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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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アナタの愛こそ私のすべて・愛の魔王バビスチェ⑦/心から

 ロイはデスゲイズを手に、アオイのいる生徒会室へ向かう。


『聖域はまだ維持していろ。できるか?』

「ああ。前に発動させたときにコツは掴んだ。三分くらいならなんとか……発動の間、全ての権能は使えないけどな」

『……そ、そうか』


 恐ろしかった。

 人間が、たった一度発動させただけの『魔王聖域(アビス)』のコツを掴むなんてあり得ない。もう、規格外というだけではロイを現せなかった。

 ロイは身体強化で壁を駆けあがり、アオイの元へ。

 アオイはまだ全身鎧形態のままだ。


「アオイ!!」

「ロイ殿……魔王を倒した、のか?」


 アオイの奥義、『伊邪那美(イザナミ)』を喰らい、バラバラになったバビスチェの残骸が部屋中に転がっていた。目にも止まらぬ百の斬撃を同時に叩きこむ技は回避不能。魔王といえど、ここまでバラバラにされたら死は免れない……と、思っていた。

 次の瞬間、バラバラの肉片が一瞬で集まり、全裸の美女となった。


「すごいわぁ~」


 そして、怒りも恨みもなく、純粋な笑みを浮かべ手をパチパチ叩く。

 聖域を展開しているロイは気付いた。


「な、こ、こいつ……嘘だろ」

「ろ、ロイ殿?」

『おい、どうした?』

「……お、俺の聖域は、まだ発動してるよな」

『あ、ああ。そうだが……』


 ロイの聖域、『聖剣覇王七天虚空星殿せいけんはおうしちてんこくうせいでん』の能力は、領域内にいる聖剣士の身体能力を七倍に、攻撃力を七倍に、聖剣士に敵意を持つ者の身体能力を七割減、攻撃力を七割減させる効果がある。

 だが、目の前にいるバビスチェは。


「こ、こいつ……下がってない。能力値がそのままだ……う、嘘だろ。こいつ、ここまでされて、敵意を抱いてない(・・・・・・・・)ってのか!?」


 バビスチェに敵意はない。故に、聖域の効果が発動しない。

 バビスチェは、ニコニコしながらロイを……八咫烏を見た。


「不思議な子、って思ったの」

「……?」

「最初は、七聖剣士に憧れる子、そして特異な聖剣鍛冶師が打った弓矢を使う子としか思わなかったわ。でも……パレットアイズちゃんが負けて、トリステッツァが死んで、魔族のオモチャだった人間がここまで力を持つようになった」


 敵意は、ない。

 バビスチェの能力は下がっていない。『魔王聖域(アビス)』は絶対領域だ。どんな魔族も、たとえ魔王だろうとも、デスゲイズだろうとも抗えないと言っていた。


「あなた、何者かなぁ? なあんで、『魔王聖域(アビス)』を使えるの?」

「───ッ」


 ゾッとするような『何か』が、アオイとロイを包み込む。

 それは、恐怖。

 目の前にいるのは、四人いる魔王で最弱のバビスチェだ。だが……勝てる気がしない。

 ドロドロした何かが、周囲から溢れ出すような錯覚がした。


「アオイ、まだやれるか?」

「無論」

「援護する。どうやら、さっきの技じゃ核を破壊できなかったみたいだ」

『……気を付けろ。我輩も、バビスチェが本気を出したところを見たことがない。ロイ、死ぬ気で『魔王聖域(アビス)』を維持しろ。バビスチェと対等に渡り合えるのは、アオイだけだ。それに、お前の聖域……聖剣の最終形態を維持する効果もあるようだぞ』


 今さらだが、そのことにロイも気付いた。

 バビスチェは四つん這いになり、尻を高く上げる。そして腰から伸びている尻尾がユラユラと揺れ、長い舌をぺろりと伸ばす……まるで、誘惑する獣のようだ。


「私自ら聖剣士と遊ぶなんて、本当に久しぶり……アオイちゃん、八咫烏くん、楽しませてねぇ?」


 ついに始まる。

 愛の魔王バビスチェとの、真の戦いが。


 ◇◇◇◇◇


「…………ぅ」


 アンジェリーナが目を覚ますと、そこは廃屋だった。

 頭を押さえ、何があったのかを思い出すと───ドアが開き、誰かが入って来る。


「……おう」

「貴様、っつ……」

「わりぃな、服はオレが破っちまった……使えそうなモン探して、近くの川で洗った。もうすぐ乾くから、あー……その」

「……? あ」


 アンジェリーナは裸だった。

 慌てて毛布で体を隠す。スヴァルトはそっぽ向き、パチパチと音がする暖炉に、薪代わりに壊した椅子の残骸を入れる。暖炉の中には鉄瓶があり、スヴァルトはカップにお湯を注いだ。


「メシ、近くにトウモロコシがあった。食うか?」

「貴様、ふざ───」


 と、身体を起こそうとしたが、全く力が入らない。

 能力も使えず、魔力も激減……男爵級ほどに力が落ちていた。


「オレの『闇喰らい』の影響で、お前の力はしばらくそのままだ」

「何故殺さない。私は敵だぞ」

「敵でも、やっちゃいけないことくらいある。オレはやっちまった……すまねぇ」

「なっ」


 スヴァルトは謝った。

 アンジェリーナは顔を伏せる……女である以上、こういうことがあると知っていた。

 魔族も、身体の作りは人間と変わらない。

 スヴァルトにやられたことは、アンジェリーナにとって事実。

 だが……敵である自分を襲ったことが、なぜ謝罪の理由になるのかわからない。魔界貴族には人間を攫い、オモチャのようにして捨てるクズもいるというのに。

 

「責任は取る」

「ハッ……じゃあ、その命を寄越せといえばくれるのか?」

「命はやれねぇ。お前の主、愛の魔王バビスチェに頭下げる。それと、お前には手ぇ出さないし、お前が愛の魔王バビスチェの元に帰るまで、オレが守る」

「…………」


 馬鹿か、こいつ。

 アンジェリーナは素直にそう思った。

 そもそも、七聖剣士が魔王に頭下げるなんて、意味が分からない。というか考えもしないし実行する馬鹿も存在しない。斜め上すぎておかしくなりそうだ。


「ケジメだ。命を失うつもりはネェけどよ……男としての責任は取る」

「……吸血鬼、貴様」

「オレは吸血鬼じゃねぇ。スヴァルトだ。あと、人間とのハーフだからハーフヴァンパイアな」

「…………バカが」


 アンジェリーナは、ようやく白湯に手を伸ばした。

 スヴァルトは畑になっていたトウモロコシを焼き始め、アンジェリーナに渡す。


「……感謝はしないぞ」

「気にすんな」


 敵同士なのだが、不思議とそこまで嫌悪感はなかった。

 アンジェリーナは服を着る。そして、自分の身体を触る。


「クソ、ここまで力が落ちるとは……おいハーフ、私の剣は?」

「スヴァルトっつってんだろ。お前の赤い剣か? あれなら折れちまったから捨てた」

「何ぃ? クソ、ササライ殿め……所詮、試作品か」

「?」


 スヴァルトは首を傾げる。

 アンジェリーナは、魔力で自分の剣を作り出した。

 

「よし、いける……おい貴様、謝罪するというなら───……」


 アンジェリーナは気付いた。

 バビスチェの魔力が、一瞬途切れた。

 そして、『魔王聖域(アビス)』が解除された。


「あ? おいどうした」

「……え!?」


 小屋から飛び出す。

 トラビア王国までかなりの距離があるが、バビスチェの騎士であるアンジェリーナにはわかった。

 『魔王聖域(アビス)』の解除。つまり……バビスチェに、何かがあった。

 アンジェリーナは、騎士としての役目を果たせなかった。

 アンジェリーナは崩れ落ちた。


「お、おい……どうした?」

「…………」


 アンジェリーナは、もう自分がバビスチェにとって『不要な存在』であると悟った。

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