ロイvs七聖剣士
ロイは『狩人形態』のまま、向かってくるサリオスを慎重に観察する。
(速い)
まっすぐ、乱れのない足運び。
剣を振るう動きもスムーズで迷いがない。手加減など微塵もしておらず、魔界貴族を相手にしているような迫力もある……実際サリオスは、八咫烏を魔界貴族と想定して戦っていた。
一直線の振り下ろしを、ロイは半歩ずれただけで躱す。
「なっ」
『驚いている暇はないぞ』
ロイは一瞬で転換。
奇術形態に転換し、サリオスの足元に矢を放つ。
『「狂反転の矢』───『弾力』」
「え、っっっわ!?」
ボヨンと、サリオスの立っていた地面が沈みこみ、そのまま反動で飛び上がってしまう。
ロイは『狩人形態』に転換し、矢筒から訓練用のゴム矢を抜いて装填。空中にいるサリオスに向けて連続発射した。
「うわっ、いてて!? うおぉっ!?」
ゴム矢を喰らいつつも、なんとか態勢を立て直して着地……だが、すぐそばに矢をつがえた八咫烏が、サリオスの頭に向けて構えていた。
『俺の勝ち……三分、必要なかったな』
「……っく」
『動きはいいけど、まだ隙が多い。二手、三手先を読みながら行動するのは戦闘の基本だぞ。最初の一太刀で俺を切り捨てるつもりだったようだけど、躱された後はノープラン……自分に自信があるのはいい。でも、慢心もあるな』
「…………」
『まだまだ甘い。いや、甘すぎる。今のはゴム矢だったけど、次は訓練用の模擬矢を使う。刺さりはしないが、当たると骨くらい折れるからな』
そう言い、八咫烏は弓を下した。
「……強い」
アンジェリーナがボソッとつぶやく。
スヴァルト、ロセ、ララベルも同じことを考えていた。
「あの野郎……なんて目ぇしてやがる」
「ええ。サリオスの動き、かなり速かった。迷いもなかったけど……それ以上に、八咫烏。あいつ、太刀筋を完全に見切って紙一重で躱していたわ。サリオスが『必ず斬れる』って思う瞬間まで引き付けてからの回避行動……」
「……うふふ、これはいい訓練になりそうねぇ?」
ロセが指をパキパキ鳴らし、大戦斧形態の地聖剣ギャラハッドを肩に担いだ。
◇◇◇◇◇
三時間後。
八咫烏───ロイは、肩で息をする七人を見下ろしていた。
誰も立てず、信じられない者を見るような目で見ている。
(……あれ、終わり?)
ロイは全く疲労していない。
むしろ、準備運動レベルの疲労。
思わず、口に出てしまった。
『……終わりか?』
すると、エレノアが言う。
「あんた、マジで……どういう体力してんの!? 最初は一人ずつ相手してたのに、最後は七人全員で、しかも……息も切らさず、攻撃躱してさ!! 余裕ぶってるの!?」
『そ、そういうわけじゃ』
間違いなく、エレノアたちは強くなった。
剣術だけじゃない。魔法も、腕力も、速度も上がった。
だが、それ以上に。
『気づいたか、ロイ』
(…………)
『エレノアたちは間違いなく強くなった。だがそれ以上に、お前が強くなった。我輩の権能を使いこなし、状況を見極めた適切な攻撃、最低限度の動きで回避し体力の節約、そして急所を狙った的確な狙撃……お前は強くなった。いや、強くなりすぎた。エレノアたちが追い付けないほどにな。ククク、うれしい誤算だぞ』
(…………でもこれじゃ、俺の修行にならない。よし……今のエレノアたちなら)
ロイは手を合わせ、わずかにずらす。
「『魔王聖域展開』」
「「「「「「!!」」」」」」」
ロイの聖域が展開されると、擦り傷や打撲が回復し、体力も全開する。同時に、ロイの力が七割ダウン……七人の誰かが、ロイに明確な敵意を抱き、さらにロイも七人に敵意を抱いた。
『お前、聖域の効果を自分にも及ぶようにしたのか?』
(こうしないと相手にならないからな。それに……いいね、この緊張感。さっきまでの数倍強く感じるし、俺の力が一気に弱まった。それに、聖域を展開しているから権能は使えない。この状態でエレノアたち七人同時に相手に勝てると思うか?)
『不可能。と言いたいが……今のお前を見ると、どうもやってしまいそうだ』
(そういうこと)
ロイは仮面の下で笑い、弓を構えた。
『この状態で俺を倒してみろ。これで俺を倒せないようなら……忘却の魔王なんて、絶対に倒せないからな』
「八咫烏。あんたマジで───痛い目に合わせるからね!!」
最初に飛び出したのはエレノアだ。
炎聖剣フェニキアの炎が、先ほどと比べ物にならないくらいに膨れ上がる。聖域の効果により身体能力が七倍に上がっており、飛び出す速度もけた違い。
『っ!!』
エレノアの斬撃をロイは辛うじて躱す。
一気に緊張感が増し、ロイは冷や汗を流しつつ笑う。
『聖域の効果は三十分。三十分以内に、お前たち全員を倒してみせる』
「やれるモンならやってみやがれ……」
「言っとくけど、後悔しないようにね」
「うふふ、その仮面、ひっぺがしちゃう」
スヴァルト、ララベル、ロセが聖剣を構える。
「八咫烏、倒す」
「さて、拙者も久しぶりに本気を出そう」
「───今度こそ、倒す!!」
ユノ、アオイ、サリオスも剣を構える。
そしてエレノアが、ロイに向かってフェニキアを突き付けた。
「覚悟しなさい。マジでぶっ倒すからね!!」
ロイは、びりびりと感じる闘気に、体を震わせた。
『ようやく、お前の特訓ができそうだな』
(ああ。って……負けたら正体バレちまうぞ)
『フン、負けるなよ』
(当然。さぁ、三十分以内にケリをつけようか)
ロイは矢筒から鉄の矢を抜き、魔弓デスゲイズに番え構えた。