全てを決める戦い
七聖剣士と七魔剣士がそれぞれ対面している中、それ以外の聖剣士、兵士たちは魔界貴族や魔獣との戦いに入っていた。
戦争──……間違いなく、大規模な戦い。
人が死に、血肉が飛び、死体が転がる。
聖剣レジェンディア学園の生徒たち。新入生はともかく、二年生、三年生は実戦経験者……と言うが、まだ十代の子供に変わりはない。
「も、もう嫌だァァァァ!!」
「お、おい逃げるな!!」
聖剣を捨て、町に逃げる二年生もいた。
町の防衛に回っている新入生より、たった一年先に生まれただけの新人。
まだ、飛び散る血肉や転がる死体に、免疫がなかった。
そして、逃げだした生徒は、容赦なく魔獣の餌食となる。
「陣形を崩すな!! 生徒たちは後方、前衛の補佐に回れ!!」
指揮を執るのはアンジェリーナ。
元魔界貴族……だが、今は人間の味方であり、同胞に剣を向けている。
だが不思議と心は痛まない。
「憐れな魔界貴族……せめて、私が引導を渡す」
操作されているのだろう。意思もなく、ただ戦うためだけの『道具』となっている同胞を、せめて解放する……それがアンジェリーナの戦う理由。
魔族の全てが悪ではない。だが、目の前にいる魔族は悪もいるし、憐れな者もいる。
だから、迷わない。
「聖剣士、下がるな!! 我に続け!!」
アンジェリーナは剣を抜き、魔獣と魔界貴族に向かって走り出した。
◇◇◇◇◇◇
戦いは、町の外だけではない。
すでに一部の城壁が砕かれ、魔獣が何匹か町に入り込んでいた。
住人は王城に避難しているが……町の全ての住人が王城に避難できるはずもない。いくつかの避難所を作り、そこに避難していた。
現在、避難所の一つに、オルカとユイカの二人がいた。
「さ、下がれユイカ」
「ば、馬鹿言わないでよ!!」
目の前にいるのは、巨大なトカゲ。
町に入り込んだ魔獣の一体が、避難所を見つけ襲ってきたのである。
オルカは震える手で剣を構える。
「く、訓練はしたけど、実戦ってマジ怖いな……」
「わ、わかってる」
ピタピタと、トカゲは歩きながら避難所を見ている。
餌……イキのいい人間。舌をシュルシュル伸ばし、食事を始めようとする。
「ユイカ、ここはオレが……!!」
「馬鹿!! 一人でどうにかなるわけないでしょ!! 死ぬわよ!!」
死ぬ。
そう言われ、オルカは真っ青になる。
だが……肩の力が抜けた。
「死なねぇ……剣を捨てると決めても、オレは聖剣士だからな。だから、守ってみせるぜ!!」
「カッコつけ……でも、二人ならやれるわね!!」
いざ、戦おう。
オルカ、ユイカがトカゲに剣を向けた。
◇◇◇◇◇◇
避難所では、パレットアイズがシェンフーを抱っこし、椅子に座っていた。
「大丈夫。アイズちゃん、お母さんが守るからね……」
「…………」
『母親』を気取る人間の女ハルルベ。でも、パレットアイズは悪い気がしない。
自分を優しく抱きしめる『ぬくもり』に甘え、子供のようにふるまっていた。
シェンフーも気付いていた。魔王であろうが、何千年生きようが、パレットアイズの精神は幼く、子供と変わりない。
「ハルルベ……ね、怖い?」
「怖いよ。でもね、アイズちゃんが傷付いたり、泣いたりする方がもっと怖いの」
「……そうなんだ」
「私は、代わりだけど……母親だからね」
ハルルベは笑った。
パレットアイズは、 やはり暖かい気持ちになる。
外を見ると、若い聖剣士二人が、トカゲ相手に戦っているのが見える。
「……あれは無理かな」
「え?」
「なんでもない」
パレットアイズはハルルベから離れると、トイレに行くフリをする。
そして、トイレの窓から飛び出し、屋根に飛び乗った。
屋根の上から見ると、町のあちこちに魔族がいるのがわかった。
「シェンフー、やるわよ」
『……パレットアイズ様。まだ力が回復してないんじゃ』
「まあ、魔王宝珠はもうないけど、それでも私の魔力はそこらへんの公爵級千体以上の量があるわ。その辺の雑魚なんかに負けるわけない……ってか、ササライのヤツにやられた借り、町に入り込んだ雑魚で晴らさせてもらうわ」
パレットアイズが指を鳴らすと、オルカたちが戦っていたトカゲが爆散した。
いきなりのことであっけにとられるオルカ、ユイカ。
すでにパレットアイズは見ていない。
「『魔王領域』は使えないこともないけど……あんまり目立つのは嫌ね。仕方ない、少しずつ掃除するわ」
パレットアイズがもう一度指を鳴らすと、シェンフーに魔力が漲る。
人の姿に変わる……だが、子供ではなく、大人の姿で。
「シェンフー、手分けしてブチ殺すわよ」
「はい。ふふ、パレットアイズ様、人間のために戦うなんて、意外でした」
「……飴玉に変えるわよ」
「す、すみませんでした!!」
元魔王のパレットアイズと、その眷属となったシェンフーの、人間を守る戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
ササライは、忘却王城の玉座の間で、足を組んで楽しそうに笑っていた。
「いいね、本当にいい……」
命懸けの人々、そして魔族の戦い。
七聖剣士、七魔剣士のタイマン勝負。
そして、八咫烏と月光鳥の狙撃勝負。
全てが同時に始まった。
「人間の援軍もあと少しで到着……そのタイミングで、魔族側も追加戦力を投入する」
そうすれば、拮抗する。
ササライの読みでは。
「実力は完全に拮抗……恐らく、ボクが何もしなければ両方とも全滅かな」
だが、そうはならない。
「鍵はデスゲイズ。彼女がどこまでやるか、そして……人間が、どこまでやれるか」
ササライは笑う。
どこまでも、楽しそうに。
「でもまあ……最後に笑うのは、このボクだけどね」
至高魔王ササライの『ゲーム』は、まだ始まったばかりだ。