秋季休暇の始まり
秋季休暇前、最後のホームルームが終わった。
これから長期の秋季休暇が始まるにあたり、課題もどっさり出された。授業がないぶん、全て自主学習で済ませないといけない。
課題をカバンに入れ、ロイはオルカとユイカの三人で教室を出る。
ユノ、アオイは生徒会室で打ち合わせがあると、早々に去った。
「そういえば、ユイカはどうするんだ?」
「あたしは実家。いろいろあったし、家族に顔見せる子、多いみたい」
「オレも。そういやロイ、お前は?」
「あー……俺は」
実家とは絶縁状態なので、帰る家はない。
「学園に残って課題やったり、自主訓練してるよ」
「そっかー、オレも残りたいぜ」
「あたしも。でもまぁ、たまには帰らないとねー……今回、いろいろあったしさ」
「……だな」
オルカもユイカも、今回は思うことがあったようだ。
三人で適当な会話で盛り上がり、女子寮へ続く道へ。
「じゃ、休暇明けにね。ばいばーい」
ユイカと別れ、ロイとオルカは男子寮へ。
オルカの部屋の前に到着。
「じゃ、またな。早く帰ってくるから、そん時は遊ぼうぜ」
「ああ。またな」
オルカと別れ、自室へ。
自室のベッドの上では、シェンフーが丸くなって寝ていた。
ロイが部屋に入ると起きて、大きな欠伸をする。
『ん~……帰ったか』
「ああ。飯にするよ」
シェンフー用の皿を持ち、食堂で金を払って肉を入れてもらい、水皿にたっぷり水を入れて戻る。
皿を置くと、シェンフーはモグモグと食べ始めた。
それを眺めつつ、ロイはカバンに着替えを詰め、町で買った水筒や鍋、火打石などを入れる。
『修行、だったか?』
「ああ。グレシャ島ってわかるか?」
『知ってる。魔界と人間界の狭間にある浮島。でもあそこ、毒霧に覆われて魔族は誰も近づかない。海を渡ってまで行く価値のない島だからな』
「あそこ、凶悪な魔獣がいっぱい出るんだ。しかも毒や重力負荷で耐性とか身体の強化とかもできるらしい。悪いな、餌は乾き物をいっぱい用意しておく」
『……あたしも行くけど』
「え?」
『グレシャ島、一回だけ行ったことある。あそこの魔獣は魔界貴族レベル……お前なら問題ないと思うけど、多少は助けられる』
「シェンフー……」
ロイはシェンフーを撫で、トラミミをカリカリ掻いた。
◇◇◇◇◇
エレノアたちは、修復が終わった生徒会室に集まり、秋季休暇の予定を話し合っていた。
「というわけで、サリオスくんが船を手配してくれました。二日後、東のダルセルク港から『七天島』に向かって出発しますので、一日で準備を終えてくださいね~」
二日後、『七天島』へ通じる港、ダルセルク港から出発することになった。
準備期間は一日。
エレノアはユノに言う。
「ユノ、明日買い物行こ」
「うん。お菓子いっぱい買う」
「それ以外もあるでしょ……着替えとかさ」
「ロセ先輩。質問が」
と、アオイが挙手。
ロセはにこやかに「どうぞ~」と言う。
「七天島。確か、毒霧に覆われている島だったと記憶しているが……二十日間、泊まる場所などは何処になるのでしょうか?」
「船さ」
「……船?」
答えたのはサリオスだ。
「オレたちが使う船は、トラビア王族専用の船だ。小さいけど、専用の個室もあるし、海水をろ過してシャワーも使える」
「……そうか」
「船員もベテランだし、食料は念のため二ヶ月分持っていく。滞在に関しての不備はないよ」
「心強い。さすがだな、サリオス殿」
アオイが褒めると、サリオスは少し照れる。
すると、スヴァルトが挙手。
「何度も言うが、マジで地獄だぞ。数日はメシ食えねえと思えよ」
「「「「…………」」」」
スヴァルトの脅しに、一年組は少し渋い顔をするのだった。
◇◇◇◇◇
「よし」
ロイは、着替えなどのカバンを収納に入れ、デスゲイズを腰に差す。
動きやすい普段着に着替え、靴ひもをしっかり結び、軽く準備運動をして部屋を出る。
すると、ちょうどいいタイミングでアオイがいた。
「ロイ殿」
「アオイ。ちょうどよかった。俺、もう行くからさ、あとはよろしくな」
「……え」
「前に言ったろ。デスゲイズと一緒に鍛えてくるって」
「い、行くって……これからなのか!?」
「ああ」
旅の荷物は全て収納の中で、それ以外にはリュックが一つ。
そのリュックには、シェンフーが入っていた。
「アオイはこれからメシか?」
「あ、ああ。財布を取りに戻って来た。外にはエレノア殿たちがいる」
「ちょうどいいや」
アオイと二人で寮から出ると、エレノア、ユノがいた。
これから、七聖剣士の七人で食事をするらしい。
「あれ、ロイ? どこ行くの?」
「前に言ったろ。デスゲイズと一緒に鍛えてくるって」
「……え? って、こ、これから!?」
「ああ」
「……ロイ、早い」
ユノがムスッとする。
エレノアも驚いていた。
「も、もう何日かしてから行くのかと思った……」
「悪いな。早く鍛えたいんだ。じゃあ……あっちで会えるかわからんけど、またな」
そう言い、ロイは『黒装』と呟き八咫烏へ変身。
寮の屋根に飛び移ると、一瞬で消えてしまった。
「……行っちゃった」
「……ロイ」
「大丈夫。向こうで会えるさ」
◇◇◇◇◇
家屋の屋根を伝い、ロイは十分とかからず王都を出た。
変身したまま街道を走り、周囲の気配を探る。
間もなく夕方。だが、ロイにとって夜は味方であり、ロイの時間。
「東だな?」
『ああ』
「……なぁ、グレシャ島にはどうやって行くんだ? 船か?」
『船は第二候補だ。第一候補は……これから確認する』
「……?」
『とにかく、東へ向かえ』
「わかった」
秋季休暇が始まる。
ロイとデスゲイズにとって、忘れられない休暇の始まりだった。