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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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あとしまつ

 戦いが終わり、二日が経過。

 これまでにないほど大変な戦後処理が始まった。

 まず、聖剣レジェンディア学園。戦場にもなった学園の補修が始まる。

 生徒会室は滅茶苦茶になり、エレノアの攻撃で教室数か所、魔界貴族の攻撃で校内施設の四割が使い物にならなくなり、大規模な改修工事が行われることになった。

 当然、学園は臨時休校……なのだが、此度の魔王襲来によりダメージを受けたのは、建物だけではない。

 生徒もまた、深い傷を負った。


「…………はぁ~」


 エレノアは、奇跡的に被害ゼロだったショッピングモールのカフェにいた。

 目の前に座るのはユノ。ユノはパンケーキをモグモグ食べている。


「被害、すごいよねー……」

「うん」

「建物もだけど、さぁ……」


 言葉にはしにくかった。

 生徒のメンタル……バビスチェの『聖域』で愛を増幅され、見知らぬ男と抱き合っていた少女たちは、精神的に追い詰められていた。子供を身籠っているかどうかは、これからの調査で判明する。

 同級生、上級生、下級生……聖域の効果が一番発揮されている学園内で、望まぬ逢瀬を重ねた者が多数。

 寝たきりになった生徒も多く、精神的にショックを受けた者も多い。


「あたしたちも、危なかったよね……」

「うん。でも、ロイならよかった」

「そうね。じゃない!! ったくもう、あんたは……」

「……みんな、大変」

「……そうね」


 学園内は、混乱の極だった。

 

 ◇◇◇◇◇


 ロセは、サリオスを連れて学園内を見回りしていた。

 学園の修復に関する書類を読み、教師と話し合い、出歩いている生徒を注意したりと、生徒会は忙しい……愛の魔王バビスチェを倒したのに、被害が大きすぎて喜ぶ間もなかった。

 サリオスは、ロセの隣を歩きながら言う。


「今回は、大変でしたね……」

「ええ。得る物も多かったけど、失ったものも多いわ」


 見回りをして、ロセは女生徒から退学届をすでに四通貰っていた。

 何人かはお腹をさすっていた。望まぬ何かが、腹にあるのかもしれない。

 

「愛の魔王バビスチェ。以前の『手番』では、魔王襲来後に人口爆発が起きたとか……」

「ええ。孤児も多く増えたみたい」

「…………」

「喜んでいる暇は、ないわねぇ……次は、『忘却の魔王』が来るわ」

「はい。でも……しばらくは準備、って言ってましたよね」

「信じるの?」

「いえ。でも……できることはやりたいです。オレたちが得た物の中に、聖剣の最終形態があります。みんなと協力して、練度を高めて……!!」

「ふふ……」

「え、ロセ先輩?」

「ううん。なんでもない……がんばろうね」


 ロセはニッコリ笑い、窓から外の景色を見た。

 外は晴れ渡り、魔王襲来後とは思えない天気だった。


 ◇◇◇◇◇


 ララベルは、城下町を歩いていた。

 人の往来が多いはずの城下町だが、今は人が少ない。

 男性は出歩いているが、女性は全く見かけない。ララベルがよく行く馴染みのパン屋も閉店しており、表ではパン屋の主人が履き掃除をしていた。


「おじさん、こんちわっ」

「ああ、ララベルちゃん……」


 パン屋の主人は元気がない。

 まだ三十代になったばかり。うまいパンを焼くと評判の若主人だ。

 ララベルは聞く。


「元気ないけど、大丈夫?」

「…………ああ、ちょっと、ね」

「…………」

「妻が……」


 それだけで、想像できた。

 バビスチェの『聖域』に囚われた王都。見境なく、男と女が愛し合う空間。

 パン屋の妻は、聖域が発動した瞬間、たまたま外出していた……それだけだった。

 何があったか、容易に想像できた。


「もし、身籠っていたら……」

「おじさん……」

「それに、オレも……」


 パン屋の主人もまた、別の女性と……。

 ララベルは思う。これのどこが『愛』なのか、と。

 愛に飢えた魔王が残した爪痕に、ララベルは俯くしかなかった。


 ◇◇◇◇◇


 スヴァルトは、王都に買った隠れ家の一つにいた。

 学生寮ではない、いざという時の隠れ家が、意外な形で役に立った。


「おう、メシだぞ」

「…………」


 家にいたのは女性。

 魔界貴族公爵、『薔薇騎士』アンジェリーナ。バビスチェの眷属だ。

 バビスチェに見限られ放心していたところを、スヴァルトが匿ったのだ。

 だが、アンジェリーナはぼーっとしたまま動かない。

 スヴァルトは、ベッド際まで行き、アンジェリーナの口にパンを突っ込む。


「も、ももが!? ふぁにぉ」


 何を、と言ったが声が出ない。

 パンを咀嚼し、スヴァルトが渡した水を一気に飲む。


「何をする!!」

「寝ぼけてるから起こしただけだっつーの。いいから食え」

「…………」


 アンジェリーナは、パンを全部食べ、水を一気に飲み干す。

 そして、ジロリとスヴァルトを睨んだ。


「私を助けてどうするつもりだ」

「別に。それと……愛の魔王バビスチェに、お前を傷物にしたこと、謝るの忘れてたわ」

「……そんなこと、いまさら」

「愛の魔王は死んだぜ。事後処理でそれどころじゃねぇが……二人目の魔王討伐だ。あと二人……」

「……人間は、魔族を滅ぼすのか」

「さぁな。今までやられた分、やり返すとか言うかもな」

「…………」


 アンジェリーナは、スヴァルトを見た。


「お前の望みは何だ? 私の身体が欲しいのか?」

「あ?」

「吸血鬼の本能……私は、お前の性欲を発散する道具か? ふ、それでもいい……今の私には、帰る場所などないからな。闇聖剣の使い手、お前が望むなら好きにしろ。負けたお前に抱かれるなら、悪い気はしない……」


 そう言い、アンジェリーナは着ていたシャツのボタンを外そうとする。

 が、スヴァルトがアンジェリーナの頭にチョップを食らわせた。


「いたぁ!?」

「アホかお前は。アレは本能を刺激されたが故の暴走だ。普段は何てことねぇよ」

「で、ではなぜ……」

「……一度ヤッた女を見捨てるほど、腐っちゃいねぇだけだ。居場所がないってんなら、この家にいていい。魔界に帰るもよし、王都に住んで人間として暮らすのもいい……お前が再び敵にならねぇ限り、オレはお前の面倒をみる。それがケジメだ」

「…………」

「女モンの服とかよくわかんねぇから、近いうちに信用できる女を連れてくる。今は残務処理で忙しいから待ってろ。食いモンは運んできてやる。あと、この家にあるモンは好きにしていい」

「…………」

「……じゃ、また来る」


 そう言い、スヴァルトは軽く手を振って部屋を出た。

 アンジェリーナは、自分の胸を押さえ……鼓動の高鳴りを感じていた。


「わ、私は……どうしたというのだ。こんな、胸が……」


 ◇◇◇◇◇


 ロイは、学生寮の食堂で、頭を抱えるオルカを前にしていた。

 ロイの隣にはアオイがいる。


「はぁぁ……ロイ、どうしよう」

「お前、さっきからそればっかりだろ……ちゃんと話せよ」

「そうだぞ。オルカ殿」

「うぅぅ……オレ、オレ、やっちゃったかもしれない」

「「やっちゃった?」」


 ロイとアオイが首を傾げる。

 オルカは、ガバッと顔を上げ、涙目だった。


「愛の魔王バビスチェだよ!! あの『聖域』? とかいう力で、学園中がその、エッチな雰囲気になったんだろ? オレ、オレ……ユイカとやっちゃったかもしれねぇんだよぉぉぉぉぉ!!」

「え、マジ?」

「お、おお……」


 ロイとアオイも驚く。

 ちなみに、オルカはアオイが女だとは知らない。


「その、えっちな雰囲気になる前、オレ……ユイカと喋ってたんだよ。秋季休暇になったら、また宿でバイトさせて欲しいって」

「お前、あんな死にかけでゲッソリしてたのに……」

「なんだかんだで楽しかったんだよ。で……なんかフワフワして、気付いたら裸でベッドにいた」

「そ、そうなのか」


 アオイがゴクリと唾を飲む。

 ロイは首を傾げた。


「あれ? 今の、どこにユイカの要素が?」

「……部屋に、ユイカの制服の、上着があった。ユイカに渡しに行ったら、すげえ申し訳なさそうにしてた……ああこれ、やっちゃったなーって。学園中で言ってる。愛の魔王の攻撃で、学園中でエッチな雰囲気になったって……つまり、オレも」

「う、うーん……」


 ロイは、ボソッとアオイに言う。


「な、どう思う?」

「うむむ……聖域に囚われてれば、間違いはあったと思うが」

「ってか、ユイカに確認すればいいか。男が聞くのもアレだし、エレノアに頼もう」

「そうだな」


 ロイたちは、エレノアたちを探すため寮を出た。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] トリステッツァの疫病もエグかったけどバビスチェの方がヤバいな…それにしても七聖剣士ってロイがいないと魔王討伐できないのかな?一応全員が最終形態まで至ったわけだけど [一言] このままい…
2023/01/27 11:46 退会済み
管理
[気になる点] バビスチェのせいだと頭では理解してても、心が割り切れるかは別問題だもんなぁ 王政国家だし平民ならまだしも貴族の場合は… [一言] >「その、えっちな雰囲気になる前、オレ……アオイと喋っ…
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