サスケ・コガラシと風魔剣ルドラ②/風の如く
アオイとサスケから数百メートル離れた大樹の上に、ロイはいた。
軽く舌打ちをする……完全なタイミングで放った矢が、セレネの白い矢に弾き落とされた。
セレネの位置はつかめた。ロイから二キロほど離れた大樹の上。
仮面越しに先を見ると……いた。しかも、ロイに向かって右手の人差し指を立て、横に振って見せた。
『勝負』
そう、言っている。
ロイは親指で自分の喉を掻っ切るような仕草をした。
『上等』
すぐ近くでは、アオイとサスケが対峙している。
長らく話し、サスケの顔色が変わった。そして怒りの闘気を纏い、風が激しくなる。
ロイは「知り合いか」と思った。
だが、関係ない。
『ロイ、わかっているな』
「ああ。アオイの援護をする」
『ふ……わかっているならいい。あの白いヤツを相手に、権能を使わず戦うのかと思ったぞ。どうやら考え直したようだな』
「そうじゃない。権能を使わないのは一対一の時。七聖剣士の援護をする時は使うぞ」
『……はぁ』
それは、セレネも同じだろう。ロイは確信していた。
セレネにどんな力があるかわからない。だが、グレシャ島で鍛えたロイには自信があった。
矢筒から数本の矢を抜くと───……最初に動いたのは、サスケだった。
『動く……ロイ、いいな』
「ああ。やるぞ」
ロイは矢を番え、最高のタイミングを待つことにした。
◇◇◇◇◇
「吹き荒べ、風魔剣ルドラ───……『羅旋風』!!」
サスケの周囲で手裏剣が回転し、小規模の竜巻がいくつも形成される。
アオイは全身を雷で覆った。
「『雷真躯体』」
反射神経、運動神経を増幅させる技。以前は一瞬しか使用できなかったが、修行をした今、長時間の帯電が可能となった。
サスケは両手に手裏剣を掴み、竜巻と一緒に突撃してくる。
アオイはその場で迎撃する。
「『風魔手裏剣』!!」
「久世式帯刀剣技、『紫電十二月下』」
小規模の竜巻が、サスケの投げた手裏剣に纏わり付き、不可思議な軌道を描き襲って来る。
だがアオイは、雷を全て雷刃で叩き斬り、手裏剣も剣で弾いた。
そして気付く。サスケの姿が、消えていた。
「!?」
「風魔忍法、『風分身』」
サスケの手には『苦無』が握られ、今まさにアオイの首を掻っ切ろうとしていた。
◇◇◇◇◇
「大罪権能『怠惰』装填───……『穏やかな羊』」
◇◇◇◇◇
トスっと、一本の矢が回転して二人の間に落ちた。
傍には白い矢が。どうやら、ロイが放った矢が、セレネの矢に弾かれ落ちたのだ。
矢が地面に刺さるのを、アオイとサスケが見た。
「───…………な───……に」
「こ───……れ───……は」
矢が刺さった瞬間、全てが『スロウ』になった。
動きが襲い。思考が働くのに、水中にいるような、全身に何かがまとわりついたように動かない。
身体は鈍い。でも思考は通常───……アオイは全力で首を傾け、サスケの苦無を回避。
全身を雷で覆い、一気に放出───……するが、動きが遅い。
たっぷり五秒、二人の動きは通常の十分の一以下にまで落ちた。
「「ッ!!」」
紫電が爆ぜ、サスケが高速で飛びのいた。
「な、なんだ……今のは」
「クソ!! セレネめ、何をしている……!!」
だが、助かった。
動きが遅くならなかったら、首を落とされていた。
アオイは深呼吸し、再び雷聖剣イザナギの柄に手を添えた。
◇◇◇◇◇
「危なかった……」
『ああ。だが、お前も大したものだ……白い矢に弾かれるのを計算に入れ、矢を放ったな?』
「ああ、まぁな」
ロイが放ったのは、大罪権能『怠惰』の矢。
能力は『停滞』……地面に矢が刺さると、半径五メートル以内に『動きが通常の十分の一以下』になる力場を形成する。効果は五秒間……短いように思えるが、聖剣士同士の戦いで、ほぼ無防備な時間が五秒もできるというのは、死ぬことと変わりない。
『ロイ、動いたぞ』
「俺も位置を変える。接近して『魔王聖域』を展開すれば……アオイが勝つ」
ロイは枝から枝へ飛び移り、戦場へ接近する。
◇◇◇◇◇
「危なかった……失念していたぞ、忍者は『忍法』を使うことを。拙者に真正面から接近してきたのは分身……本体は気配を消し、接近していたとはな」
「チッ……」
「だが、同じ技は食らわん。さぁ、今度はこちらから行く!! 『雷迅』!!」
紫電を纏ったアオイがサスケに急接近。
神速の抜刀で両断しようとするが、サスケは両手に持つ苦無で防御した。
そして、風を操作して手裏剣を操作。アオイの両サイドから襲わせる。
だがアオイはしゃがんで回避、そのまま回転蹴りを繰り出す。
サスケは蹴りを受け止め掴もうとするが、アオイはすぐに足を引き抜刀、今度は受け止めず身体を捻って回避。
すると、ロイの援護である矢が飛ぶ。同時にセレネの矢がロイの矢を弾き落とす。
アオイとサスケは、超接近戦で剣戟を繰り広げている。
聖剣を変形させる間がないのか、日本刀形態のまま振るうアオイ。両手に苦無を持ち、風を操作して手裏剣を操るサスケ。
手数こそサスケが多い。だが、速度は圧倒的にアオイ。
どちらも本気ではない。
「だったら───……ここで決める」
ロイはデスゲイズを背負い、両手を合わせ少しだけずらす。
「『魔王聖域』展開」
ロイを中心に、半径一キロの聖域が展開される。
「来た!!」
「ぬ───……!?」
アオイの身体能力、攻撃力が七倍に。
サスケの身体能力、攻撃力が七割ダウン。
ロイの聖域、『聖剣覇王七天虚空星殿』が発動。ロイの成長なのか、魔力が目に見える形となる。
それは、透明な神殿。観客席があり舞台がある。どこかの闘技場のように見えた。
だが闘技場ではない。神殿のような、精巧で豪華な石柱が何本も立ち、壁のような仕切りには不思議な壁画が描かれている。
アオイは抜刀し、サスケに向かって言う。
「サスケ殿。貴殿のクゼ家に対する恨みはわかる……だが、拙者は負けるわけにはいかんのだ!!」
「くっ……」
「御免!!」
アオイが、サスケを斬り捨てようと剣を振る。
◇◇◇◇◇
「『魔王聖域』展開───……『銀暗夜月宮殿』」
◇◇◇◇◇
「───何!?」
「ふっ、戻ったぞ!!」
アオイの一撃をサスケが受け、弾き飛ばした。
ロイの聖域の効果が消えた。
いや、消えていない。ロイの作り出した『透明な神殿』が、『純白の宮殿』と重なり、互いに打ち消し合いを始めたのだ。
「これは……!?」
「八咫烏の『聖域』と、月光鳥の『聖域』が互いに打ち消し合いを始めている……面白い」
「くっ……」
アオイは剣を構えるが、サスケは振り返った。
「ここまでだ。アオイ・クゼ」
「何……」
「来るべき日、貴様と決着を付ける。その時まで……」
そう言い、サスケは消えた。
同時に、ロイとセレネの聖域が消える。
「…………サスケ・コガラシ」
風魔剣ルドラの使い手。アオイは再戦を覚悟し、剣を握りしめた。
◇◇◇◇◇
一方ロイは、セレネの聖域が展開されたことに驚いていた。
「マジかよ……!? あいつも、『聖域』を……」
『……やれやれ。本当にどうなっている』
「…………」
『ロイ、確信した。あの白い女……間違いなく、お前と同格かそれ以上。覚悟しておけ』
「……ああ」
本当に強い。
ロイはそう思い、デスゲイズを強く握りしめた。