地聖剣ギャラハッドと地魔剣アジ・ダハーカ①/ドワーフ
アオイの決着を見たロイは、なんとも言えない気持ちになっていた。
「……アオイ」
『甘さが出た。非情になりきれなかったアオイのミス。これで援軍に来た家族が死ねば、アオイの心は間違いなく砕けるだろうな』
デスゲイズの分析は間違っていない。
ロイは何もできない。だが、アオイはゆっくり立ち上がり、涙を拭って走り出した。
まだ、折れてはいない。
走り、サスケを止め、家族を救うために戦うだろう。
アオイの判断がどういう結果を招くのか、それはまだわからない。
すると、デスゲイズが言う。
『集中しろ。次は……あの巨乳ドワーフだ。どうやら苦戦しているぞ』
「ッ!! ロセ先輩……!!」
ロイは矢を抜き番え、ロセが戦っている方に矢じりを向けた。
◇◇◇◇◇◇
地聖剣ギャラハッドの聖剣士ロスヴァイセことロセは、『大槌』形態に変形させたギャラハッドを振り回し、地面に叩き付けて構えを取る。
大柄、筋肉質、スキンヘッドのヒゲ顔親父ことグレコドローマは、嬉しそうに片手で槌斧を持ち、肩で担いだ。
「うわっはっは!! お前さん、ドワーフだな?」
「ハーフ、ですけどね」
ロセはニコニコ笑う。
ドワーフ。怪力の種族。ロセが小柄ながらに超巨乳で怪力なのは、人間とドワーフの混血であるが故だった。そのおかげで、純粋なドワーフから煙たがられている。
グレコドローマは言う。
「実は、ワシもだ」
「え?」
「だがまあ、ワシの場合……ドワーフと魔族のハーフだがなあ!!」
すると、グレコドローマのスキンヘッドに青筋が浮かび、手にしていた槌斧こと『地魔剣アジ・ダハーカ』を思い切り地面に叩き付ける。
「『ドワーフクラッシュ』!!」
「!!」
地面が揺れた。
地震。あまりの威力にグレコドローマの半径三十メートルが陥没。周囲の壁に亀裂が入り、なんと『吸魔の杭』にまで亀裂が入った。
「し、しまったああ!! ま、守れ言われたモンを自分で傷付けちまったわい!! わっはっは!!」
「……ッ」
ロセは冷や汗を流す。
奇しくも、自分と同じ技名……だが、その威力は桁違い。
同じドワーフでも、怪力で負けたことはない。純粋なドワーフより、混ざりものがあった方が力が強くなる場合もあると聞いたが、ロセはその典型。
だが、それはグレコドローマも同じ。
そして、魔族の血が流れているグレコドローマの方が、力が強かった。
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「おお? どうした、顔色が悪いぞ?」
「……ふふ、そう見えますか?」
ロセは息を吐き、大槌形態のギャラハッドを握りしめる。
ロセを見てグレコドローマは笑い、ロセと同じ構えで槌斧の槌部分をロセに向けた。
「「『ドワーフ』!!」」
近距離で、互いに槌を振り被り、限界まで力を込める。
隙だらけ……だが、互いに全力の一撃を繰り出そうとしているので、邪魔はない。
そして、恐るべき威力となった槌を、互いに全力で横振りした。
「「『ビッグバン』!!」」
槌がぶつかり合い、閃光が散った。
ぶつかりあった衝撃で衝撃波が生まれ、周囲の木々、岩石が粉々に砕け散る。
そして地面が砕け──……力負けしたロセが弾け飛び、近くの大岩に叩き付けられた。
叩きつけられただけじゃない。岩が砕け、ロセは『吸魔の杭』に激突。杭が砕け散り、地面を何度も転がり、ようやく停止した。
「──……っがぁっは!!」
吐血。
内臓がひっくり返り、破裂した。
何度も嘔吐し、血が混じった吐瀉物を吐き出す。
「し、しもうたあああああああ!! く、杭がああああああああ!!」
吸魔の杭が、砕け散った。
目的は達成した。ロセの敗北という形で。
だが……たとえ目的と達成しても、ロセは立ち上がる。
「ま、ちな……さい!!」
「ん?」
「まだ、勝負は」
「ワシの勝ちだ。お前さん……ワシと同じ混じりモンだろうが、人間と混ざっている以上、ワシには勝てんぞ。今ので、ワシは全力の六割程度だからの」
「な……」
格が違った。
グレコドローマは間違いなく、七魔剣士の中でも最強だった。
グレコドローマは、どこか困ったように笑う。
「だがまあ、ワシが今まで戦った中で、五指に入るくらいの怪力だ。ワシの父ちゃん、兄ちゃん、姉ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃんの次くらいの強さだの……あれ、五指じゃないの。わっはっは!!」
ロセは、ボロボロのまま立ち上がり、大槌を引きずって歩き出す。
グレコドローマは、困っていた。
「あ~……もうやめんか。おぬし、死ぬぞ? というか、吸魔の杭は壊され……まあワシが壊したんだが、壊れた。もう戦う理由はない。というか、ワシが戦いたくない」
「……」
「ワシはなあ」
「うるさい!!」
ロセは聞きたくなった。
剣士ではない。ただの『怪力おじさん』の戯言など、どうでもいい。
七聖剣士としてのプライドが……力で負けることを許さなかった。
「私は……負けない!!」
「……やーれやれ」
力と力の戦いは、まだ終わらない。