で殺しにかかれば、アークレイもグレコドローマもライハも、ロイは負ける気がしなかった。
デスゲイズは続ける。
『これで、二勝三敗……残りは、ユノとエレノアか。くそ、どうもササライに踊らされているような戦績だ』
「でも、やるしかないんだろ」
ロイは矢を三本同時に番え、一気に放つ。
アークレイに向かって飛んだ矢は、全て手前で弾かれた。
ロイは三本放つと同時に再び三本の矢を放ち、その矢は全てスヴァルトの手前で白い矢を弾き飛ばす。
セレネが放った矢を弾き落とし、ロイは言う。
「駄目だ。どうしても、七魔剣士まで矢が届かない」
『権能を使えば話は別……だが、使うつもりはないのだろう? それもササライのシナリオ通りだとしても』
「ああ、ここばかりはササライの手で踊ってやる。俺は狩人として、セレネと対等の力で勝利してやる」
現在、ロイとセレネは、七聖、七魔剣士の戦いに介入しようとする魔族を狙撃し、互いの剣士に援護するための矢を邪魔することしかできない。
完全に、弓の腕前は拮抗している。
『お前以外に、これほどの使い手がいたとはな……改めて驚くぞ』
「俺もだ」
こんな場所じゃなく、正々堂々と狩りで戦いたかった……という願いを口にすることなく、ロイは矢を番える。
「───……ユノ、負けるな」
視線の先にいたのは、ユノと対峙する貴族令嬢風の魔剣士だ。
◇◇◇◇◇
「ふふふ。あなたの氷、とても冷たくて気持ちいいですわねぇ……ユノ」
「どうも」
ユノの周囲にはいくつもの『氷柱』が立っている。だが、『氷魔剣フェンリル』の持ち主である少女……アイシクルミューゼことアミュの周囲には、砕けた氷柱しかない。
シルバーブルーのドレス、淡いブルーのロングヘア。装飾品も、立ち振る舞いも、まるで剣士に見えない。
だが、ユノと同じレイピアを手にしたアミュは、刀身を指でなぞる。
「氷魔剣フェンリル……わたくしの剣の能力は理解できまして?」
「……」
ユノは無言。だが、理解した。
水を凍らせ、氷の元である水を生み出す『氷聖剣フリズスキャルヴ』のユノとは違い、アミュの『氷魔剣フェンリル』の能力は、水を凍らせ、氷を砕く能力を持つ。
つまり、凝結のユノと違い、氷砕のアミュ……ユノの天敵ともいえる能力だ。
アミュは、優雅に微笑みながら一礼する。
「ふふ。あなたはわたくしの作り出した氷を受け、わたくしはあなたの氷を砕く……その意味がおわかり?」
「ずるい」
「違います!! あなたは、わたくしに勝てないということです!!」
プンプン怒るアミュ。
魔剣は、聖剣よりもあとに生み出された物だ。天敵のような能力を付与することも可能だろうとユノはムスッとする。
(わたしの氷、生み出しても砕かれちゃうなら──)
ユノはレイピアを構え急接近、アミュに刺突を繰り出す。
だがアミュは、ユノのレイピアの切っ先を、氷魔剣フェンリルの切っ先で受けた。
ミリにも満たない切っ先同士が正面からぶつかり、完全に停止する。
「フフ……」
「…………」
ユノは思う。
アミュ、強いと。
「『水祝』」
ユノは離れ、空間を斬り水を生み出す。そして、生み出した水を斬り凍らせた。
「『氷牙散斬』」
氷の牙が、何十、何百とも生み出されアミュに向かって飛ぶ。
だがアミュは、レイピアを構え、円を描くように振り下ろした。
「『アイスロスト』」
円を描くと、その軌跡に触れた氷が砕け散る。
氷魔剣フェンリルは、水分を凝結させるだけではない。その剣の軌跡上に触れた氷を砕く性質がある。
ユノの氷は瞬く間に砕かれ、アミュは無傷で剣を構えていた。
「おわかりかしら?」
「うん、ずるい」
「そうじゃありません!! あなたの氷は、何をしてもわたくしに届かないという事実です!!」
「むー……」
その通りだった。
剣技は互角、氷は全て砕かれる。
現時点で、アミュに攻撃を当てる手段がない……だが。
ユノはレイピアを構え、アミュに言う。
「だからといって、わたしが諦める理由なんてないよ。わたし、勝つもん」
「ふふ、だったら……どうするの?」
「偉そうに言うけど、あなたの攻撃だってわたしに当たらないよ」
「あら心外」
次の瞬間───ユノの右肩に、氷の牙が突き刺さった。
「───え?」
走る激痛。
ユノが顔を歪め、肩に刺さる異物を見て唖然としていると。
「簡単なこと。あなたが生み出し砕いた氷は、砕いた時点でただの氷……その氷は水分となり、あなたの周囲を漂う……その水分を再凝結させ、あなたの肩に刺しただけ」
「……」
凝結の遠隔操作。
ユノはまだ、剣で斬った水か、自分で生み出した水しか凝結できない。
能力の使い方も、格上。
「…………」
「いい顔。さあ、楽しいダンスの時間ですわね」
ユノは、動揺を悟られないよう、無言で剣を構えるのだった。





