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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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アンダンテ・ノクターン③/髑髏の化身

 スヴァルトは、己の中で暴れ狂う『性衝動』と『破壊衝動』を必死で押さえていた。

 敵はアンジェリーナ。白銀の剣を振るう女騎士。

 能力は、『茨』だろうか。薔薇を裂かせたり、茨を鞭のようにしたり、足止めしたりと多様だ。剣技と合わせた連携が抜群に上手く、ロセのパワーやララベルの素早さを合わせたような強さを誇る。

 器用さもスヴァルト以上。恐らく、スヴァルト、ロセ、ララベルの三人で挑んでも勝てるかどうかわからない。

 だが……スヴァルトは、それどころではなかった。

 

「どうした吸血鬼!! 力を、本能を解放しろ!! 私は、その上をゆく!!」

「ちっくしょう……!!」

「喰らえ、『薔薇吹雪(ローズブリザード)』!!」


 無数のバラの花が咲き、花弁が刃となってスヴァルトに襲い掛かる。

 スヴァルトはアンダンテを『大鎌形態』に変え、大きく薙いで刃を吹き飛ばす。が……全てを弾き飛ばすことはできず、いくつかの刃が身体を刻む。


「っぐぁ!?」

「……つまらん。つまらんぞ!! なぜ吸血鬼の本能を解放しない。貴様、知らないのか? 吸血鬼の『本能解放』は、一時的に侯爵級レベルの力を得るということを」

「し、知るか……ちくしょう」


 本能解放。

 吸血鬼の固有能力と言えばいいだろうか。

 人間が聖剣を持つように、獣人は『野生解放』、吸血鬼は『本能解放』、ドワーフは『万力解放』、エルフは『精霊解放』など、種族に応じた特殊な能力を持つ。

 スヴァルトは人間と吸血鬼のハーフ。故に、聖剣を持ち、吸血鬼の特性も持つ。

 過去に一度、スヴァルトは『本能解放』でナハト王国に所属する聖剣士の三割を、たった一人で半殺しにした。

 全く覚えていない。スヴァルトは、自分の本能を恐れていた。


「お、オレは……嫌だ」

「……何?」

「アレは、オレじゃない。オレは……オレ、は」

「……」


 アンジェリーナは、ため息を吐いた。

 

「つまらん。こんな臆病者……私が本気を出す価値もない。もういい、貴様を殺し、あの光聖剣サザーランドの小僧を誘い出して始末する。嬲り殺しにするのは簡単すぎる……聖剣士として戦い、全てを蹂躙してから殺そうと思ったが、貴様にはその価値もないようだ」

「ッ……」

 

 サリオスは、戦える状態ではない。

 スヴァルトは、決断を迫られていた。


「…………おい」


 幸い、逃げたことで王都からかなり離れたようだ。

 それだけじゃない。

 周りには何もない。夜の暗さ、星の明るさだけの世界。

 アンジェリーナは、真紅の剣を抜いた。


「この剣を使うのは癪だが……確かに、私の剣よりも凄まじい力を感じる。貴様で試し切りさせてもらおうか」

「…………おい」

「なんだ? 悪いが、もう貴様と話すことなど」


 ゾワッ───と、アンジェリーナの全身が泡立ったような気がした。


「ッ!?」


 アンジェリーナはスヴァルトから距離を取る。

 スヴァルトは、だらんと両手を下げ、右手にアンダンテを持っている。

 脱力───そうしているようにしか、見えない。

 だが、今のスヴァルトは恐ろしい『何か』があった。


「ふ、ふん……ようやく、やる気になったか。だが、もう遅い!!」


 アンジェリーナは、右に白銀、左に真紅の剣を手にスヴァルトへ襲い掛かる。

 真紅の剣が真っ赤に燃え、白銀の剣に茨が巻き付いた。

 スヴァルトは───だらりと腕を下げたままだった。


「───……もう、いい」


 ◇◇◇◇◇◇


『受け入れなさい。押さえつけるんじゃない、これもあなた。あなたがあなたを受け入れないで、どうするの? ボウヤ……全てを解放し、本当のあなたになりなさい。きっと……その先が───』


 ◇◇◇◇◇◇


 何かが聞こえた気がした。

 スヴァルトは、アンダンテを持ち上げた。


「『鎧身(がいしん)』───」


 ブワッ!! と、アンダンテから漆黒の靄が放たれ、スヴァルトを包み込んだ。

 アンジェリーナはゾッとした。一瞬で冷や汗まみれになり、スヴァルトへの接近するのを全身が拒否した……が、アンジェリーナは気合を入れた。


「う、ァァァァァッ!!」


 白銀の剣、真紅の剣を交差し、靄に向かって斬りかかる。

 だが───靄を斬っても、感触がなかった。

 スヴァルトがいた場所には誰もいない。


「なっ……ど、どこへ『───……ウマソウ、ダナ』……ッ!! っがぁ!?」


 背後から伸びてきたのは、漆黒の鎧に包まれた腕。

 靄が消え、現れたのは───……『死神』だった。

 肌の露出が一切ない、漆黒の全身鎧。エレノアやサリオスとは違い、細身の鎧だ。

 鎧の上にボロボロのマントを羽織り、背中には巨大な鎌を背負っている。

 そして、顔。

 頭部を包み込む兜は、『骸骨』のマスクだった。

 窪んだ眼窩に、真っ赤な光がギョロっと灯る。


「……ッ!!」


 恐怖。

 アンジェリーナは、全身の震えが止まらない。

 これが『聖剣』とは思えない。

 どう考えても、魔族側……公爵級であるアンジェリーナを、超えた力だった。


『ク、ハハハ……ははは、はハはハハハ……ヒャァァァァッハッハッハッハッハッハァァァァァッ!!』


 スヴァルトは、アンジェリーナの首を掴んだまま、狂ったように笑った。

 アンジェリーナの戦意が喪失。

 スヴァルトは、アンジェリーナの鎧を砕き、肌を露出させた。


『サァ……楽シマセテ、クレ』

「…………」


 吸血鬼の『本能解放』状態。

 同時に、『闇聖剣アンダンテ』の最終形態が覚醒。

 死神の化身、『闇聖剣鎧(やみせいけんがい)アンダンテ・冥府王ノ纏ウ死躯ヘル・ニブル・ヘルヘイム』だった。

  

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「───……ぅ」


 スヴァルトが目を覚ますと、見知らぬ廃村だった。

 あばら家の中にある、粗末な毛布が敷き詰められた家。

 そこに、スヴァルトは上半身裸で寝転がっていた。


「…………お、レは」


 傍に転がっていたのは、闇聖剣アンダンテ。

 覚えているのは、水色のロングヘアの女と、戦ったこと。

 そして───吸血鬼の本能を、開放したこと。


「…………」


 身体の内側にあったモヤモヤが全て、なくなっていた。

 スヴァルトは青ざめた。

 見たくない現実が、自分の真横にあった。

 スヴァルトは、ガタガタ震えながら、自分の隣を見る。

 そこにいたのは。


「……………………」


 女、だった。

 何も着ていない。

 何があったのか、一瞬で理解した。

 女は、スヴァルトに───……スヴァルトは猛烈な嘔吐感に襲われ、小屋を飛び出した。


「う、ッげぇぇぇ!!」


 やってしまった。

 女を、しかも……魔界貴族を。

 聖剣の最終形態に覚醒したことなんて、どうでもよかった。

 

「ぅ、ぁ、あ……ぁぁ、ぁぁ」


 抑えきれなかった───……。

 吸血鬼の本能が、再び暴走した。

 敵を倒した喜びなんて、欠片もない。

 猛烈な罪悪感と後悔だけが、スヴァルトの心に残っていた。

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