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黒き八咫烏と白き月光鳥

 ロイがグレシャ島で鍛え始めて十日が経過していた。

 現在、ロイは上半身裸でデスゲイズを構え、毒の泉に住む魚を矢で射抜いた。

 矢には紐が結んであり、引っ張ると頭を射抜かれた魚がくっついている。


「今日はコイツだ」


 鏃でワタを抜き、落ちていた枝に刺す。

 すると、シェンフーが濃い紫色の毒ウサギを咥えてきた。


『こいつも捕まえたぞ』

「お、いいね。毒ウサギだ。くくく、今綺麗に捌いてやる」

『……あたしはいらないからな』


 シェンフーは、収納魔法を使い肉ブロックを取り出して食う。

 ロイは鏃で肉を捌き、焚火で焼き始めた。

 シェンフーが、肉ブロックを食いながら言う。


『お前、最近ずっとこの森の動物だな……食料、尽きたのか?』

「いや。この森の動物や魔獣、体内にほとんど毒を持つんだけど、その毒を喰らうと身体能力が強化されるんだ」


 デスゲイズ曰く、『毒は火に掛ければ弱体化する。少量ずつ毒を喰らい、内臓、血を強化する。そして毒の効果で内臓や筋肉が徐々に破壊されるが、自己治癒力で治し続ける。そうすれば自然と身体能力も強化されていく』という、よくわからない理屈だった。

 だが、現に効果はあった。

 今ではあまり感じないが、重力負荷により最初は歩くだけで息が切れた。さらに毒を摂取し続けたことで毎日腹痛で、睡眠も二時間くらいしか取れずボロボロ……だったが。

 

「だいぶ慣れたし……見ろよ、すっごく身体引き締まったぞ」


 贅肉がほぼ消え、細く引き締まった身体となった。

 腹筋も、見事なシックスパックである。

 デスゲイズ曰く、ロイは『適応力』が異常らしい。たった三日で重力負荷に慣れ、毒も抗体を持つまでになった。

 

「体力も、筋力も上がった。よくわからないけど視力も向上したし、狩りの仕方も上手くなった。聖域の効果範囲、効果時間も伸びたし……グレシャ島、マジすごい」

『……すごいのはお前だと思うけど』

『我輩も同感だ』


 シェンフーには聞こえていないが、デスゲイズも同意見のようだ。

 食事を終え、ロイは大きく伸びをする。

 そして、シェンフーを抱えて、木の根元に掘った穴に入り蓋をした。


「さ、寝るぞ」

『ん……』


 シェンフーを抱いて寝る。

 これが、今のロイの就寝スタイル。

 シェンフーは抱き心地が非常によく、毛並みもすごく柔らかでモフモフだ。

 どんな環境でも、シェンフーを抱けば数秒で熟睡できる。


『気持ちいいぞ……』

「俺も……」


 シェンフーはゴロゴロ喉を鳴らしていた。


 ◇◇◇◇◇


「───……ッ!!」


 ロイは眼を覚ました。

 時間は深夜。グレシャ島に来てからロイは神経が研ぎ澄まされ、聞きなれない音に対して敏感になっていた。

 木の葉が揺れる音、動物が歩く音、魔獣の吐息───……そういう『自然な音』に対しては注意を払わないが、それ以外の『妙な音』には敏感だ。

 自分に近づく音、敵意、そして聞き慣れない音など。

 今、ロイが聞いたのは……今の場所から一キロほど先にある、小さな泉だった。


「…………」


 何か、いる。

 その泉は、毒がまん延しているグレシャ島で、ロイが初めて見つけた『毒に侵されていない泉』だ。だが、魚など住んでおらず、あまり需要がない。

 顔を洗う水くらいの場所。そこに、何かがいる。

 ロイは、デスゲイズを手に穴から出る。シェンフーを起こさないよう、慎重に穴から這い出て、近くの木に音もなく飛び移った。


『む……どうした』

「……何かいる」


 喋りながら、すでに近くの枝に飛び移った。

 それからロイは無言で、一分とかからずに泉へ到着。

 そこで、見た。


「───………」


 月光が、泉を照らしていた。

 そこにいたのは、キラキラ輝く純白の少女。

 美しい裸体を惜しげもなく晒し、泉の水を身体に浴びせている……水浴びだ。

 真っ白な髪は濡れ、月光で眩く輝いている。

 均整の取れた肢体は美しい。まるで彫刻のようで、ロイは眼が離せない。

 そして、顔……ビスクドールのように美しい、青水晶の瞳。

 

『───、───』


 ロイは、自分の人生で初めて、美しい物を見た気がした。

 ただ女性の裸体というだけじゃない。

 ユノやエレノアの裸を見た時は思わず目を反らしたが、この少女に対して目を反らすのは駄目なような、記憶に焼きつけたくなる中毒性すらあった。


『───、───い』


 どこかで、見た記憶があった。

 同い年くらいだろうか。ロイの記憶が刺激される。


『───い、───…………ロイ!!』

「ッ!?」


 びくりと身体が反応し、枝から落ちた。

 着地すると、パキパキと葉や枝を踏みしめる音がする。

 当然、少女は気付いた。


「…………お前」

「あ、いや……」

『敵だ。コイツは、ササライの手駒だ!!』


 デスゲイズが叫ぶ。

 ふと、少女の傍に着替えと───白い弓が見えた。

 ロイは気付いた。


「お前は、『月光鳥(アルテミス)』の……」

「……『八咫烏(ヤタガラス)』か」


 羞恥に身体を隠すこともない、『月光鳥(アルテミス)』のセレネは堂々と裸身を晒したまま、ロイの真正面に立つ。

 不思議と、ロイは緊張しなかった。同世代の女子が裸でいるのに、なんの情欲も湧いてこない。


「やはり、ここにいたか。フフ……」

「何?」

「待って、今はお前と戦うつもりはないよ。むしろ、戦いよりも話がしたい」

「…………」


 ざぶざぶと、泉からセレネは上がり、着替えを無視して裸のままロイの前に立った。

 ロイは弓を持ったまま、至近距離でセレネと向き合う。

 そして、近くの岩場に座った……裸のままで。


「座れ」

「……服くらい」

「なに? 気になるの? フ……初心な子供」

「あ? 別に気にならないし」


 そう言い、ロイはセレネの隣に座る。

 月光が、二人の身体を明るく照らす。


「お前、ここで何を?」


 最初に聞いたのは、ロイだった。


「この島は、私の狩場だ」

「…………」

「そういうお前は?」

「特訓」

「ほう……隠さないのだな」

「意味がないからな。お前……弓を使うんだな」

「まぁね。生まれて十七年、武器は弓しか使ったことがない」

「十七? なんだ、同い年じゃねーか……ガキとか言えた口かよ」


 セレネを見ると、ちょうどロイの方を見た。おかげで、柔らかそうな胸が揺れるのが見えてしまう。

 だが、ロイは眼をそらさない。


「ササライ様が言うに……私は、弓に愛されているらしい」

「…………」

「幼いころから、何でも見えた。両親は普通の魔族で、田舎の片隅にある小さな家で、兄弟、両親と暮らしていた。私は少しでも家族を助けようと、弓を手に取った……なんでだろう。私は今まで一度も、的を外したことがないの」

「…………俺も」

「お前もか?」

「ああ。お前の言うこと、なんとなくわかる」

「そっか。ササライ様は言った……私と同格の人間が存在している、って……」

「お前は、俺をどうしたい?」

「倒したい。お前は、七聖剣士のサポート役でしょ? 私は七魔剣士のサポートとしてササライ様の配下となった。ふふ……腕比べね」

「……それで、魔族と人間が争うことになってもか?」

「ああ」

「…………」


 ロイは立ち上がり、セレネと向かい合う。

 セレネも立ち上がり、真正面からロイを見据えた。


「俺は、魔王ササライにも、七魔剣士とかいう連中にも負けない。当然、お前にもな」

「それでいい。私の矢とお前の矢、どちらが先に心臓を穿つか───勝負」

「ああ、やってやる」

「……不思議。お前は敵だと言われているけど、全く憎めない。倒すべき敵……でも、同時に長年の友人のようにも感じる」

「…………」

「だが、倒す……一つ、教えてあげる。この島に一人、七魔剣士が来ているわ。そいつは七聖剣士の偵察役で、七聖剣士の一人と手合わせするつもり。当然、私は援護に入る」

「!!」

「八咫烏。まずは前哨戦……戦おう」

「……面白い」


 ロイは笑う。

 セレネも笑う。

 そして、ロイは踵を返し歩きだした。


「待って」

「なん───」


 呼び止められ、振り返った瞬間……ロイの唇と、セレネの唇が重なった。

 柔らかな感触だった。

 バッと離れて口を押えると、セレネが悪戯っぽく笑う。


「挨拶代わり。八咫烏───また会いましょう」


 そう呟き、セレネは消えた。

 

『ファーストキスが魔族とはな』


 デスゲイズは、なぜか面白そうな声で言った。

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