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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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アンダンテ・ノクターン①/ハーフヴァンパイアの衝動

「はぁ、はぁ、はぁ……クッソ、が」


 スヴァルトは、サリオスを背負い夜の街を歩いていた。

 サリオスは『鎧身(がいしん)』し、魔界貴族侯爵の一人スキュバを討伐した。が、初めての変身に疲労困憊なのか、一向に目覚めない。

 先に起きたスヴァルト。

 ハーフヴァンパイアとしての治癒力のおかげか、怪我自体は完治していた。

 が……あちこちから聞こえてくる《甘い声》が、どうしてもスヴァルトを興奮させてしまう。ヘタな毒を盛られるよりも厳しかった。


「なんなんだよ、これは……ッ!!」


 現在、王都はバビスチェの聖域、『愛溢れる楽園に(アイビー・テラ・)住まう希望の鳥(ストレリチア)』の支配下にある。暴力が禁じられ、欲求のみが高まる聖域だ。

 直接的な攻撃ではない分、よっぽど凶悪だった。

 現在、スヴァルトは王都の裏通りを歩いているのだが……浮浪者が女を求めてさまよい、建物の中からは男女の営みで発せられる声があちこちから響いてくる。

 かつて、バビスチェの聖域によって、一つの国で人口爆発が起きたことがある。

 望まぬ《愛》によって生まれた子を受け入れることができない親。増える孤児、増える浮浪者……望まぬ愛は、時に暴力よりも狂気となり、国を崩壊させる。

 直接的な攻撃でない分、よほどたちが悪い。

 それだけではない。


「ぐ、ぁ……ぁ、っは、はぁ、ハァ……っく、落ち着け、落ち着け」


 スヴァルトは、人間とヴァンパイアのハーフである。

 純粋なヴァンパイアは数が少ない。さらに、虚弱体質ゆえに繁殖能力が低く、そのぶん性欲が旺盛である。ヴァンパイアは一夫多妻制で、平民でも妻が数人いるのはザラだ。

 ハーフヴァンパイアであるスヴァルトは、通常の人間よりも性欲が高い。バビスチェの聖域により高まる衝動を抑えるのに必死だった。

 

「合流、は……はは、マズイ、な」


 男も、女も、今は互いに出会うのはまずい。

 気を失っているサリオスも、起きれば衝動に駆られるだろう。

 戦うこともできない今は、魔界貴族に会うわけにもいかない。


「クッソが……」


 考えることで、スヴァルトは意識を切り替えようとした。

 空き家に入り、サリオスを粗末なベッドに寝かせ、自分はボロボロの椅子に座る。

 深呼吸し、今の状況を分析した。


「魔王バビスチェの力で王都が覆われてやがる……しかも、オスもメスも発情して、剣を振ることができねぇ効果付き。そういや、昔フレム王国で人口爆発があったとか……愛の魔王の手番のせいだっけか。チクショウ、直接的な攻撃より、よっぽどタチ悪いぜ……」


 このままでは───どうなる?

 魔界貴族に殺されるか、発情しメスに襲い掛かるか、そのどちらかだ。

 最終的には殺されるだろう。その前に、手を打たなければならない。


「魔王、バビスチェを倒す……これしかねぇ。でも、どこにいる? そもそも、剣が使えねぇのにどうやって? 怒りを抱くと心が静かになりやがるし、力が抜けちまう……ほんっと、嘆きの魔王より厄介だぜ」

「そうだろう? バビスチェ様の《愛》は、魔王の中で最も気高い」


 と、空き家の入口に誰かが立っていた。


「ッ!?」


 水色のロングストレートヘアの、女だった。

 腰には剣が下がり、白を基調とした薔薇の模様が入った全身鎧を装備している。

 スヴァルトは一瞬で身構えた。が……力が抜ける。


「安心しろ。ここでは殺さん」

「あ?」

「私は、少々苛ついている。このまま貴様を嬲り殺しにして鬱憤を晴らすのもいいが、七聖剣士であるお前を絶望させ、その上で殺してやる」

「ンだと、テメェ……っぐ」


 敵意を抱いた瞬間、桃色の何かがスヴァルトの全身に纏わりつき、怒りを吸い出されたような錯覚にとらわれてしまう。

 女……魔界貴族侯爵『薔薇騎士』アンジェリーナは、一輪の青いバラを投げた。


「ッ!!」


 薔薇はスヴァルトではなく、サリオスの喉に刺さり、茎が伸びて首に絡みついた。


「王都郊外にある『深き雑木林』に来い。来なければ……そいつの首に、茨が突き刺さることになる」

「テメェ!!」


 アンジェリーナは薔薇に包まれ、その場から消えた。

 スヴァルトはサリオスの首を確認する。喉に刺さった薔薇から茨が伸び、サリオスの首に巻き付いている。呼吸は安定しているが、サリオスは全く動かない……どうやら、薔薇に弛緩作用があるようだ。

 茨に触れようと手を伸ばした瞬間、茨が生物のようにグネグネと動き出した。


「クソが!! あのクソ女……ッ!!」


 どくん───……と、スヴァルトの心臓が跳ねる。

 アンジェリーナ。

 鎧でわからなかったが、スタイルもよさそうな美人だった。年齢は十九ほど。スヴァルトは一瞬だけ「魔族ならいいか……」と、アンジェリーナを『喰う』ことを考えてしまう。


「クソ、クソクソクソ!! 見失うな。オレはあんなクズじゃねぇ!! 女を食い漁るクソ親父みてぇな……おふくろをボロ雑巾みてぇに捨てた、あのクソ親父みてぇなヴァンパイアじゃねぇ!!」


 自分の頭をガンガン叩き、衝動を押さえるスヴァルト。

 床に頭を打ち付け、ようやく落ち着いたのかゆっくり顔を上げる。

 そして、サリオスを見た。


「すぐに助けてやる……待ってろよ」


 そう言い、スヴァルトは空き家から飛び出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 スヴァルトは、王都をひたすら駆け抜けた。

 上空に巨大な『白い蝶』が飛んでいるのを完全に無視し、王都郊外に向かってただ走る。

 向かうのは『深き雑木林』だ。王都からほど近い、何もないただの雑木林であり、ゴブリンなどの魔獣が徘徊することが多くあるので、新人聖剣士の訓練場にも使われている。

 王都を出た瞬間、スヴァルトは『桃色』が消失したのを感じた。


「く、ハハッハァ!!」


 右手に闇聖剣アンダンテを持ち、『鋸剣(チェンソーエッジ)』を肩に担ぐ。

 力がみなぎり、魔力操作による身体強化で駆け抜ける。

 そして、雑木林に到着。スヴァルトは『鋸剣(チェンソーエッジ)』の刃を派手に回転させ、待ち構えていたアンジェリーナに向けて振り下ろした。


「ッ!!」

「汚ねぇなんて言わねぇよなぁァァァァァッ!!」


 いきなりのことで驚くアンジェリーナ。

 腰の剣を抜き、チェンソーエッジを受け止める……が、激しく刃が回転するチェンソーエッジを受け止めると、自身の刃が回転によって弾かれた。


「『闇暴狂イ(タイラントエッジ)』!!」


 チェンソーエッジによる連続斬り。

 速度はもちろん、メチャクチャな振り回しは軌道が読みにくい。アンジェリーナはバックステップしながら剣の射程から外れようとしたが、『鎖鎌(チェーンサイス)形態』に一瞬で変形させ、アンジェリーナに向けて放った。

 アンジェリーナは鎌を辛うじて回避したが、スヴァルトの巧みな鎖操作で右腕に鎖鎌が絡みつく。


「捕まえたァァァァァッ!!」

「しまっ」


 そのまま力任せに引き寄せられ、スヴァルトはアンジェリーナを抱きしめた。

 そして、その唇を強引に奪う。


「───ッッ!?」


 アンジェリーナにも予想できない動きだった。

 敵である自分に、なぜ。

 そして、スヴァルトを見て気付いた。


「き、貴様……ッ!! ヴァンパイアか!? 性衝動に駆られて……ッ!!」

「ッ!? な、ち、ちがっ……っぁ、アァァ!! オレは、っが……ぐ、ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 アンジェリーナを突き飛ばし、スヴァルトは頭を抱え苦しんでいた。

 ヴァンパイアの性衝動。

 スヴァルトの眼が赤く染まり、血と性に飢えている。


「オレは、違うッ!! オレは、人間……ヴァンパイアじゃ、ねぇ!! アァァ!!」

「…………憐れな奴だ」


 アンジェリーナは口を拭い、自身の剣を構えた。

 すると、アンジェリーナの足下から無数の《茨》が生えてくる。


「私の唇は、バビスチェ様の物。この身を汚した罪は重いぞ……吸血鬼、貴様を滅する!!」

「く、ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! オレは、オレはッ!! ウァァァアァァァァァ!!」


 スヴァルトは、どうしていいかわからずアンジェリーナから逃げ出した。

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