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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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始まる愛の支配

 アオイを探すために走り出したロイは、むせかえるような『何か』が展開されたことに気付き、急停止……思わず口を押さえ、嘔吐感を必死にこらえた。


「う、ぐェ……なんだ、これ」

『発動したか……さっきの魔界貴族の死がきっかけだろうな』

「デスゲイズ、まさか」

『ああ。全ての『魔族聖域(デミ・アビス)』が消えた。そして……バビスチェの『魔王聖域(アビス)』が発動した』

「魔王の、聖域……」


 眼に見えない、桃色の『何か』だった。

 毒ではない。だが、毒以上。ロイは直感的に感じる。

 この聖域は、呼吸するだけで侵される。


『気を付けろロイ。これは、『愛溢れる楽園に(アイビー・テラ・)住まう希望の鳥(ストレリチア)』……バビスチェが使う、愛の聖域。ここでは我輩らのような例外を除き、バビスチェの許可なく戦闘は不可能だ』

「は? せ、戦闘が不可能って……」

『我輩も詳しいことは知らん。知っているのは、この聖域が『他者を操る』ことと、『暴力行為が不可能』ということだけ。他にも能力があるようだが……わからんな。だが、バビスチェ自身が聖域を展開したということは、バビスチェの部下たちは自由に動ける。本来の能力を使い、戦うことのできない聖剣士たちを殺すことも容易い』

「せ、戦闘できないんだろ。だったら」

『馬鹿が。そんなの、バビスチェの部下に適応されるはずがないだろう』

「……っ」


 つまり───……戦えるのは、本当にロイだけ。

 愛の魔王バビスチェ以外に、侯爵級が三人、公爵級が一人。それ以外にも配下の魔界貴族がいる。

 圧倒的不利。『闘えなくする』というだけで、こうも追い詰められるとは思わなかったロイ。

 

「くっそ……俺一人じゃ」

「見つけたぞ」


 と、廊下の最奥に、一人の少女が立っていた。

 その顔は、つい先ほど倒したタイガと全く同じ。

 魔界貴族侯爵『妹虎』のシェンフーが、ロイを睨みつけていた。


「お前だけは許さない。姉を……タイガを殺した罪、あたしが断罪してやる!!」


 ベキベキと、シェンフーの身体が変わっていく。

 両手を床に付け、尻を高く上げる。

 服が裂け、身体が膨張し、体毛が生え、牙が、ツノが、尻尾が伸びる。

 異形と化していくシェンフーは言う。


「『魔性化(アドベンド)』」


 魔性化。

 魔族の本来の姿にして最終奥義。

 廊下の壁が、窓が砕ける。シェンフー本来の姿に、廊下の大きさが耐えられない。

 

「ま、マジか……」


 全長三十メートル。

 高さ四メートル以上の、巨大な虎がそこにいた。

 桃色の体毛で、長い牙が生え、頭にはツノが生えている。


『貴様は……喰い殺してやる!! ゴァァァァァァァァッ!!』

「っ!!」


 ロイは『狩人形態(ハンターフォーム)』へ転換(コンバート)し、矢筒に手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇


 サリオス、スヴァルトの二人は、七聖剣士専用の演習場にある用具室にいた。


「クッソが……ようやく、疼きに、慣れて、きた……ッ」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 恐ろしかった。

 サリオスとスヴァルト、二人の『男』の本能が膨れがあり、暴走しそうになった。

 あの場にいた女を襲いかけた。欲望のまま手を出そうとした。

 スヴァルトは確信した。


「標的は、この学園……いや、トラビア王国全域と考えた方がいいな。殿下よぉ……コイツは、『愛の魔王』だ!!」

「あいの、まおう……」

「意識を保て!! ハラに力入れろ!!」

「う、っぎ……ぁぁ!!」


 サリオスは、自分の両頬をバチンと叩き、涙目で勢いよく立ち上がる。


「先輩、ありがとうございました……ッ!! オレ、あそこにいたら、先輩たちを」

「オレもだ。抑えが利かなかった。恐らく、ロセたちも……」

「……っ」


 サリオスは、ブルリと震える。

 愛の魔王バビスチェ。

 かつて、炎聖剣フェニキアが守護するフレム王国を襲った『愛』の力。

 人々が『愛』に狂い、内側から崩壊寸前まで追い込まれ、隣国であるレイピアーゼ王国と戦争寸前にまで関係が悪化……『愛の魔王』の手番による攻撃だと発覚した時は、すでに手遅れ寸前だった。

 だが、唐突に『愛』が消えた。人々が正気に返ったのである。

 愛の魔王襲来後の出生率は四倍強になるが、孤児の発生率も三倍以上に膨れ上がった。望まぬ子が多く生まれ、フレム王国の治安が数年で一気に悪くなったのである。

 真正面、または側面から魔族が襲撃してくるのではない。人々の感情を煽り、愛を増幅させ、操り、手籠めとし、内部崩壊を引き起こす……それこそ、『愛の魔王』バビスチェのやり方だ。

 スヴァルトは、壁を思い切り殴りつける。


「ふざけんじゃねぇ……このまま、ヤられてたまるか。おい殿下、気ィ引き締まったらロセたちを探して合流する!! 恐らく、あいつらもまだ正気を保ってるはずだ……このまま」

「せ、先輩……」

「あ?」


 振り返ると、サリオスの後ろに女が立っていた。


「ふふ、イケメンの味……甘くて好きぃ」


 魔界貴族侯爵『夢魔』のスキュバが、サリオスの背後に回り、首に吸い付いていた。


「『支配(ドミネ)キッス』……フフ、私の可愛い下僕ちゃん。一緒にアソビましょ?」

「殿下!!」

「…………ハイ、スキュバ、サマ」


 サリオスの眼が桃色に染まり、手には光聖剣サザーランドが握られていた。


「そっちの吸血鬼モドキはぁ……いらないわぁ。ヤッちゃって」

「……ハイ」

「おいおい……マジで、冗談キツイぜ……!!」


 次の瞬間、膨大な閃光が倉庫を吹き飛ばした。


 ◇◇◇◇◇


 ロイが『意識』と『感情』を奪ったはずのエレノアたち。

 だが、エレノアたちは目を覚ました。あくまで一時だけ『奪う』のであり、意識や感情などの不確かなものは、長時間奪うことができない。

 目を覚ましたはいいが……エレノアたちの身体が、動かない。


「…………?」

「あら、起きた?」

「……ぅ」


 眼を開けると───なぜか、全身が凍り付いていた。

 エレノアが目を見開く。エレノアは、生まれたままの姿で、両腕と両足が『氷』に包まれていた。

 

「なっ」

「ふふ……」


 そして、エレノアの顔を覗き込むのは、美女。

 白いロングヘアの、病的なまでに白い美女。

 魔界貴族侯爵『凍鳴』のエルサ。

 凍っているが、冷たくはない。周りを見ると、エレノアだけではない。ユノ、ロセ、ララベル……そして、エレノアの知らない上級生や、同級生たちが、裸で氷漬けにされていた。


「こ、これは……」

「『氷檻(コオリ)』……私の生み出した氷の檻よ。冷たくないでしょう? これは、氷のような……でも、氷じゃない。透明な、私の氷」

「な、何言って……ってか、ここどこよ!! アンタ誰!? みんなは!?」


 身体を動かすが、両腕と両足が拘束されているので動かない。胸が揺れるだけで、意味がない。

 

「私は、バビスチェ様の僕、エルサ」

「バビスチェ……まさか、愛の魔王」

「そう。ふふ……王国の子たちは危機感ゼロねぇ? バビスチェ様の手番が始まっているのに、のんきな子たちばかり。おかげで、やりやすかったわぁ」

「くっ……」


 エルサの手が、エレノアの頬に伸びる。

 

「……ここ、どこ」

「ここは王都にある教会。今は……私が集めた子たちの、檻」

「檻? アンタ……あたしたちをこんな風にして、どうするつもり?」

「楽しむのよ。私はねぇ? 女の子が大好きなの……たあぁ~っぷり『愛』してあげる」

「愛……」

「そう。私たちバビスチェ様の僕は全員、愛に溢れている子ばかり。あなた、いい顔してたわよ? そっちの氷聖剣の子も……」

「ど、どういう意味よ」

「八咫烏。ロイ、だったかしら? あの子に発情してたわよねぇ? ふふふ……あの子が本物だったらよかったのに、ねぇ?」

「ほ、本物って……」

「偽物。あのロイは偽物……本物は今頃、シェンフーの餌ねぇ?」

「っ!!」

「感じない? シェンフーの本気……あの子、姉を殺されて本気で怒ってた」

「ロイ……」

「さぁ、こっちも楽しみましょう。愛溢れる世界に住む、可憐な小鳥たち」

「くっ……フン!! アンタなんかにあたしは負けないし!! 来い、フェニキア!!」


 エレノアが叫ぶ。

 だが、聖剣が反応しない。

 エルサが指を鳴らすと、祭壇の上に凍り付いた五本の聖剣が現れた。

 エレノアたち、七聖剣士の聖剣だ。


「残念でした」

「……ッ」


 炎聖剣フェニキアは、ピクリとも反応しなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! [気になる点] エルサが指を鳴らすと、祭壇の上に凍り付いた五本の聖剣が現れた。5本って事はアオイの聖剣もあるのか?アオイもここにいるのかな?それにしても闘えるの…
2022/12/14 11:43 退会済み
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