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魔界貴族伯爵位『魔甲』のベルーガ③

 さっそく、ロイは行動に移ろうとした、が。


『待て。その前に』

「なんだよ」

『……ふむ、ちょうどいい。おい、そこの木箱にあるローブを着ろ。ついでに……そこの仮面もだ』

「…………は?」


 意味の分からないオーダーに、ロイは思わず弓を見る。

 木箱の中には、確かに仮装用のローブや、よくわからない白に斑模様の仮面がある。とりあえず言われた通りに着る……のではなく、手に取った。


「なんでこれを」

『まあ見てろ……』


 すると、ロイの持っていたローブが黒く変色し、装飾も変わる。

 仮面もデザインが変わった。


「な、なんだこれ?」

『お前と契約したことで、我輩が本来持つ力の一部が解放された。これは『無から有(クリエイト)』という、無から有を、有から有を生み出す力。チ……まだ不完全だな』

「おおお……で、なんだこれ?」

『いいから着ろ』

「……まぁ、いいけど」


 パーティー用の衣装の上からローブを着て、仮面を被る。

 何の変哲もないローブと仮面だ。ロイは首を傾げる。


『そのまま『擬態(ステルス)』と命じてみろ』

「?……『擬態(ステルス)』……って、うおっ!?」


 なんと、ロイの身体が薄ぼんやりとしていた。

 驚いて壁に手を突くと、身体の色が壁の煉瓦と同じように色が変わった。

 

『『擬態(ステルス)』……擬態魔法を付与したローブと仮面だ。お前の野生の獣じみた隠形と合わせれば、魔界貴族だろうと探すことは難しいだろうな』

「すげえ……」

『お前の武器は弓。つまり、狙撃だ。真正面から挑むのではない、気配を消し、相手を観察し、必殺の一撃を叩きこむ……お前の姿を見られるわけにはいかない。少なくとも、今はな』

「今?」

『ククク。我輩と契約したことで、第一の権能が使えるはずだ。それを使い、表にいる魔界貴族を始末しろ』

「わかった……おっ」


 すると、ロイの背中に黒い矢筒が現れた。

 デスゲイズの力による『無から有(クリエイト)』の力だ。


「すごいな……なぁ、その『無から有(クリエイト)』って、俺にも使えるのか?」

『これは我輩の固有能力みたいなモノだ。お前には使えん』

「ふぅん……まぁ、いいか」


 そう言い、ロイは首をコキコキ鳴らし、弓の具合を確かめ、ローブに付いていたフードを被る。


「じゃあ、狩りに行くか」


 そして、ロイは見張り塔の螺旋階段を上る。

 

『おい、今のお前なら出口をこじ開けることも』

「いいんだよ。ここは見張り塔だろ? 一番上から、狙撃位置を確認する。ここまで連れて来られた時にある程度の位置は把握しといたけど、正確な位置情報が欲しい」

『……わかった。ここはお前に任せよう』

「ああ」


 ロイは、冷静だった。

 デスゲイズは、力を得たロイが扉をこじ開け、魔界貴族の元へ飛び出すのかと思っていたのだが……弓を手にした瞬間から、顔つきが違う。

 獲物を狩るために、何をすべきか。

 それだけを考え、動いている。

 剣術授業では全くできなかった魔力操作も、剣術授業の教師シヴァとは比べものにならない精度で行使している。螺旋階段を数十段飛ばしで登り、あっという間に見張り塔の上に来た。


「…………」

『ほう、さすがに高いな……パーティー会場は』


 ロイは、数度首を振っただけで地形を把握。見張り塔の手すりの上に乗り、パーティー会場の方向を見ていた。

 パーティー会場には、六角形の半透明な何かで包み込まれていた。


『これは「魔甲」……そうか、ササライの子飼いの魔界貴族だな。確か……ベルーガだったか。チッ、伯爵級相手とはな。しかも……妙な気配だ。ベルーガだけじゃない、ササライの気配も薄いがある』

「…………」

『おい、どうす……ッ!?』


 濃密な魔力が、ロイの右目に集まっていた。

 魔弓を構え、矢を矢筒から一本抜く……ただの矢ではない、ロイが今まで使用したことのある矢を全て複製できる、とっておきの矢筒だ。デスゲイズは説明しなかったが、ロイは聞くまでもなく理解していた。

 そして、矢を番え、パーティー会場に向ける。


『お、おい!? あの魔甲は絶対防御の守りだ。さらに、お前の着ているコートと同じ、偽装効果もある……お前は、我の仮面越しだから見えているだろうが、表からは楽しそうにパーティーをする一年生が見えているはずだ』

「…………」


 聞こえていない。

 恐るべき集中力だった。

 そして、ロイはポツリと言う。


「もう少し、見たいな……」

『───ッ、なっ!?』


 あり得ないことが起きた。

 ロイの眼が真っ赤に染まり、瞳孔部分が金色に染まった。


「……お、見える。すごいな、この眼」

『…………ば、馬鹿な!? わ、我輩の『万象眼(ばんしょうがん)』を、我輩の許可なしに行使するだと!? 我輩の許可を待たず、我輩の中から無理やり引きだすとは……な、なんて奴だ』


 万象眼。

 今、ロイの眼には『パーティー会場の中にいる羽虫』の視点で見えている。

 ロイが視認した生物の視界を、ロイが共有することのできる眼。

 ロイのいる見張り塔からは、パーティー会場である講堂が見える。が……実際に見えたのは、講堂の壁と屋根、そしてステンドグラスだ。

 ロイは眼に魔力を集め、ステンドグラスの内側に止まっていた羽虫を捕らえた。その羽虫はちょうど、パーティー会場を見下ろすようにジッとしている。


「…………」

 

 そこで、ロイは見た。

 真っ蒼な顔で震える男女。失禁し気を失っている者もいれば、ガタガタ震えている者もいる。

 壁に激突したのか、サリオスが顔面から血を流して気絶しているのが見え、オルカはユイカを守るように壁となり気絶。

 ユノは、恐怖で失禁したのか、水たまりの上で茫然としていた。

 そして、エレノア。


「……………………………………」


 エレノアは、ドレスを破かれ、首を掴まれていた。

 掴んでいるのが、ベルーガ。

 ニコニコしながら、エレノアに何かを言っている。エレノアは涙を流し、口元が動いた。

 その口元を見て、ロイは知った。


『ロイ……』


 幼馴染の少女は、ロイの名を呼んだ。

 ドレスが破かれ、形のいい大きな胸が見えている。普段のロイだったら真っ赤になって顔を反らしていたが……今は、違う。

 恐ろしく、心が冷えていた。

 仮面越しでは見えないが、額に青筋が浮かんでいる。


『……っ』


 デスゲイズですら、凍り付くような殺気だった。

 ロイは、キレている。

 怒り、喚くことはない。ロイはキレると冷静になり、逆に冷える性格のようだ。

 だが、その殺気も一瞬。


「…………」


 ロイはしゃがみ、姿勢を安定させる。

 『擬態』のローブと仮面が、ロイの姿を周囲と同化させ、野生の獣のように存在が希薄になる。まるで、狩りをする直前の獣。

 『万象眼』を解除し、デスゲイズに聞く。


「デスゲイズ。あの魔甲だったか? 物理的なダメージは?」

『無効化する。魔法も、聖剣の攻撃も防げるだろう』

「外から衝撃を与えたら、あのベルーガとかいう奴は気付くか?」

『ああ。あの魔甲は六角形の盾の集合体。一つ一つ、ベルーガが操作している。わずかな衝撃でも、奴は気付くだろう』

「好都合だ」

『え』


 次の瞬間、ロイは矢を放った。

 高速で飛ぶ矢が、魔甲の一つに激突。当然だが魔甲には傷一つ付かず、矢は折れて消滅した。


『な……』


 すぐにロイは『万象眼』を発動し、羽虫の視点でパーティー会場内を見る。すると、ベルーガがエレノアから視線を外し、矢がぶつかった魔甲を見ていた。


「…………」

『お、おい、何を』


 ロイは、矢を三本同時に抜き、口に一本咥え、二本同時に番え……放つ。

 そして、口に咥えた一本を素早く番え、上に向かって放った。

 二本の矢の内一本は魔甲に激突して折れたが、もう一本は軌道を変え、パーティー会場入り口近くの壁にぶつかった。

 ベルーガは、矢が当たった方の魔甲に視線を向ける。

 口元が動き、エレノアから手を離す。

 エレノアは床に落ち、ゲホゲホとむせた後に胸元を手で隠す。エレノアも、何が起きているのかとベルーガを見て困惑しているようだ。

 

『ロイ、まずいぞ。ベルーガが外に出ることはないが、魔甲に何かがぶつかったことは気付いている。これ以上、挑発するのは』

「俺に任せるんじゃなかったのか? 少し黙ってろよ」

『……この、馬鹿が』

「それに、切り札はある。お前がくれた『権能』がな」


 ベルーガは、ニコニコしたまま魔剣を手に会場入り口へ向かっていた。

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