サリオスの決意
ロイは、オルカと一緒に中庭でパンを食べていた。
最近、購買でパンを買い、中庭で食べることが殆どだ。
いつもは二人だが、たまにユイカが混ざり三人で食べることも増えてきた。が……今日は初めて、エレノアが一緒になり、パンを食べていた。
オルカは、緊張しつつ言う。
「い、いやぁ~……炎聖剣のエレノアちゃんと一緒にパンを食う日が来るとはね」
「別に普通だろ。それよりエレノア、友達とメシ食わないのか?」
「たまにはパンもいいでしょ。それにしても、このコロッケパン美味しいわね」
エレノアは、パンにかぶりつく。
今更だが、非常に目立っていた。
ベンチに並んで座る三人。男二人に、女が一人。しかもその一人が、炎聖剣に選ばれたエレノアだ。
さらに……大きな袋を抱えたユノもやってきた。
「あ、ロイ」
「ユノ……それ、パンか?」
「うん。購買のパン、おいしい」
ユノは、オルカをジーっと見る。一瞬で察したオルカは、ロイの隣を大きく開けた。
「ささ、どうぞどうぞ」
「ありがと」
「……別に隣じゃなくてもいいでしょ」
「ロイにお礼したいから」
ユノは、ロイの隣に座ると、袋に手をつっこんで大きなドーナツを差し出した。
「これ、前にもらったお菓子のお礼」
「あ、ああ。ありがとう」
ドーナツはフワフワで甘い。ロイが一つ食べる間に、ユノはガツガツと四つ目のドーナツに手を伸ばしていた。
なんとなく、エレノアとユノが険悪だ。察したオルカがロイに話を振る。
「それにしても、シヴァ先生ヤバかったよな」
「ああ……ありゃ怪物だ」
ロイは、自分の頭を押さえた。
木刀で軽く頭を叩かれた時の痛みを思い出す。
木剣同士の戦いだったが、ロイの素人剣術では相手にならず、訓練にすらならなかった。
そして、ロイの重大な欠陥も発覚した。
『まさか、狩り以外では魔力操作できないとはな』
「…………」
そう、ロイは身体強化を使おうとした……が、魔力が上手く使えなかったのである。
デスゲイズの出した結論は、『ロイは狩り以外での魔力制御はできない』という結果だった。せっかく聖剣士として戦う希望が見えたのだが、結局は意味がない。
「ま、剣術授業は慣れていくしかないな。それより……もう少しで一学年親睦会だな。エレノアちゃん、ユノちゃんはドレスの用意した?」
オルカも慣れてきたのか、普通に話しかけていた。
「あたしは準備した……というか、いっぱい送られてきたわ」
「わたしも、実家から」
「そっか。いや~……どんなドレスか楽しみだよな、ロイ」
「え、あ……うん」
「ふーん……楽しみなの?」
「ロイ、わたしのドレス、見たい?」
「まあ、見たいけど」
ロイは俯く。さすがに恥ずかしいのか、声が小さい。
エレノアは満足したのか、嬉しそうにロイの肩をパシッと叩いた。
「ま、当日のお楽しみね」
「………お、おう」
「むー……ロイ、わたしのも見てね」
「あ。ああ」
「モテモテだねぇ……オレ、教室戻ろうかな」
と、オルカが言った瞬間……サリオスが、ロイの前に立つ。
いつの間にか接近していたようで、四人とも気付かなかった。
「やあ、エレノア。どこに行ったのかと思えば、ここにいたのか……探したよ」
「どうも……」
「それと、久しぶりだね、ユノ」
「なんで呼び捨て? わたし、許した覚えないけど」
「それは失礼。レイピアーゼ令嬢」
サリオスが優雅に一礼。エレノアはため息を吐き、サリオスに言う。
「で……何か御用ですか?」
「お昼になっても来ないからね。心配して探しに来たんだよ」
「お昼くらい、一人で食べますよ。殿下こそ、たまには一人で食べたらどうですか?」
「あはは、それは手厳しい。でも、きみと一緒に食べたかったんだ」
「それは光栄……」
「それと、レイピアーゼ令嬢。きみとも話をしてみたかった」
「わたし、話すことない」
ユノも、素っ気ない返事だった。
サリオスは困ったように微笑み、ロイに言う。
「ロイ、だったね? 悪いけど、きみから二人に言ってくれないかな。もう少し、素直になってくれ、ってね」
「…………それは、俺が決めることではありませんので」
「…………」
サリオスは、少し驚いたような表情をしてロイを見た。
そして、仮面のような笑顔になり、ロイに言う。
「そうだね。済まなかったよ……ああ、親睦会、楽しみにしててくれ。実は、実行委員長はボクなんだ」
そう言い、サリオスは歩き去った。
残されたロイたちは大きなため息を吐く。
「あ~~~……しんどかった」
「確かに。ほんっと、めんどくさい王子様ね」
ロイが脱力し、エレノアは大きなため息を吐く。
オルカは彫像のように黙り込み、ユノは嫌悪を隠さなかった。
「わたし、あのひと嫌い」
「ま、まぁまぁ。でも……なんか、あの人って怖いな」
ロイはそう言い、サリオスが去った方向を見た。
◇◇◇◇◇◇
サリオスは、一人で校舎内を歩いていた。
一人で歩いていても絵になる少年だった。同世代の少年からは尊敬を、少女からは憧れの視線を多く感じている。光聖剣に選ばれてからは、益々感じるようになった。
悪くない。サリオスは、人に見られるのが好きだった。
「よいしょ、っと」
サリオスは、学園内にある休憩所へ到着。途中で買ったドリンクを手に、ベンチへ座る。
光聖剣サザーランドは、座るのに邪魔なので外しておく。
そして、サザーランドを眺めながら思った。
「この聖剣で、ボクは英雄に……」
光聖剣の使い手として、数百年ぶりにそろった七人の聖剣使いのトップとして、仲間を率いて魔王を討伐すれば、間違いなくサリオスは英雄になれる。
さらに───仲間の少女。炎聖剣に選ばれたエレノア。
彼女は、美しかった。
「…………欲しいな」
ポツリと、サリオスは呟く。
この国の、未来の王として……伴侶に相応しいのは、エレノアだ。
トラビア王国は側室制度もある。氷聖剣のユノも、エレノアとは違った魅力がある。他にも、聖剣使いには女性が何人かいる。
だが───邪魔もいる。
「ロイ、だったかな」
エレノアの幼馴染とかいう、黒い粗末な木刀を持った少年。
エレノアは、間違いなく彼に好意を抱いている。サリオスの勘が正しければ、ロイもまたエレノアを……これは、面白くない。
「やれやれ、前途多難だ。でも……悪いね、その恋が実ることはないよ、絶対に」
サリオスは───……ロイとエレノアの仲を引き裂く決意をした。
展開遅いですが、主人公ロイが真に活躍するまでもう少し。第一章は覚醒編です。