愛の支配②/魔界貴族??『??』???
サリオスは、ロセと二人で学園内の見回りをしていた。
今日は臨時休校。学生は全員寮内で待機。王国から派遣された聖剣騎士団が校内を巡回し、男子寮内に現れた魔界貴族らしき存在の足取りを探っている。
サリオスは、ため息を吐いた。
「はぁ……」
「サリオスくん、どうしたのかな?」
「いえ……まさか、校内に魔界貴族が現れるなんて。入学して間もない頃と合わせて、二回目です」
「ふふ。そうだね……でも、今のサリオスくんはとっても強くなったし、次に魔界貴族が現れても大丈夫!」
「ロセ先輩……はい、次は負けません」
サリオスは頷くと、ロセがニッコリ笑ってサリオスの手を取った。
「え、ろ、ロセ先輩!?」
「サリオスくん。サリオスくんはとっても強くなったよ。もっと自信を持って」
「は、はい」
「うん。お姉さんとの約束」
「…………」
お姉さん。
ロセにとって、サリオスは「カワイイ弟」のような存在なのだろうか。
気になるのは、スヴァルト。
ララベルもだが、同期。気心の知れる相手だろう。
もしかしたら、恋愛感情も。
「…………」
「サリオスくん?」
「……あの、ロセ先輩───」
サリオスが、ロセに質問しようとした瞬間だった。
冷たい殺気が、二人を射抜く。
「「───!!」」
二人は同時に、すぐ近くにある物置小屋の屋根を見た。
「あれは……ッ」
サリオスが光聖剣サザーランドを抜く。
ロセも地聖剣ギャラハッドを収納から出し、ブンブン振り回してズシンと構えた。
物置小屋の屋根にいたのは……巨大な、二メートルほどの男。
頭にツノが生え、口から牙が生えている。
サリオスは、聖剣を突きつけて叫んだ。
「お前が男子寮に侵入した魔界貴族か!!」
『…………』
「答えろ!! 雷聖剣のアオイと組んで、何をするつもりだ!!」
『…………』
魔界貴族は、右手に『短弓』を装備していた。
杭のような矢を番え、静かに言う。
『五分以上───……俺が相手をしてやるよ』
◇◇◇◇◇
ロイは、聖剣を構えるサリオス、ロセを見て、改めて自分の姿が『八咫烏』と認識されていないことを知った。
現在、ロイは『暗殺形態』で物置小屋の屋根にいる。
『ロイ、わかっているな? 『暗殺形態』以外の力は使うな。弓を使い、他の能力を使うことが知られれば、お前が八咫烏だと疑われる。欺くなら、完全に欺け』
「わかってる」
使えるのは『強欲』の形態のみ。
ロイは屋根から飛び降り、地上に降り立った。
『そして、本気で狩るつもりで戦え。妙な手心は加えるな。時間を稼ぎつつ、相手をしろ』
「相変わらず無茶言いやがる……まぁ、やってやるよ、暴れるなら、派手にだな」
「行くぞ!!」
サリオスが、身体強化をして迫って来た。
ロイも身体強化をする。そして、物置小屋のドアに矢を放つ。
「『入替』」
「!?」
ロイとドアの位置が入れ替わる。
『強欲』の力は奪う力。
奪い与える『譲渡』と、矢を刺した物とロイの位置を入れ替える『入替』の力。デスゲイズは思った。
『お前、本当に能力を理解し使うことに長けているな』
サリオスはドアを一刀両断。
すると、片手剣形態のギャラハッドを手に、ロセが迫る。
「『地帝』!!」
「っ!!」
「『乱れ斬り』!!」
ロセの連続斬り。斧だけでなく、剣の扱いも抜群に上手い。
だがロイは全て回避した。紙一重での回避にロセはギョッとする。
そして、ロイは気付いた。
背後から迫りくる『鎖鎌』を、しゃがんで回避。
「チッ……」
「まだまだぁ!!」
スヴァルトだ。
そして、スヴァルトを飛び超え、双短剣を手にしたララベルが風の如く迫る。
速度はロセよりも速い。
「『風舞踊陣』!!」
風を纏い、舞うような連続回転斬り。
ロセよりは速い。だがロイが全てを回避し、距離を取る。
同時に、物置小屋に矢を放ち、戻ってきた矢を手で掴んだ。
「サリオス、合わせてッ!!」
「はいっ!!」
サリオスは双剣を。
ララベルは双剣を連結させると、刃がぐにゃりと曲がった。風聖剣エアキャヴァルリィの『回転曲刀』である。
「『シャイニング・ブレイバー』!!」
光を纏ったサザーランドによる一刀両断だ。
サリオスらしい、まっすぐな斬撃だ。
その背後で、ララベルがブーメランエッジを投擲。風を纏い竜巻となり飛んできた。
そして、スヴァルトが鋸剣を手にロイの隙を伺い、ロセが大戦斧を手に向かって来る。
「……すごいな」
ロイはポツリと呟き、矢を放つ。
ロイの矢は、サザーランドと真正面から衝突した。
「えっ」
衝突した瞬間、サザーランドが消えた。
サリオスの手から、すっぽりと。
変わりに、サリオスの両手に『鎖』が巻き付いた。
ロイが最初に撃った矢は、物置小屋にあった鎖を奪い、二発目に撃った矢はサザーランドと鎖の位置を交換するために撃ったのだ。サザーランドは、物置小屋にカランと転がっている。
そして、ロイは小石を投げ、矢を放つ。
小石とロイの位置が入れ替わり、ロイは再び物置小屋の屋根に着地した。
「「っ!!」」
ロイに攻撃を仕掛けようとしたスヴァルト、ロセが止まる。
ブーメランエッジを回収したララベルが舌打ちする。
サリオスは鎖を外し、聖剣に向けて手を向ける。すると、サザーランドがサリオスの手元へ戻った。
「全員、気を付けて!! コイツ、マジで厄介かも!!」
ララベルが叫ぶと、四人はロイに最大の敵意を向けた。
ロイは……ほんの少しだけ悲しくなる。敵のように、本気で敵意を向けられている。
だが、これも仕方がない。
ロイは、小さく息を吐き……サリオスたちを『狩る』ために殺気を放つ。
「「「「っ……!!」」」」
四人は、ロイの殺気に押される。
魔王以下、公爵級以上……それくらいの強さはあった。
「サリオスくん……エレノアちゃんと、ユノちゃんを呼んできて」
「でも……」
「大丈夫。おねがい」
「……わかりました」
サリオスが離脱。
ロイは追わない。むしろ、二人を呼ぶのは賛成だ。
そして、ロイは小さく呟いた。
「頼むぞ、アオイ……」
◇◇◇◇◇
アオイは、ロイの『強奪』で気配を奪われたおかげで、軽々と学園に侵入できた。
気配を察知する『雷命』で、ヒトや魔族の気配を探りながら進む。
アオイの目的は、ロイが命がけで聖剣士たちと戦っている間に、少しでも魔族に関するヒントを探ることだ。
「持ちこたえてくれよ、ロイ殿……」
アオイは、手掛かりを得るべく学園内に向かって走り出した。