愛天使バビスチェ・キューピッドのラブソング②/無垢なストレリチア
初めて見た時から、自由な子だと思った。
「あはは!! ね、バビスチェ!! あなたも一緒に!!」
綺麗な海に、ずぶ濡れになるのも構わずに飛び込み、海水をバシャバシャさせながら踊る少女。
自由。それと同じくらい、不思議な子。
海に手を突っ込み、貝殻を見つけて愛おしそうに撫でている。
「初めまして。ここは素敵な海ね」
貝殻に話しかけている。
少女は貝殻をそっと戻し、ずぶ濡れのままバビスチェの元へ。そして、バビスチェの腕を引く。
「ね、遊ぼう!!」
「…………」
最初は、うっとおしいと思っていた。
誇り高き魔族。そしてバビスチェは滅びし種族『天使』であり、まだ『魔王』や『魔界貴族』という制度が作られる前に存在した偉大なる魔族の一人だった。
少女は、いろんなものを愛した。
「ね、人間ってみんなすごいんだよ? この机とか、ベッドとか、おうちとか、みんな自分の手で作っちゃうの。すごいよねえ」
人間の街に来て、少女は感心していた。
いろんな人間に声をかけ、挨拶し、笑い合い……少女の周りには、笑顔が絶えなかった。
不思議な少女だった。
天使である自分なんかよりも、よっぽど自由で不思議。
でも───そんな少女を愛おしく感じる自分がいることに、バビスチェは驚いた。
「バビスチェは、天使なんだよね?」
「……そうよ?」
「キレイだねぇ。まっしろな翼」
「ふふ、あなたも綺麗じゃない」
「そうかなー」
純粋無垢で、真っ白。
そういう意味を込めた。でも、少女はクスクス笑うだけで、嫌味と気付かない。
バビスチェは、少女を愛していた。
誰よりも自由、誰よりも深い愛、誰よりも、誰よりも。
天使である自分なんかより、よっぽど『天使』だった。
だから───憎かった。
「バビスチェは、綺麗だね。わたし……バビスチェのこと、あいしてるよ?」
愛。
愛とはなんだ?
好きの先にある、愛。
「わたし、みんなを愛してる!! 人も、魔族も、海も、空も、花も、草も……わたしね、この世界を包み込めるような『愛』があれば、みんな幸せになれると思うんだ」
なんだ、それは。
魔族が絶対的な力を持つ世界で、全てを『愛』する?
そんなの、天使である自分にもできっこない。
「バビスチェはできるよね。だってバビスチェは、天使だもん」
天使。
かつて、世界を支配していた種族。
バビスチェもよく知らないが……かつて、とある『炎の天使』が、『呪を司る少年』を愛し、力と翼を捨て去ったことで、天使は全て人へ身を堕としたと、なぜか知っていた。
バビスチェは思う。きっと自分は、『力を捨てた天使たちの塊』なのだと。
元は、ヒトを支配していた種族の末裔だ。なら……人を愛するのも、バビスチェの使命だ。
天使は、愛を知り堕ちた……でも、バビスチェは違う。
「ね、バビスチェ。わたし、そろそろ行くけどさ……また会おうね」
そんなある日。
少女は、そんなことを言い……バビスチェの前から消えた。
それから数千年以上経過。魔王になり、魔界貴族が制定され、人間との間に大きな戦いがあり、人間は生かさず殺さずの存在となった。
愛とは? バビスチェは、自分なりに人を愛していた。そのための力を作った。
繁殖行為は? 人間にとって最大の求愛行為。そのための力を作った。
愛情とは? 人の感情からなる幸福だ。そのための力を作った。
それらを一つにして、魔王聖域『愛溢れる楽園に住まう希望の鳥』が生まれた。
愛溢れる楽園を飛ぶ、一羽の極楽鳥。
ササライも、パレットアイズも、トリステッツァも知らない。
知っているのは、『・・の魔王・・・・・』くらいだろう。
かつて、バビスチェと行動を共にした、無垢な極楽鳥のことなんて。
◇◇◇◇◇
ロイは。自分が何を言ったのかわかっていない。
バビスチェが激高した瞬間に、『魔王聖域』を展開───今度はカッチリとハマった。
聖域の力で、バビスチェの力が七割削られたのだ。
が───同時に、ロイもごっそりと力を奪われる。
「よ、四十秒……っ」
見積もりが甘かったかもしれない。
二十秒もつかどうか。ロイは合わせた両手をそのままに、歯を食いしばる。
だが───耐える。
自分の役目は、バビスチェを倒すことじゃない。
魔王と戦うのは七聖剣士。そのサポーターとして、『八咫烏』として戦うのだ。
「耐えて、みせる……」
『ロイ、来たぞ!!』
デスゲイズが叫ぶ。
激高したバビスチェは、力が落ちているにも関わらずロイを狙ってきた。
その前に、エレノアが『鎧身形態』で立ちはだかる。
「相手はあたしよ!!」
「どけ!! 『水の聖天使』!!」
水のリングが無数に展開され、エレノアに襲い掛かる。
だが、両手剣を手にエレノアは全てのリングを叩き斬る。
そして、バビスチェに斬りかかった。
「『灼炎楼・神素戔嗚』!!」
「チッ……『土の聖天使』!!」
ボゴン!! と地面が一気に盛り上がり、エレノアを圧し潰した。
土に飲まれるエレノア。その腕に、鎧身形態のスヴァルトが現れ、エレノアの腕に黒い鎖を巻き付け引き上げた。
「オラ行け!!」
「スヴァルト先輩ありがとっ!! 『灼炎楼・天照大神』!!」
「くっ……」
巨大な炎弾が発射され、バビスチェは水のリングで受ける。が……リングが蒸発した。
翼を広げて上空へ躱すが、同じく翼を広げた鎧身形態のララベルがさらに上空へ。手にサリオス、ユノを掴んで飛んでいる。
「行きなさい!!」
「はい!!」
「めんどうねぇ!! 『風の聖天使』!!」
暴風が巻き起こるが、サリオスが盾を掲げる。
すると、光の膜が三人を包み込んだ。さらにユノがレイピアをバビスチェに突きつける。
「『霧氷月天』」
氷の魔獣。大きな顎を持つ足のない虎のような氷が生み出され、バビスチェに向かい襲い掛かる。
バビスチェは舌打ちし、両手に炎を模した剣を生み出した。
「『炎の聖天使』!!」
氷が砕け散る。
そして、氷の魔獣に気を取られていたせいなのか。
ロセが斧を振りかぶり、背後に迫っていることに気付いていなかった。
頭に血が上る……まさに、バビスチェの今の状態だ。
「『地帝』!!」
「『雷の……」
バビスチェの拳に雷が集まるが───ロセの振り下ろしのが速かった。
「『スラッシュ』!!」
右肩から左わき腹にかけて両断されたバビスチェは、大量に吐血して落下した。





