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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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久世雷式帯刀剣術皆伝 久世葵④/たとえ女であっても

 ロイとアオイの戦いも、佳境だった。

 と言っても……ロイは攻撃が一切できず、ひたすらアオイに呼びかけ、その剣を躱すだけ。

 魔弓デスゲイズを盾にするが、アオイの攻撃が速すぎ、避けるので精一杯だった。

 おかげで、王都からかなり離れてしまい、日が傾き始める。

 戦いが始まり、すでに数時間経過していた。


「ゼぇ、ゼぇ、ゼェ……っは、はぁ、はぁ、はぁ」

『ロイ、覚悟を決めろ!! このままではお前が……』

「嫌だ」


 デスゲイズは、アオイを倒せと言う。

 だが、ロイにはできない。

 全力を出せばアオイを倒せる可能性はある。だが……アオイを、殺してしまうかもしれない。

 仲間や人間を標的にする魔族なら、ロイは躊躇なく攻撃できる。

 だが、操られているアオイ……友人を殺す覚悟なんて、できるわけがなかった。


「アオイ、頼む……目を覚ませ」

「久世雷式帯刀剣技、『不動心(ふどうしん)』」


 アオイは納刀し、半身をロイに向け、右手が柄に伸びていた。

 居合───これまで、何度も見た。

 だが、今は集中力が桁違いに高い。


『キメに来たぞ……戦いが始まり数時間、恐らくだが、アオイも限界なのだろう』


 アオイを見ると、汗をびっしょり流し、肩で息をしている。

 バビスチェの支配下にあり、潜在能力を解放されているとはいえ、体力が激増したわけでもない。

 アオイも、限界なのだ。


『ロイ、来るぞ……そして、おそらくこれが最後のチャンスだ』

「…………」

『決断しろ。殺すか、お前が死ぬか』

「……っ」


 ロイはバックステップで距離を取る。

 アオイは追いかけてこない。居合の姿勢のまま、集中している。

 ロイも、覚悟を決めた。


「大罪権能、『色欲(ラスト)』装填」


 それは、『愛』───……いや、『支配』の力。

 矢を短弓に装填し、アオイに向ける。


「覚悟は決まった。アオイ……これが、最後の勝負だ」

「…………」


 互いに呼吸を整え───ふと、近くの木から葉っぱが落ちた。

 葉はゆらりと舞い、ゆっくりと地面に向かって落下する。

 ロイも、アオイも無言だった。

 そして───……葉が地面に落ちた瞬間、アオイが爆ぜた。


「久世雷式帯刀剣技、奥義!!」


 アオイが『雷』となる。

 全身が紫電に輝き、音や光よりも速くロイに迫る。

 瞬間、アオイは完全にこの世界から消える。

 そして、ロイが認識する前に接近し、神速の抜刀術を放った。


「『桜花爛漫(おうからんまん)雷神万刃(らいじんばんじん)』!!」


 一度の抜刀で万の斬撃を放つ、《雷》の力と久世雷式帯刀剣術の奥義が放たれた。

 常人では視認すら不可能。結果だけが残る斬撃。

 久世雷式帯刀剣術の歴史でも、この技を習得できたのは三人だけとされている。アオイはそのうちの一人であり、間違いなく天才だ。

 だが───それ以上の《天才》……いや、バケモノがいた。


「───ッふ」


 ロイ。

 ロイは、全てを視ていた。

 アオイが地面を蹴った瞬間、ほんの少しだけ真横へズレた。

 アオイの速度では急転回ができないと確信。二歩だけ左にズレると、右手を上げて短弓を構えた。

 そして、アオイが急接近。

 必殺技が放たれた瞬間、ロイは矢を発射。

 発射されたと同時に、ロイの横を通過したアオイの側頭部に矢が刺さり、アオイの眼が見開かれる。


「アオイ、聞け!!」


 ロイの声は───アオイの心に、よく響いた。


「俺は、何があろうとお前の味方だ!!」

『───……っぁ』

「起きろ、アオイ!!」

『ッ、ロ……い』

「アオイ、アオイ!!」


 頭を押さえるアオイ。

 ロイは弓を捨て、アオイの両肩をがっしり掴んだ。


「大丈夫だ!! 戻って来い!!」

『い、いの……?」

「ああ、いい」

「私、は……男。女、じゃない。兄上の、ために……」

「お前はお前だ。男とか女じゃない。お前はアオイだ!!」

「あ、オイ……? 私、が」

「そうだ。お前はアオイだ!!」

「私は……わ、たし。兄様の、変わりじゃない……私、が」

「アオイ・クゼ。俺たちの、大事な友達だ!!」

「ぁ、あ、あ……ぅ、あぁぁぁぁっ!!」


 アオイの身体がガクガク揺れる。

 アオイのヴェールが絡みつくように締まる。ロイはそのヴェールを掴み、引き千切った。


「アオイから、出て行けェェェェェェッ!!」


 ヴェールをビリビリに千切ると、ヴェールが燃え尽きた。

 そして、素っ裸のアオイがロイの胸に。


「ロイ……」

「アオイ、無事か!?」

「ああ……お前が、私を肯定してくれた。私は……男と女、二つを抱えてこれからも進む。ありがとうロイ……私の『女』を、受け入れてくれて」

「気にするな。っと……それより、着るもの」


 アオイは裸だ。

 すると、偶然ロイたちのいる場所の近くに、小さな村があった。

 向かうと、そこは廃村のようだ。ロイは入口付近の民家に入るなり、ようやく自分が傷だらけということに気が付いた。


「っぐ……」

「ロイ!? これは……まさか、私が?」

「……違う、っての」

「馬鹿!! すまない、すまない……」


 アオイは跪いて悲しむ。裸なので見えてはいけないものまで見えそうになっていた。が……今のロイはそれどころではない。

 痛みと出血で、意識が朦朧としていた。


「まずい。クソ……エレノアたちを、助けないと……ぅ」


 だが……ついにロイは、意識を失った。

 

 ◇◇◇◇◇


 ロイとアオイの決着がつく数時間前。

 王都では、巨大な蝶が羽ばたいていた。


「な、なに……アレ」

「でっかい」


 愕然とするエレノア。驚いているのかいないのかわからないユノ。

 

「不謹慎だけど、綺麗じゃん」

「…………」


 ララベルはウンウン頷きながら褒め、ロセは真っ蒼になっていた。


「そういやアンタ、虫苦手だっけ」

「きゅう……」


 ロセはそのままぶっ倒れた。

 ララベルはロセを無視し、両手に持つ双剣形態の風聖剣エアキャヴァルリィをクルクル回転させて構えを取る。


「とにかく、ブッ倒す!! ───……ぁ、あれ?」


 だが……剣を構えた瞬間、だらりと腕が下がってしまう。

 エレノアも、ユノも同じだった。


「な、なんだろ……すっごく、やる気出ないような」

「……座りたい」

「……なに、これ」


 エレノアたちは、身体の力が抜けていた。

 当然だが気付かない。バビスチェの『魔王聖域』が強化され、戦意だけでなく身体の力までもが奪われてしまう。

 七聖剣は、ある程度バビスチェの聖域に抗うことができた。だが、強化された今、それに抗うことができず、エレノアたちは動くことができない。


『フフフ……さぁ、遊びましょう?』


 エルサの魔性化は、巨大なモンシロチョウ。

 本来、バビスチェを運ぶための姿。タイガやシェンフーが地上なら、エルサは空を運ぶ役。

 女を攫い、氷漬けにして運ぶだけじゃない。エルサもまた、バビスチェの愛玩動物なのだ。

 今は、王都の上空を舞う美しきモンシロチョウだが。

 

『さぁ、我が鱗粉よ……舞いなさい』


 エルサが羽ばたくと、鱗粉が舞う。

 鱗粉は、地面に触れると一瞬で氷と化した。冷たくもない、ただ硬いだけの『氷』が、さまざまな形となり王都を覆い尽くす。

 ララベルはロセを担ぎ、全力で叫んだ。


「逃げるわよ!! 立ちなさい……立て!!」

「「っ!!」」


 エレノア、ユノが立ち上がる。

 エレノアは、教会内に倒れている上級生たちや住人の女性たちを見て言う。


「せ、先輩……この人たちは」

「無理!! 今は、自分が逃げることだけ!!」

「っ……」

「エレノア、行こう」

「ユノ……」

「大丈夫。戦えないけど……これくらい、なら!!」


 ユノが『氷聖剣フリズスキャルヴ』を振るうと、教会の外壁が凍り付く。

 鱗粉による攻撃が防がれている間に、エレノアたちは逃げ出した。


「あの蛾……!! 絶対に、許さないんだから……っ!!」

「エレノア、あれ蝶だよ」


 エレノアたちは、教会から逃げ出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ分からんけどバビスチェ編が終わった後にアオイ・エレノア・ユノがロイを巡って修羅場りそうな予感
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