アナタの愛こそ私のすべて・愛の魔王バビスチェ⑦/集う者たち
「───ッ、あれ?」
目が覚めると、王都の街道ど真ん中だった。
エレノアが起き上がると、すぐ隣にユノが、そしてロセとララベルが倒れているのに気付く。
慌ててユノの肩を揺さぶった。
「ユノ、ユノ!!」
「ん~……? ごはん……」
「寝ぼけんなっての!! ほら、起きて!! ロセ先輩、ララベル先輩も!!」
「ん~……あらぁ?」
「くぁぁ……ぅぅ、なんか寝過ぎたような」
ユノ、ロセ、ララベルが起き、全員が目を擦る。
立ち上がり、周囲を確認……なぜ、街道で寝ていたのか? エレノアが首を傾げていると、ロセがハッとして周囲を見渡し、全員に言う。
「ね、ねえ……桃色のモヤが、消えてるわ」
「ホントだ!! おお、空気が美味しいわ~」
ララベルが深呼吸し、胸を張る。
「『魔王聖域』が消えた、ってことよね……じゃあ、っが?」
ロイが? と言おうとして声が出なかった。
ユノもウンウン頷くだけだ。
ということは、愛の魔王バビスチェと戦い、勝利したか。
それか、今も戦っているのか。
「───ッ!! この、感じ……ッ」
最初に気付いたのは、ララベルだった。
遅れてロセ、そしてユノとエレノアが気付く……学園の方角で、猛烈に嫌な気配。
四人が学園の方角を見た瞬間、紫電の雷が上空から降り注いだ。
「あれは、アオイの雷聖剣イザナギ……!? まさか、アオイが一人で!?」
「ッ、八咫烏もいる」
ロイも、と言おうとして声が出なかったユノ。
八咫烏と言い直し、氷聖剣を抜いた。
「ロセ先輩、助けに行こ」
「ええ。モヤが晴れたなら、サリオスくんやスヴァルトも動けるはず。ふふふ……七聖剣士が七人揃えば、きっと魔王にだって勝てるわねぇ」
「よっしゃ行くわよ!!」
「あ、あたしだって!!」
ララベルが先陣を切り、そのあとにエレノアが、ユノとロセが走り出す。
向かうは、聖剣レジェンディア学園。
そこに、愛の魔王バビスチェがいる。
◇◇◇◇◇
目覚めたサリオスは、飛び起きて建物から出た。
思い出せるのは、自分が聖剣の最終形態に覚醒したこと……それ以降の記憶はない。
だが、今はわかる。
「この、感じ……」
感じるのは、学園の方から発する邪悪な何か。
以前、対峙したパレットアイズ、トリステッツァと同格の存在……魔王。
紫電の雷が降り注いだのを見て、戦いはすでに始まっていると知った。
「行かなきゃ……サザーランド」
相棒の聖剣を手にする。
最終形態に覚醒したせいなのか、握ると今まで以上に力を感じる。
サリオスは頷き、聖剣を鞘に納め走り出した。
「待っててくれ……!!」
紫電の雷───……戦っているのは、アオイ。
今、トラビア王国には七聖剣士が揃った状態だ。サリオスが感じているのだ、きっとロセたちも魔王に気付き、向かっているに違いない。
サリオスは魔力を全身にみなぎらせ、身体強化。
「今、行く!! オレだって、やれるんだ!!」
正義の心を燃やし、サリオスは走る。
◇◇◇◇◇
「……オレぁ行くぜ。お前はどうする?」
「…………」
スヴァルトは、突如抜け殻のようになったアンジェリーナに言う。
アンジェリーナ曰く、魔王の聖域が消えた……つまり、バビスチェが自ら動き出したことを意味する。
バビスチェの騎士であるアンジェリーナが負けたから、自分で戦いだした。つまり……アンジェリーナはもう、お役御免ということ、らしい。
「おい、お前は」
「……どうも、しない」
「あ?」
「私は、もう……存在する価値が、ない」
「…………」
「私は、バビスチェ様の、騎士……バビスチェが戦わなくて済むために、存在する。なのに……ッ」
「ハッ、じゃあ好きにしな。オレぁ愛の魔王バビスチェのところに行く。で、お前を傷モンにしたことはキッチリ謝罪する。で……魔王を倒す」
「……バカが。倒せるわけ」
「倒せるね。そもそも、嘆きの魔王は五人で倒したんだ。七人揃った七聖剣士、さらにオレぁ最終形態に覚醒した。負ける要素あるか?」
「……」
「ここにいろ。で、オレが負けたら愛の魔王バビスチェのところに戻れ。オレが勝ったら……迎えに来てやる。お前が死を望むなら、オレがヤッてやる」
「……貴様」
「その時、死にたくないってんなら……責任取って、お前はオレの女にしてやるよ」
「……は、馬鹿が。勝手にしろ」
「そうさせてもらうぜ」
そう言い、スヴァルトは闇聖剣を担いで走り去った。
アンジェリーナは、地べたに座り、そのまま空を眺めて言う。
「……オレの女に、か」
◇◇◇◇◇
「久世雷式帯刀剣技───……『迅雷無塵』!!」
急接近してからの、目にも止まらむ抜刀連続斬り。
だが、バビスチェは右手の人差し指をピンと立て、全ての斬撃を指の腹で押さえ防御。一歩も動くことなく、アオイの斬撃を防御する。
そして、人差し指をいつの間にかアオイの額に近づけ、軽くデコピン。
「っぐぁぁ!?」
鎧の兜が砕け素顔があらわになる……が、ロイの聖域内では鎧も瞬間的に回復する。
ロイは聖域を維持しながら、生徒会室から出てバビスチェの死角に回る。グラウンドにあるポールに飛び移り、ミスリル製の矢を連続で射る。
が、バビスチェは指をパチンと鳴らしただけで、全ての矢が砕け散る。
「クソッ、権能じゃないと無理か……!!」
『ロイ、維持に専念しろ!! お前が援護するより、聖域を維持してアオイに攻撃させた方がいい!!』
聖域展開から二分が経過。
ロイは、体内に巨大な鉄の球体がずっしりとのしかかる様な疲労感を感じていた。
「ふぅぅ~……まだいける。アオイ、耐えろ!!」
「ああ!!」
「耐えるぅ? あぁ~……そういうことねぇ?」
次の瞬間───紅蓮の炎が、渦を巻いて飛んできた。
アオイは横っ飛びで回避し、バビスチェは炎を真正面から受ける。
炎は生徒会室を滅茶苦茶にし、壁を突き破り外へ飛んで行った。
「お待たせぇ!! って、アオイそれ最終形態!? わぁお!!」
エレノア、ユノ、ロセ、ララベルが来た。
そして、ロセは頭を押さえる。
「え、エレノアちゃん……こんなこと言ってる場合じゃないけど、火力強すぎねぇ?」
「す、すみません……」
そして、隣の校舎の屋上からサリオスが飛び降り着地。光聖剣サザーランドを構えた。
「遅くなりました!!」
さらに、鎖鎌をブンブン振り廻しながら、スヴァルトがゆっくり歩いてくる。
「おう、パーティー会場はここかぁ? へへへ、楽しそうじゃねぇか」
こうして、七聖剣士が全員揃った。
全員揃ったのは何時ぶりだろうか。バビスチェはクスっと微笑む。
そして、ロイが叫ぶ。仮面を被り、八咫烏の声で。
『全員、今から一分でケリ付けろ!!』
ロイの聖域が輝きを増し、エレノアたち七人を包み込んだ。