地聖剣ギャラハッドと地魔剣アジ・ダハーカ②/格上
ボロボロのロセに対し、どこか困ったように笑う無傷のグレコドローマ。
『吸魔の杭』は破壊され、勝利条件としてはロセが満たしている。
だが、聖剣士としてのプライド、そして意地が、このまま引き下げることを拒否していた。
ロセは、ギャラハッドを大戦斧に変形させる。
「『鎧身』!!」
全身鎧、『地聖剣鎧ギャラハッド・スプンタ・アールマティ』。
重装甲の全身鎧。両肩に巨大な盾を装備し、両手持ちの大戦斧を構えた。
それを見て、グレコドローマは頷いた。
「聖剣士の意地。おなごながら実にいいもんだ……ははは、どうやらワシも舐め過ぎたようだの」
大槌を肩に担ぎ、グレコドローマは言う。
「『魔装』」
焦茶色の全身鎧。
重装甲という言葉がぴったりの、『地魔剣アジ・ダハーカ・ワイルドグランダー』の姿であった。
ロセは大戦斧を振り被り、グレコドローマも変形した大槌を振り被る。
「ロスヴァイセだったな。その名……覚えておこう」
「それは光栄。ですが……私は負けません!!」
互いに、頭上の位置まで武器を振り上げ、静かに接近。
威圧感で鎧に亀裂が入りそうだった。
そして、それぞれの射程に入ると同時に、それぞれの武器を全力で振り下ろした。
「『地帝ギャラクティカブレイク』!!」
「『地帝神の怒り』!!」
音が消失し、空間が爆ぜた。
それほど凄まじい衝撃だった。
そして……その場に残っていたのは。
「──……ははは、やりおるなあ」
衝撃波で右腕が千切れ飛んだ、グレコドローマだった。
近くの崖壁に、衝撃で吹き飛ばされたロセが突き刺さり、完全に気を失っている。
踏ん張りで負けたおかげなのか、五体満足で吹っ飛ばされたようだ。
グレコドローマは踏ん張ったおかげで、右腕が千切れ飛んだようだが。
だが、グレコドローマは笑っていた。
「はっはっは!! 愉快愉快!! ロスヴァイセよ、強くなれ!! 十年後にもう一度戦おうぞ!! うっわっはっはっはっは!!」
豪快に笑い、落ちた腕を拾い、ズンズンと歩き去った。
「…………ぅ」
意識が朦朧としていたロセだが、聞こえていた。
グレコドローマは、見逃してくれた。
将来に期待し、もう一度戦おうと言ってくれた。
『吸魔の杭』は破壊し、目的は達成した……が、それはグレコドローマが壊した。
剣士として戦ったが、勝てなかった。
「…………」
何一つ、ロセは勝てなかった。
もし、グレコドローマが何も言わず去ったら、ロセの心は折れていただろう。
だが……『もう一度戦おう』と言ってくれた。それだけで、聖剣士として救われた。
「…………ぅ、ぅぅ」
血に濡れ、敗北に汚れ……ロセは壁にめり込んだまま、静かに涙を流した。
◇◇◇◇◇◇
「…………ロセ先輩」
ロセが負けた。
『吸魔の杭』はグレコドローマが破壊し、目的は達成した。
だが、ロイは息を飲む。
『あのグレコドローマとかいう男……恐るべき強さだ。恐らく、単独でトリステッツァと渡り合うくらいの強さがあるだろう』
「七魔剣士でも上位……下手したら最強かもしれないな」
ロセが自信を失わないか心配したが、壁から這い出て『吸魔の杭』を確認し、先に進むロセが見えた。一安心……とまではいかないが、ロイはロセを心配するのをやめる。
すると、ロイを狙った矢が飛んできたので、素手で掴み、その矢を番え放つ。
狙った先は、セレネがいる場所。
『よそ見をするな、といった挨拶だな』
「ああ……あの野郎、俺の援護した矢を悉く弾いてやがる」
ロイは、何度もグレコドローマに向けて矢を放ったが、全て弾かれた。
同時に、セレネの放った矢もロイは全て叩き落としている。
七聖、七魔剣士が誰にも邪魔されずにタイマン勝負できる。それこそが、ロイにとって最大の援護射撃でもあった。
『ロイ、あの貧乳エルフを見ろ!!』
「貧乳エルフって……ララベル先輩か。お前、その呼び方したら殺されるぞ」
ロイが視線を向けた先にいたのは、双剣を振るうララベルと、アオイと同じ『刀』を振るう雷の魔剣を使う男……いや、女。中世的な何者かだった。
「ララベル先輩、それと……あの剣士」
『……強いな。チッ、七聖剣士も強くなったが、魔剣士もまた強い』
「だからこそ、俺が援護するんだろ。見てろ……セレネ、お前の援護のさらに上を行くからな」
権能を使わず、鉄の矢だけで援護を続けるロイ。
条件を五分にしたセレネとの勝負も、七聖剣士と七魔剣士の裏で続いていた。





