雷聖剣イザナギと風魔剣ルドラ①/仇敵
サリオス、ヴェンデッタの戦いの少し前。
ロイは七つの『吸魔の杭』がよく見える位置に陣取り、遠距離狙撃を繰り返していた。
サリオスの戦い……実は、サリオスは何度も『死』に瀕していた。
ロイと同等の狙撃技術を持つ弓士……セレネ。
セレネは実に二百以上の狙撃で、サリオスの心臓を射抜いていた。だが……それらすべての狙撃を、ロイは矢で叩き落としていたのである。
同様に、ロイもヴェンデッタを二百以上、殺していた……が、全てセレネに撃ち落とされていた。
「チッ……やりやがる」
『おいロイ。お前、なんで権能を使わない。ただの鉄の矢で、あいつの狙撃を全て撃ち落としている技量は大したものだがな』
「おまえも気付いただろ。セレネ……あいつの能力」
『ああ』
ロイと同等の狙撃能力を持つ弓士、『月光鳥』のセレネ。
ロイと同様に、権能のような力があると思っていた。
だが違う。セレネは『領域』こそ展開できるが、それ以外の力はない。
「あいつの力は『魔王聖域』だけ。狙撃はただの矢だ」
『そもそも、聖域を展開できる時点で、魔王と同等なのだがな……やれやれ』
ロイは矢を番え、セレネに向かって放つ。
だが、その矢はあっさりと空中で堕とされた。
「だから俺も、権能は使わない。俺の狙撃の技量だけで、セレネの上をいく」
『……やれやれ。意味不明だ。いいか、これは人類の未来がかかった最後の戦いなのだぞ? 卑怯な手を使おうが、敵を陥れようが、勝ったもの勝ちの世界だ』
「かもな。でも、もう決めたから」
『……ササライの喜びそうな展開だ。まったく』
デスゲイズは呆れた。
ようやく、七つの権能を全て使えるようになった。
権能の瞬時切り替えによるコンボ狙撃もできるようになり、戦術の幅も大きく広がった。だが……ロイはそれら一切を使わず、ただの矢だけでセレネと戦っているのである。
だが、サリオスの援護と救援を全てこなした。
それだけでなく、ヴェンデッタに対する攻撃も仕掛けていた。
『……やれやれ』
終わりのない成長。
それこそ、ロイの真の武器であり、恐るべきところ。
デスゲイズは、嫌な予感がする。
『……ササライのシナリオ通り進んでいる。だが……ロイ、お前はもうイレギュラーに成りつつある。奴のシナリオを崩す『矢』となった時、お前は……』
「──デスゲイズ!! あっち、アオイがあの飛び道具野郎と戦っている!!」
ロイはデスゲイズの言葉を最後まで聞かず、激しい戦いを繰り広げているアオイ、サスケに意識を向けるのだった。
◇◇◇◇◇◇
戦いは、最高潮に達していた。
両手に『巨大手裏剣』を持ち、超接近で斬りかかってくるサスケ。
そして、刀形態のイザナギで手裏剣の乱舞を全て捌くアオイ。
金属が擦れ合う音が周囲に響き渡る。
アオイとサスケ、全く会話なくただ斬り合う。
「久世雷式帯刀剣技、『雷帝夜叉』!!」
一瞬で納刀からの、連続斬り。
だがサスケは鼻で笑う。
「風魔手裏剣、『風舞踊』!!」
風を纏った手裏剣が高速で乱舞し、アオイの斬撃を全て弾いた。
アオイは舌打ち。風魔剣ルドラを手にしたサスケは接近。
先ほどから、この連続だった。
超接近しての応酬、離れての技を互いに弾き、再びの接近……戦闘が始まりニ十分ほど。全てこの展開であり、終わる気配もない。
「くっ……」
だが──……先に力尽き始めたのは、アオイの方だった。
女であるが故に、体力面でサスケに劣る。
少しずつ、技のキレが悪くなっていることに、当然のことながらサスケが気付いた。
「どうした、動きが鈍い!!」
「ッ!!」
刀が弾かれた瞬間、サスケの蹴りがアオイの胸に突き刺さる。
「がっ……!?」
アオイはそのまま倒れ、地面を転がった。
だが、すぐに立ち上がりイザナギを構える。
追撃はこない。アオイが訝しむと……サスケがアオイを睨む。
「今の感触……貴様、女か」
「……だから何だと言うのだ。拙者が女であることに不都合でもあるのか」
どうやら、胸を蹴られたのでバレたようだ。
男の硬い胸板ではない。胸にサラシを巻いて鎖帷子を着ているが、サスケには通じなかった。
「不都合などない。どのみち……クゼ家の者は皆殺しにする。知っているか? この後、人間側に援軍が来るそうだ……そこに、クゼ家の者たちも含まれている」
「──!!」
「ササライ殿は親切だ。人間側……ワ国の連中が素知らぬをせぬよう手配してくれた。ワ国からもこの戦争に参加するための兵士が送られてくる……ククク、貴様を殺したあとは、クゼ家の連中を皆殺しにしてやる。オレの両親を、妹を、弟を……家族を奪ったことを思い出させ、後悔させてからな!!」
「……貴様」
アオイは息を吐く。
「貴様の家族を殺したのがクゼ家。それに間違いはない……否定する気もない。貴様を憐れに思う。だが……だからといって、同じことをするつもりなら、容赦はしない」
「同じことをするに決まっている。復讐に意味はないなど腐った戯言を吐く愚か者もいるが、復讐は淀んだ心を浄化し、新たな道を進むための第一歩だ。オレの人生は、クゼ家を滅ぼすことで始まる」
「……」
アオイは言い返せない。
その通りかもしれない、そう思ってしまった。
だが……家族を、クゼ家を滅ぼされると聞き、黙っているわけにもいかない。
「拙者は……家族を守る」
「オレは、クゼ家に復讐する」
紫電が爆ぜ、暴風が舞う。
風と雷。決して交じり合うことのない二つの激突。
戦いは、まだ終わらない。