彼方永久・純白の至高魔王ササライ③/友達
ロイ、オルカ、ユイカの三人が配備された場所は、町はずれで民家のあまりない場所だった。だが、城壁から近く、ここからでも城壁外にいる聖剣士たちの気合が感じられる。
オルカは、ぶるっと震えた。
「何、あんた、ビビってる?」
「……ああ」
「え、認めるの?」
「噓ついても仕方ないしな。ああ、けっこうビビってるわ……こんな王都の外れで、戦闘とか皆無な場所に配置されて安心するより、外で始まる戦いのこと考えてビビってる」
「……オルカ」
「笑っていいぜ? やっぱオレ……聖剣士、向いてないわ」
そう言い、オルカは自分の聖剣の柄に触れる。
ロイも、ユイカも、何を言えばいいのかわからない。
だが、ロイはなんとか言葉を出す。
「オルカ。俺もビビってる……でも、最前線にいるエレノアやユノたちが気合入れてるんだ。俺だって、怖いの我慢して、できることを精一杯やる……俺は、そう考えてる」
「はは……ロイは強いな」
「強くなんかない。必死なだけだ」
ロイは腰にある木刀にそっと触れた。
『その必死さが、お前の最大の持ち味かもな。お前は、どんな時も諦めなかった……必死に、生きるために戦っている。我輩にはない強さだ』
デスゲイズが言う。ロイは何も言わずに木刀の柄を撫でた。
すると、オルカはユイカに言う。
「な、ユイカ。マジな話していいか?」
「え? な、なに……?」
「オレさ、お前の親戚の宿屋で働いてさ、本気で思ったんだ……オレ、宿屋で働きたい。いや……宿屋をやりたい」
「え……」
「こんな話していいかわかんねーけど……聖剣士は、強い意志があれば、聖剣を譲渡することができるんだぜ。聖剣に選ばれることは名誉なことで、強い意志で他人に譲渡できるなんてこと、学園じゃ教えないけどな」
「し、知らなかった……それ、ホントなの? ロイ、知ってた?」
「い、いや……」
ロイはデスゲイズの柄に触れる。
『オルカの言うことは本当だ。まぁ、一度所有権を放棄すれば、二度と聖剣士には慣れないがな』
オルカは続ける。
腰にある聖剣を、愛しそうに撫でながら。
「こいつがオレを選んだことは素直に嬉しい。でもよ……オレなんかじゃない、もっと相応しい聖剣士がきっといる。こいつも、そいつに振るってもらった方が、報われる」
「……オルカ、あんたどうするつもり?」
「どっかの金持ち貴族に話を持ち掛ける。『オレの聖剣を受け継がないか』ってな。聖剣を売った金で、将来的に宿屋を開業したい」
「ま、マジかよ……」
「そ、そんなこと」
「……お前らは本気だからな。こんな話、したくなかったけど……わりーな」
オルカはすまなそうに苦笑した。
だが、慌てて付け加える。
「あ!! 言っとくけど、学園の生活が苦しいとかじゃないからな? お前らと出会えたのは嬉しいし、最高のダチだと思ってる。でも……オレの人生は聖剣士じゃないってだけだ。そこんとこ勘違いすんなよ?」
「オルカ……」
オルカは、自分の道を見つけたのだ。
聖剣を譲渡する話は初耳だが、ロイは否定しなかった。
「それがお前の決めたことなら、俺は応援するぞ。というか……聖剣を譲渡できるなんて、初めて聞いたぞ」
「外法中の外法だからな。そもそも、聖剣の選抜を受けるのは全員、聖剣士になりたい奴らだけだからな……譲渡するなんて、考えもしないだろうぜ」
「…………」
ユイカは、黙ったままオルカを見ていた。
「ん、どしたユイカ」
「……自分の道、か。なんか、あんたらしいわね」
「そ、そうか?」
「ええ。宿屋ね……どこでやるの?」
「何も決まってない。まぁ、実家の領地でやるわけにはいかんし……そもそも、聖剣を譲渡なんかしたら間違いなく勘当だしな。まぁ、どのくらいで売れるかわからんし、王都の片隅とか……」
「……覚えとく」
「え?」
「ま、アタシもいろいろ思うことあるしね。手伝いくらいはしてもいいわよ」
「……ゆ、ユイカ、マジ?」
「まだ未定だけどね。アンタが自分の夢を実現できたら、ってこと!!」
「お、おお……おう!!」
オルカは気合を入れ、力強く頷いた。
なんとなくオルカとユイカがいい雰囲気だと察したロイは、口出ししない方がいいと思い黙り込むのだった。
◇◇◇◇◇◇
それから数十分後───……ついに始まった。
魔獣、魔族たちの雄叫び。そして、聖剣士たちの雄叫びだ。
「始まる……!!」
ロイは、拳を強く握りしめた。
オルカ、ユイカも緊張しているのか冷や汗を流している。
ロイは二人に言った。
「オルカ、ユイカ」
「な、なんだよ」
「な、なに? ロイ?」
「───……いいよな、デスゲイズ」
『……ああ』
ロイは木刀を『魔弓デスゲイズ』へ転換する。
いきなり弓に変わった木刀に、二人は仰天した。
「ろ、ロイ、それ……」
「俺は行く。オルカ、ユイカ……ここは、任せていいか?」
「行く、って……ロイ、まさか」
「『《黒装》』」
ロイの姿が八咫烏に変わった。
唖然とする二人に、ロイは続けて言う。
「黙っててごめん。実は俺……剣より、弓のが得意なんだ」
「ろ、ロイが……八咫烏!? マジで!?」
「うっそ……」
「悪いけど、ナイショな? じゃあ───……俺、エレノアたちのところに行くよ。ユイカ、オルカ……安心してくれ。二人の夢は絶対に叶う。俺が絶対に、未来を守るから」
そう言い、ロイは城壁を一気に駆け上がった。
最後に一度だけ二人の方を向いて軽く手を振り、そのまま城壁の外へ。
残された二人は、互いに顔を見合わせた。
「……ロイが、八咫烏」
「そういえば、たまにいなかったり、タイミングよく現れたりしてたよね」
「……マジかぁ」
「……ビックリね」
「ま、驚いたけどよ、あいつがダチってことに変わりないよな」
「そうね。あ、内緒って言ってたから、言いふらしちゃダメよ」
「しねーよ!!」
ロイの正体を知っても変わらない二人。
全部終わったら普通に出迎えてやろうと、二人は笑って頷いた。





