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学園へ

 パレットアイズはこのまま、家に置くことにした。

 ボノバンの妻であるハルルベが様子を見に来るなり「かわいい~」とパレットアイズを抱きしめ、今はもう家を出た娘のおさがりを着せ始めた。

 人間の女にべたべたされ、てっきり嫌がると思いきや。


「……別に、世話になるし気にしないわよ」

『殊勝なことだ。いいか、何度でも言う……人間を害した瞬間、貴様は殺す。ロイ、その時は責任を持ってお前が殺せよ。情けをかけることは許さんぞ』

「わ、わかってるわよ」

「わかってるって……」


 帰り際、デスゲイズが念押しする。

 ロイは、足元にいるシェンフーを抱っこして言う。


「シェンフー、お前はここにいて、パレットアイズを守ってくれ」

『え……』

「ちょっと、さすがにそこまで弱ってないわ」

「じゃあ言い方変える。パレットアイズの話し相手になってくれ。俺も、時間が空くなら顔出すからさ」

『わかった。いいぞ』

「……まぁ、うれしいけどね」


 ロイはシェンフーをパレットアイズに渡す。

 パレットアイズは、シェンフーを抱きしめモフモフしていた。


「じゃ、俺は学園に戻る。何かあったら呼べ……といいたいけど、聖剣士にお前の存在がバレないように動けよ」

「ええ。ヘマしないわ」

『ちゃんと会いにこいよ。いっぱいなでろよ』

「はいはい」


 ロイはシェンフーを撫で、家を出た。

 パレットアイズがロイの背中を見送っていると、隣の家からボノバンの妻ハルルベが出てきた。


「アイズちゃん、シチュー作ったから食べにおいで。そっちのかわいいトラちゃんもね」

「あ、はーいっ」

『……パレットアイズ様、うれしそう』

「べ、べつにそんなんじゃないし。ほら、行くわよ」


 ロイも、シェンフーも、デスゲイズも考えないだろう。

 まさか、パレットアイズがハルルベに『母性』を感じ、実の母親のように慕っているとは。

 パレットアイズは、外見こそ幼いが、魔族の中でもかなりの年齢だ。

 人間と違い、身体が老いることで精神も老いていくような存在ではない。パレットアイズは、十五歳程度の年齢のまま、悠久の時を生きている。

 両親は存在した。だがもう名前も顔も覚えていない。

 部下である魔族の外見は大人ばかり。しかも、部下であるから全員が頭を下げる。

 こんな風に、自分を子ども扱いする『大人』は、パレットアイズにとって新鮮そのものだった。


「食べたら、クッキーをあげましょうねぇ」

「クッキー!? やったぁ!!」

「ふふ……さ、トラちゃんも」

『ぐるる』


 パレットアイズは、ハルルベの腕に抱きついて、嬉しそうに微笑んでいた。


 ◇◇◇◇◇


 ロイは学園に戻り、自室へ向かう。

 まだ秋季休暇の真っ只中だ。学園にも寮にも人があまりいない。

 生徒は皆、帰省だろう。

 ロイは、自室に戻るなりデスゲイズをベッドへ置く。


『む、何をするんだ?』

「課題。よく考えたら、修行ばかりしてる場合じゃない。出された課題やらないとまずいぞ」

『そんなのどうでもいいだろう』

「よくない!! 試験もやらないから、この課題やって提出しないと座学の成績がゼロになる」


 すっかり忘れていたロイ。ペンを手に、課題に打ち込み始める。

 すると、自室のドアがノックされた。


「はーい」

「失礼する。ロイ殿……やはり、戻ってきたか」

「お、アオイか。どうした?」

「どうした? ではないだろう……七天島から戻ったのだ。顔くらい見せてくれてもいいだろう?」

「あー、悪い。課題のこと思い出してな」

「む、そうか。そういえば課題が出ていたな。よし、せっかくだ、一緒にやらないか?」

「いいね。じゃ、談話室でやるか」

「うむ」


 寮には談話室がある。生徒が集まり勉強をしたりするにはいい場所だ。

 さっそく道具を持ち談話室へ。すると、サリオスがいた。


「あれ、ロイじゃないか」

「殿下」

「あはは。殿下はやめてくれって。サリオスでいいよ」

「あー……じゃあ、サリオス」


 そういえば、ロイはずっと「殿下」呼びだ。今更直すのも照れくさい。

 サリオスも、課題をやっていたようだ。

 ロイとアオイの手にある課題を見て「お」と言う。


「きみたちも課題か。あはは……修行ばかりで忘れていたよ」

「うむ。その通りだ」

「お、俺もだ。あはは」

「せっかくだし、三人でやっちゃおうか」


 サリオスが、テーブルをポンポンたたく。

 ロイ、アオイはサリオスの前に座り、課題を開いた。


「秋季休暇、あと三週間くらいあるんだよな」


 サリオスが言うと、ロイとアオイが顔を見合わせる。


「だよな。愛の魔王の件でだいぶゴタゴタしてるらしいけど」

「うむ……自主退学者も多く出た。学園側は、いろいろ大変なようだ」

「……それに、『忘却の魔王』の手番も始まる。おそらくだけど……次の戦いは、国内の聖剣士も前線に駆り出される気がする」


 サリオスの手が止まる。

 ロイとアオイも、そんな予感はしていた。

 忘却の魔王ササライ。ロイしか知らないが、今ササライの手には、四大魔王全ての力が集結している。

 さらに、魔界全土を覆う『聖域』を展開し、いろいろ準備を進めているようだ。

 ロイは二人に聞く。


「殿下……じゃなくて、サリオス。あとアオイ。二人は修行どうだった?」

「うむ。拙者、前よりも強くなったと確信している」

「オレも。こっちに戻ってきてわかったけど……体がすごく軽いし、聖剣も軽く感じる。きっと、七天島の環境に慣れたおかげだ」


 サリオスは自分の胸をどんと叩く。


「あとは、学園で完璧に仕上げるさ。アオイ、午後は模擬訓練に付き合ってくれ。エレノアたちも呼ぼう」

「心得た。ロイ殿、そなたは」

「じゃあ、俺も見に行こうかな」

「うむ。では、課題をさっさと終わらせようか」


 ロイたちは、本気になって課題を仕上げ、訓練に向けて燃えるのだった。

 秋季休暇も、もう少しで終わる。

 忘却の魔王ササライが動き出すまで、残り四十五日。

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― 新着の感想 ―
[一言] >いっぱいなでろよ すっかりペットが板についたなシェンフー これはもう「神虎」じゃなくて「神猫」でいいんじゃないかな >座学の成績がゼロになる 剣が使えず実技が壊滅的だから死活問題だな
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