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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛

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雷の記憶

「ねぇ、アオイちゃん。あなたのこと……もっと、もっと知りたいわぁ」


 学園のどこかなのか、それとも全く別の場所なのか。

 アオイは、ピクリとも動けず、ベッドの上でバビスチェのオモチャにされていた。

 拷問を受けているわけではない。ただ、身体に触れられるだけ。

 だが……その『触れる』だけが、アオイにとってはこの上ない拷問だった。


「や、め……」

「やめなぁ~い。ふふ、アオイちゃんってば、すご~く可愛い♪」

「ぅ、ぁ……」


 バビスチェは、アオイの『女』を執拗に攻めた。

 女として生まれ、男として育った。

 男の中で、生きてきた。

 女を感じることは、ほとんどなかった。

 だが……バビスチェは、アオイを『女』に戻そうとしている。

 知っているのだ。アオイにとって、これが何よりの拷問だということに。


「ね、アオイちゃん。アオイちゃんは……恋を、したことある?」


 意味が解らない。

 恋とは、男女の恋愛。

 アオイには無縁の話。女を捨てた時から、男になった時から、結婚などするつもりはなかった。

 

「女の子はね、恋をすると、強く美しくなる。そこは、人も魔族も同じ……『恋』をすれば『愛』が生まれる。『愛』の先にあるのは、男女の本能」


 バビスチェが何を言っているのか、アオイには理解できない。

 アオイに覆いかぶさり、舌を見せる。

 その舌は、蛇のように二股に裂け、長くうねる。


「私の『魔王聖域(アビス)』はぁ……『恋』の先にある『愛』を、強制的に起こすの。互いに求め合う先にある本能を刺激して開放する。……不思議よねぇ? 人間って本能を解放すると、み~んな喧嘩しちゃうの。オスとメスの組み合わせが重要みたいなのよねぇ」


 バビスチェが何を言っているのか、アオイには理解できない。


「私はねぇ、世界を『愛』で満たしたいの。人間の『欲』を解放して、オスもメスも好きな時に恋をして、愛をして……そうすれば、世界は『愛』に包まれる。みぃ~んな、幸せになれる……人って、それが理解できないのよ。私の手番は、こんなにも平和的なのに……いくつも国が滅びて、みんな喧嘩して……私は、みんなを幸せにしたいだけなのにねぇ?」


 バビスチェが何を言っているのか、アオイには理解できない。

 だが……一つだけ、わかった。


「お、前……は」

「ん?」

「お前の愛、は……愛、じゃない」

「……へぇ?」

「っぐ!?」


 バビスチェは、アオイの首に小指を突き刺した。


「私の『愛』が理解できないのねぇ……じゃあ、わかるように、いっぱい教えてあげるわぁ」

「ぅ、ぁ……ぁ」

「まだまだたっぷり、『愛』し合いましょうね、アオイちゃん♪」


 バビスチェは、アオイの身体に手を這わせ……蛇のように絡みついた。


 ◇◇◇◇◇◇


 アオイが『雷聖剣イザナギ』に選ばれたのは、七歳の時だった。

 聖剣の所持者になる前、アオイは尊敬していた兄とこんな会話をした。


「兄上。わたし、兄上みたいな聖剣士になります!!」

「そうか。うん、きっとアオイならなれるさ」


 アオイの兄、ウヅキ。彼は『雷聖剣イザナギ』の正統後継者だった。

 アオイの家は代々、雷聖剣イザナギに選ばれてきた家系。アオイの父が雷聖剣イザナギを手放したことで、新たな使い手が選ばれることになった。

 そこで選ばれたのが……アオイの兄、ウヅキ。

 才能に恵まれ、アオイの家が雷聖剣イザナギの特性を利用し作り上げた、『久世雷式帯刀剣術』の奥義を、十七歳にして会得していた。

 アオイの祖父も、祖母も、父も、母も……誰もがウヅキが後継者になり、クゼ家に栄光をもたらしてくれると、信じていた。

 そして、運命の日。


「───……え?」


 雷聖剣イザナギが選んだのは───……アオイだった。

 ウヅキが触れると、ウヅキを拒むように放電した。そして、近くにいたアオイを求めるように、イザナギはアオイを選んだのである。


「な、何故だ……何故!? 何故ウヅキではない!? ええい、その手を離せアオイ!!」

「きゃあ!?」

「っぐあぁぁ!?」


 アオイの父が雷聖剣イザナギに触れた瞬間、放電した。

 まるで、アオイを守るかのように。

 アオイは、わけがわからなかった。

 そして、見た。


「…………」


 ウヅキの、絶望した表情を。

 その二日後、ウヅキは久世家から消えた。

 ただ一言だけの書置き……「申し訳ございませんでした」と、だけ残して。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから、アオイの日常は変わった。

 祖父、父による拷問のような『久世雷式帯刀剣術』の訓練。そして、ワ国政府に知られないように、女ではなく男として育てられることになった。

 祖母も母も、文句の一つも言わなかった。

 ワ国では、男児こそ聖剣の使い手。女の聖剣士は望まれていない。

 七聖剣の一本である雷聖剣イザナギ。ワ国にとって最も重要な聖剣が、女に使われるなんてことが知られたら……考えただけで、恐ろしかった。


「脇が甘い!! お前は筋力で男に劣る!! 瞬発力、速度で勝て!!」

「お前はただでさえ女というハンデを背負っている!! 人一倍努力しろ!!」

「は、はい!!」


 アオイは、言われるがまま、己を鍛え抜いた。

 絶望した兄の顔が、頭から離れない。

 自分は、兄の全てを奪ったのだ。

 だから───兄の代わりに、男になって、雷聖剣イザナギに相応しい剣士にならなければならない。

 それはアオイにとって、ある意味呪いであった。

 七歳で雷聖剣イザナギに選ばれ、九年。

 アオイは、炎聖剣フェニキアに使い手が現れたことを知り、聖剣レジェンディア学園へ向かうことになった。


「いいですか、アオイ。決して女だということを、知られてはなりません」

「はい、母上」


 何度も、何度も言われた。

 男のようにふるまえ。男のように歩け。男のように。男のように。男のように……身体は女だが、心は男のアオイは、聖剣レジェンディア学園にやって来た。

 少し遅れての入学となり……学園に魔族が現れ、パレットアイズの襲来、トリステッツァの討伐と、いろいろな事件が起きた。

 それに関わることができず、申し訳なく思った。

 そして、初めての学生寮生活。

 友人ができた。男の友人。気さくな感じで、アオイは新鮮だった。

 だが───ちょっとした油断もあった。


「……お、女の子!?」


 ロイ。

 彼に秘密がバレてしまった。

 それだけじゃない。ロイが『八咫烏』と知り、互いに秘密を共有もした。

 今、愛の魔王が襲撃しており……動けるのは、アオイとロイだけ。

 二人で協力して戦う。そう思った矢先に、アオイは捕まり、今に至る。


「せ、拙者は……」

「駄目。アオイちゃん……あなたは女の子。私の言葉を受け入れて、ね?」

「あ、ぁ……」

「大丈夫。あなたは女の子、女の子……」

「せ、拙者……わ、私は……おん、な」

「そう。女の子……わかるかしら?」

「…………」

「受け入れたら……わかる?」

「……こい」

「そう。恋……そして、愛。そして……欲望、欲求」

「…………」


 トロン……と、アオイの瞳の光が消えていく。

 そして、むくりと起き上がる。

 一糸まとわぬ裸身を隠すことなく、立ち上がる。

 アオイが手を伸ばすと、どこからともなく『雷聖剣イザナギ』が現れ、握られた。


「欲望……」

「あなたの欲望……解放する?」

「わ、たし……」

「八咫烏」

「やた、がらす」

「その子を、あなたのモノにしてごらんなさい」

「わたしの、もの」

 

 アオイは、フラフラと歩きだす。

 バビスチェが指を鳴らすと、桃色のヴェールがアオイの身体を包み込む。

 煽情的なドレスのようになり、アオイの女としての色気が増す。


「ふふ……いってらっしゃぁ~い……♪」


 バビスチェは、歩き出すアオイの背中を見送り、手を振った。

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