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サスケ・コガラシと風魔剣ルドラ①/風と雷、白と黒

 ロイは、毒リンゴを齧りながら、焚火でジリジリと燃える肉を眺めていた。

 グレシャ島に入り、すでに二十日……いかに耐性ができても二十日以上の滞在は厳しいとロセが話していたが、ロイは完全に島に適応していた。

 気付かぬうちに、身体機能や魔力も増幅し、新たな権能や他の権能も完全に使いこなし始めた。

 グレシャ島は、一国よりも大きく広い。エレノア達も来ているとロイは知っているが、探そうとは思わない……その気になれば見つけられると確信していた。


「そろそろかな……」


 ロイは肉を切り分け、傍で身体を丸めるシェンフーの皿の上へ。

 シェンフーはモグモグと食べ、ぺろりと舌を出した。


『うまい』

「そっか。もっと食うか?」

『うん』


 お代わりの肉を切り分け、残りは自分で食べる。

 食欲が増し、身体もかなり引き締まった。水浴びする機会もないので服や身体が汚れていることが気になるが、セレネがいた泉で水浴びする気にはなれないロイ。

 肉を食べ終え、沸かした湯で顔と身体を拭き、新しい下着と服に着替え、立ち上がって伸びをする。

 そして。


「『黒装(トランス)』」


 黒い外套、白い仮面を装備。外套のフードを被り、手に魔弓デスゲイズを持つ。

 首をコキコキ鳴らし、足元にいるシェンフーに言う。


「じゃ、行くわ」

『……勝てるのか?』

「ああ。あとで迎えに来る」

『いい。あたしがそっちに行く……侮るなよ、この姿でもあたしは侯爵級だった。魔獣なんかに負けないぞ』

「はいはい。じゃあ、また後でな」


 シェンフーの頭を撫で、喉を撫でるとゴロゴロ鳴いた。

 ロイは近くの枝に飛び移り、音もなく枝から枝へ飛び移って移動を開始。


「七魔剣士と、セレネ───……一日で、ケリをつける!!」


 ロイは察知していた。

 察知、というよりは野生に勘に近い。

 敵が動き出したことを、心の奥底にある説明できない何かで感じ、動きだした。

 向かうべきは、エレノアたちとの合流。


 ◇◇◇◇◇


「『灼炎楼・三尖刀(さんせんとう)』!!」


 バーナーブレードによる三連斬りが、タイタンオーガというオーガの上位種を両断した。

 エレノアは、バーナーブレードを大剣に変形させ、振り向きざまの横一閃。


「『灼炎楼・一閃(いっせん)』!!」


 巨大なタイタンオーガの胴が両断され、崩れ落ちた。

 エレノアはロングソードに変形させ、息を吐く。


「……終わりましたぁ」

「うむ」


 アンジェリーナが頷く。

 その後ろには、ユノ、サリオス、アオイがいた。

 現在、現れる魔獣を一人で倒す訓練の真っ最中。交代で戦い、次はユノの番だ。

 すると、サリオスが言う。


「あの、アンジェリーナさん。森に入ってからずっと、一人ずつ戦っていますけど……やっぱり、チームでの連携などもやるべきじゃ」

「確かにな。だが……正直なところ、今のお前たちに必要なのは、連携よりも個人での力だ。今までの戦いを教えてもらった感じ……力を合わせたからこそ、乗り越えられた部分が多い。私でも気付くことだ。そこを狙われ、分断でもされたらあっという間に詰むぞ。幸い、今のお前たちは公爵級と遜色ない実力を持っている。私を一対一で圧倒できるくらい、強くなれ」


 アンジェリーナは強い。

 鎧身を使わなければ、スヴァルトですら勝ち目がなかったらしい。能力を使えば一対一では鎧身形態でも勝てるか微妙なところだ。

 サリオスは頷いた。


「わかりました。ご指導、よろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」

「つぎ、わたし」


 エレノアと入れ替えに、ユノが先頭を歩く。

 こうして、先頭を交代しながら森を進み、現れる魔獣が一体だろうが十体だろうと一人で戦う。それがアンジェリーナの訓練だった。

 ユノが先頭になり、現れたのは……気味の悪い、大きなイモムシ。


「……これだけ? えい」


 ユノがレイピアを振ると、空間の裂け目から水が噴き出す。

 水を浴びたイモムシにレイピアを突き刺すと、身体の内側から一瞬で凍りつき砕け散った。


「うー、はずれ」

「はは、次は拙者の番だな」

「むー」


 アオイと入れ替わり、歩きだす。

 すると……そよ風が吹き始めた。


「む、風か……こんな森の奥で?」

「……油断するな。風を起こす魔獣もいる。毒などが混じっていればアウトだぞ」

「応」


 アオイは雷聖剣イザナギの柄に手を添え、ゆっくり歩く。

 エレノアたちは、その後ろをゆっくりついてきた。


「ふ……この緊張感が、すばらs」


 次の瞬間───アオイの周辺に『竜巻』が発生。

 細長い竜巻が五本。あっという間にアオイを包囲した。


「これは───……」


 魔獣ではない。

 アオイが抜刀しようとした瞬間、身体が爆発的に浮き上がった。

 

「チッ!!」

「アオイ!!」

「え……」

「これは!?」


 アンジェリーナ、エレノア、ユノ、サリオスも異常事態と感じたのか剣を抜く。

 だが、次の瞬間───四人の足元に『白い矢』が何本も突き刺さりたたらを踏んだ。

 同時に、竜巻が消え……アオイが消えていた。


「い、今のは……」

「この矢、まさか……アンジェリーナさん、やばい!! この矢……『月光鳥(アルテミス)』の矢!!」

「アルテミス? チッ、魔剣士たちのサポート役か!!」

「まさか、この島に七魔剣士が!? 狙いは……アオイ!? クソ、アンジェリーナさん、ロセ先輩たちの合流して、アオイを探そう!!」

「ああ。サリオスの言う通りだ。全員で行くぞ!!」

「全員?」


 ユノがすぐにでもアオイを追おうとした。全員という言葉に首をひねる。


「分断が目的かもしれん。今は全員で行動したほうがいい。それに……アオイ、奴は強い。そう簡単に負けはしない」

「……うん」

「じゃ、急ごう!!」


 エレノア、サリオスは来た道を引き返す。

 アンジェリーナ、ユノが後に続き、全速力で走り出した。


 ◇◇◇◇◇


「くっ……一体、何が」


 目を開けると、そこは広い場所だった。

 何もない更地だ。木々が伐採された、まるで森の中の闘技場。

 アオイの前に立っていたのは、覆面をした男だった。


「何奴!!」

「……貴様が、雷聖剣イザナギの使い手。ワ国の者だな?」

「何? ……貴様、その格好……忍びの者か!!」

「いかにも」


 男は、濃い緑色の忍び装束だった。

 覆面は口元だけ隠し、腰には装飾の施された二本の《手裏剣》がある。


「名乗ろう。我が名はサスケ……サスケ・コガラシ。忘却の魔王ササライ殿が統治する『大魔王国(マーレボルジェ)』、選ばれし『七魔剣士(しちまけんし)』の一人、風魔剣ルドラの使い手」

「……コガラシ。まさか貴様、御庭番衆のアサシンか!? 馬鹿な、コガラシ家は取り潰しにあったと聞いている!!」

「そう、その通りだ……その理由、知っているか?」

「……魔を、宿したと」


 話しながらも、アオイは雷聖剣イザナギの柄に手を添える。

 能力『雷命(ライメイ)』により、サスケを見る。


「その通り。某の両親……母上は魔族。そう、某は半魔族。そのことを知ったクゼ家は、我が家を……母を、父を殺した。幼い妹も、弟も……全員な!!」

「……クゼ、家」

「雷聖剣イザナギ。貴様……クゼ家の者だろう。名乗れ」

「……アオイ・クゼ」

「……く、はは」


 サスケは、笑った。

 ぶるぶると、震えながら。


「某も、修業が足りない……様子見と言われているのに、貴様を殺したくて仕方がない」

「…………」

「ササライ殿には恩義がある。死にかけている某を拾い、育て、この風魔剣ルドラを授けてくれた……その恩に報いるために、某は戦おう」

「……貴様」


 サスケは腰にある二つの巨大手裏剣、風魔剣ルドラを手にする。

 サスケの周囲に風が舞い、手裏剣を離すとその場で回転、サスケの周囲を旋回する。

 小さな竜巻がサスケの周りに形成され始めた。


「行くぞ、アオイ・クゼ……殺しはしない。だが、某の恨みを思いし───……」


 次の瞬間───どこからともなく飛んできた矢が、サスケの眉間に向かって飛んできた。

 が、サスケの背後から飛んできた白い矢が、サスケを狙った矢を弾き落とす。


「───……ッ!!」

「チッ……水を差すか『八咫烏』!! セレネ殿、そちらは任せた!!」


 アオイは、落ちた矢を見て我に返る。

 相手は復讐するために立ち向かってきた。クゼ家の因縁。

 だが、アオイは死ぬわけにはいかない。自分の後ろには、八咫烏が……ロイがいる。

 アオイはフッと息を吐き、柄に手を添えた。


「サスケ殿。貴殿の恨みは最もだ……だが、拙者も引くわけにはいかん!!」

「よく言った。では───……行くぞ!!」


 アオイの身体が紫電に包まれ、サスケの周囲に風が舞う。

 雷聖剣イザナギ、風魔剣ルドラ。

 雷と風、因縁の戦いが始まった。

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