グレシャ島から帰還
グレシャ島から再び『転移石板』で戻ってきたロイ、シェンフー。
今回はもう一人、パレットアイズも一緒に戻ってきた。
しかも、転移した場所は、トラビア王国郊外にある、ロイの狩場でもある森。
「お、戻ってきた……ここ、トラビア王国か?」
『転移場所をいじるくらいなら造作もない。だが、ここには転移石板がないから、再びグレシャ島まで行くためには山登りが必要だがな』
「…………」
『パレットアイズ様。どうしました?』
シェンフーを抱っこするパレットアイズは、トラビア王国の外壁をじっと見ていた。
「あたしが一度、襲った国なのよね……まさかここに隠れるために戻るなんて、考えもしなかった」
「ははは。さーて、まずは家を買わないとな。グレシャ島の素材を売って資金作るか。買取屋に行くぞ」
「かいとりや?」
「その名の通り、素材を買ってくれる場所」
『ちなみに、ロイは常連だ』
ロイは変身を解き、普段着へ戻る。
パレットアイズにはローブを着せ、シェンフーはリュックの中へ。
パレットアイズの外見は十五歳くらい。ロイと並べば兄妹に見えなくもない。
「まず、素材を売って、お前の服とか買う。そのあとに家を買おう……なぁデスゲイズ、この素材マジで売れるのか?」
『知るか。だが、質は間違いなくいいはず。最悪の場合、我輩がオリハルコンを出してやる』
「家……」
「悪いけど、豪華なのは無理だぞ」
「わ、わかってるわよ」
入国し、さっそくロイ馴染みの素材買取屋へ。
王都はずれにある大きな買取屋だ。ロイは質のいい肉や魔獣の素材をよく卸すので常連。さらに上客でもあったので、優先して案内された。
しかも、対応するのは店主直々だ。スキンヘッドにガチムチの買取屋、ボノバンが二カッと笑う。
「よおロイ。今日は何を……おうおう、かわいい子だな。お前の彼女か?」
「いや違いますし。あの、ボノバンさん。今日の素材、牙や爪だけなんだけど……」
「ほ、珍しいな。見せてみろ」
パレットアイズは『彼女』と言われてムスッとしていたが無視。
ロイは収納から、大量に狩った魔獣の爪や骨を出して並べた。
さっそく、ボノバンは査定する。
「……マジか」
「どうかな?」
「お前、これどうした?」
「……内緒」
「っっ……はぁ~、お前、マジでお前、ったく」
ボノバンは頭を抱える。
そして、牙の一つを手に取って苦笑した。
「これ、ゲノハルコンだぞ。オリハルコンより劣るが、ミスリルやダマスカスなんて鋼鉄とゼリーくらい差がある物質だ。ゲノハルコンを牙や骨に持つ魔獣なんて、魔界か七天島の魔獣くらい……お前、どうやって七天島に行った?」
「えーと」
「まぁいい。問題は、こいつがクソ山ほどあるってことだ。ゲノハルコン製の装備なんて、トラビア王国の精鋭聖剣士ですら、鎧の一部とかにしか使えねぇ」
「……やばい?」
「いや、大喜び。裏ルートで捌けば、めちゃくちゃ大金持ちだ」
「じゃあ、買ってくれる?」
「ああ、ってか……オレんとこでよかったな。こんなもん、普通の素材買取屋に出したら店が吹っ飛ぶくらい驚くぞ。あー……ロイ、これに対してまともに金は払えねぇ。うちもぶっつぶれる」
「お金も欲しいけど、今は家が欲しいんだ」
「あ? 家?」
「事情は言えないけど、この子が住む家を手配してほしい。普通の家で、防犯がしっかりしてる場所」
「……ワケありね。まぁいいぜ。あと、売るのは牙の一つでいい。家買って生活費渡すだけでも、この牙一本で十分すぎる。残りは持って帰れ」
「えー、邪魔なんだけどな」
「いいからもってけ。と、家か……ああ、オレんちの隣が空き家だったな。そこでいいか? 日中はオレの妻に世話させる。メシも三食つけてやる」
「お、いいね。パレッ……お前も、それでいいか?」
「いいわ。文句なんて言える立場じゃないし。でも……お菓子は欲しいかも」
こうしてパレットアイズは、素材買取屋のボノバンの家の隣にある空き家を購入。住むことになった。
手続きはすべてボノバンに任せ、今日は宿に泊まることに。
二日後から住めるようにするとのことだ。ロイはボノバンから現金をもらい、パレットアイズの服や下着など、生活用品を購入する。
そして、ボノバンが手配した宿屋へ向かったのだが……なぜか別々ではなく一室のみだった。
パレットアイズは、部屋に入るなり服を脱ぎだす。
「な、おま、なにを!?」
「シャワー浴びるのよ。なに? それも許してくれないの?」
「いや、いいけど……いきなり脱ぐな。驚くだろ」
「別に、人間に見られてもいいし。じゃ、お先」
パレットアイズは、シェンフーを抱っこしたままシャワールームへ。
シャワーを浴びている間、ロイはデスゲイズに聞いた。
「な、デスゲイズ。パレットアイズのことで忘れそうになったけど……俺、強くなったのか?」
『グレシャ島での特訓なら成功だ。実感がわいてないのか? お前の身体能力も、魔力も……全ての能力値が、以前とはケタ違いだ』
「そう、なのか……?」
実感が沸かないロイ。
「デスゲイズ。これからどうなる?」
『ササライが動くまで待つしかない。奴は間違いなく、準備万全で動き出す……あの、魔剣士とかいう連中もいるし、なかなか厄介だ」
「厄介どころか、絶体絶命だけどな」
『ふ……だが、今のお前のが絶対に強い』
「そりゃどうも」
「ねー!! お願い、髪あらってー!!」
「っ!? どど、ドア開けんなバカ!!」
パレットアイズが、裸のまま泡まみれでドアを開け、ロイを驚かせた。
忘却の魔王ササライが動き出すまで、残り六十日。