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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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魔界貴族侯爵『姉虎』のタイガ/触れてはならないモノ

 ロイと『ロイ』は向かい合い、同時に矢を番え構えた。


「一つ、教えてあげるね。あたしは、触れた相手を『コピー』して、成り代わることができるの。身体機能、能力を完璧にコピーできる。でも、記憶だけは違う……あんまりその人に成りきっちゃうと、『あたし』に戻れなくなるからね。だから、長くても一ヵ月くらいの記憶だけをコピーするの」

「…………」


 『ロイ』こと『八咫烏』は、ミスリル製の矢を向ける。

 ロイも同じミスリル製の矢だ。

 身体能力は同じ。だが……ここは、タイガの作った『聖域』だ。


「『(くるり)』」

「っ!?」


 すると、ロイの立つ地面が、ロイの足をくっつけたまま回転。

 ロイが逆さ吊りなる。だが、落ちないし、普通に歩ける。逆さ吊りが、ロイにとって『普通の地面』になるという異常事態だった。


「そして、ここはあたしの聖域。ふふふ……上下左右、自分がどこに立っているかわからない感覚で、『ロイ』を相手に戦えるかな~?」


 ロイが矢を放つと、八咫烏に命中することなく、矢の軌道が直角に変わり、柱に突き刺さった。


「!?」

「あたしは、空間を操れるの。矢の軌道が変わったのは、あれが『真っすぐ』だから」

「……?」

「意味、わからないよね。まあそれでいいよ」


 八咫烏が矢を放つ。

 ロイはまっすぐ飛んでくる矢を横っ飛びで回避する───が、再び地面が動き、さらに矢の軌道までも変わり、躱したはずの矢がロイを狙って吸い込まれるように飛んできた。


『躱せ!!』

「くっ───」


 身体を捻り、なんとか躱す。

 だが、八咫烏はすでに別の矢を番え、射る。

 ロイも反撃にと矢を放つが、全ての矢が八咫烏の手前で軌道が変わる。


「無駄」

「───っく」

「三分、経過しちゃうよ?」


 ロイは廊下を駆ける。だが、八咫烏が瞬間移動したように前に現れ矢を放つ。


『避けろ!!』

「避けない」


 ロイは弓で矢を叩き落し、その矢を番え八咫烏に放った。

 飛んできた矢を利用した攻撃に驚くデスゲイズだが、笑った。


「ふふん」


 なんと、八咫烏も同じことをした。

 ロイが放った矢を受け、番え、放つ。流れるような動きだ。

 その矢を、ロイはギリギリまで引きつけ、自分の矢で撃ち落とす。


「くっそ……あいつ、厄介すぎだろ」

『お前が敵になると、こうも厄介だとはな……』

「デスゲイズ、どうする」

『…………一つ、手はある。確証はないが』

「それでいい。何もないよりましだ」

『あいつは言ったな? 姿形、能力、身体機能をコピーすると……なら、あいつも『大罪』を使えるはず。だが、使うつもりがないようだ』

「……?」

『確証はない。だが……あいつに能力を使わせれば、可能性がある』

「……わかった」


 ロイは、『憤怒(ラース)』を発動させ、攻撃主体の『殺戮形態(キラーフォーム)』に転換。ショットガンを構え、八咫烏に突き付けた。


「もう、矢は通じない。この形態の防御力なら、全て弾ける」

「へぇ……」

「俺の真似事が得意なら、撃ち合おうぜ」

「言うねぇ」


 八咫烏は、番えていた矢を矢筒に戻した。


 ◇◇◇◇◇◇


 タイガは、考えていた。


「…………んー」


 ロイの『聖剣』の能力が、使えないわけじゃない。

 タイガの手にある『弓』も能力を持つ。ロイの記憶を探ると、七つの能力が付与されていることがわかった。現在、使えるのは四つだけだが。

 だが……妙な胸騒ぎが、タイガの中にあった。

 使ってはいけないような、触れてはならないような。

 現に今も、通常の矢を射るだけで、能力は使っていない。


「俺の能力で戦うか? いいぜ、撃ち合いで決めようじゃねぇか……!!」


 ロイが、『ショットガン』を八咫烏に向ける。

 タイガは悩む。

 だが……『憤怒(ラース)』の防御を突破するだけの矢は、通常矢だけでは不可能だ。

 タイガは決めた。


「いいよ。少しは熱くならないと、面白くないもんね」


 使うのは、ロイと同じ『憤怒(ラース)』ではない。

 あの防御を破れるだけの矢を精製することができる、『暴食(グラトニー)』の力。

 タイガは、矢筒に手を伸ばす。


「大罪権能『暴食(グラトニー)』装填」


 ◇◇◇◇◇◇



『───……』




 ◇◇◇◇◇◇


「……えっ」


 ───……ドクン、と何かが脈動した。


 力を行使した瞬間、胸の内に沸き上がった何かが、膨れ上がった。


「な……な、なに」


 ◇◇◇◇◇◇




『───……オ前ハ、違ウ』




 ◇◇◇◇◇◇


「───……っは、っごぉぉぉぉぇぇぇっ!?」


 次の瞬間、タイガの内臓の七割が、内側から喰われた(・・・・)

 吐血だけではない。肉片を大量に吐き出し、血の涙を流すタイガ。

 心臓、核は無事だ。死ぬことはない……が、地獄の苦しみ。

 再生が遅く、八咫烏の姿からタイガの姿に戻ってしまう。

 ロイは、唖然としていた。


「な……何だ?」

『ふん、我の許可なしに『暴食』に触れたからだ。お前の使う七つの大罪は、我輩が作り出した究極の権能だ。まさかと思ったが……やはりそうだったか』

「ど、どういう」

『こいつは、コピーをする時に対象に触れなければならないはずだ。その時に、姿形、能力などをコピーして自分で再現するんだろう。ロイの姿と能力をコピーした時に、我輩と七つの大罪の繋がりをもコピーした。そして、疑似的に七つの大罪に触れ……あいつら(・・・・)の怒りに触れたんだろう。暴食め……核を食わず残すとは、相変わらずお優しい』

「や、優しいのか……?」


 すると、『上下左右(アベコベ)』の聖域が解けた。

 タイガはビクビク痙攣しながら、口をパクパクさせていた。


「こ、へへへ……ばけ、モノ……し、シシシ」

「…………」


 ロイはショットガンを、タイガの心臓目掛けて撃つ。

 散弾がタイガの胸に大穴を開け、タイガの身体が青い炎に包まれた。

 

「……おい、デスゲイズ」

『ん』

「七つの権能って……何なんだ?」

『我輩の作った最強の力だ。我輩も把握しきれていないがな』

「は? お前が作ったのにか?」

『そうだ。そのうち、ちゃんと話す』

「……わかった。とにかく今は、アオイを探さないと」


 タイガが燃え尽きたのを確認し、ロイは再び走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「───……えっ」

「シェンフー、どうしたの?」

「……タイガが」


 スキュバがシェンフーの顔を覗き込むと、その眼が見開いていた。

 エルサが何かに気付き、アンジェリーナも気付く。

 タイガの張った聖域が、消えていた。

 ベッドでアオイの身体をたっぷり弄っているバビスチェも気付く。


「あらぁ……タイガちゃん、死んじゃったのねぇ」

「……!!」


 アオイは、身体中触れられながらも、その言葉にはっきりと聞いた。

 このタイミングで魔界貴族を倒せるのは、ロイしかいない。

 すると、シェンフーが部屋を出て行こうとした。スキュバが慌てて止める。


「ちょっとシェンフー、どこ行くのよ」

「あいつを殺す。タイガの仇を」

「だ、ダメに決まってるでしょ? あなたまで何かあったら……」

「離せ!! あいつ……あんなやつに、タイガが、タイガが……ッ!!」


 すると、エルサが挙手。

 バビスチェが、アオイの胸から手を離して髪をかき上げた。


「バビスチェ様……そろそろ、計画を進めないと」

「ん~……そうねぇ。あなたたちも、本気で遊びたい?」

「はい……バビスチェ様にお借りした力は、お返しします。タイガの仇です……あなた様が狂わせた世界を、私たちが色付けします……」

「……そうねぇ」


 バビスチェが指を鳴らすと、エルサ、シェンフー、スキュバ、アンジェリーナの身体から、小さな光の球が胸から飛び出してきた。それが一つになり、バビスチェの胸に吸い込まれる。

 バビスチェは、両手の親指と人差し指でハートマークを作り、印を結ぶ。


「『魔王聖域(アビス)』展開」


 バビスチェを中心に、キラキラした桃色の光がトラビア王国全体を包み込む。

 不思議な甘い香りが王国を満たし、道行く人、聖剣士たちがトロンとする。

 それは、魅了。

 愛の魔王の魅了が、トラビア王国を包み込んだ。

 シェンフー、エルサ、アンジェリーナが展開した三つの聖域の力を、バビスチェ一人が作り出し、王国全体に広がっていく。

 その濃度は、三人で展開した聖域の比ではない。

 全てを《愛》に狂わせる、魔性の聖域。


「『愛溢れる楽園に(アイビー・テラ・)住まう希望の鳥(ストレリチア)』」


 バビスチェの『愛』が、トラビア王国を包み込んだ。

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