これからすべきこと
ロイとアオイは、未だに郊外の森にいた。
「やるべきことはいくつかある。まず、『聖域』を展開している魔族を倒すこと。俺の偽物を倒すこと。『愛の魔王』を探すことだ」
「ふむ……魔王を倒すのか?」
「ああ。『聖域』を消して、七聖剣士たちを解放すれば、愛の魔王と戦えるはずだ」
「魔王を、討つのか……」
「できるさ。嘆きの魔王は、聖剣士五人で倒したんだからな」
アオイは「確かに」と頷いた。
すると、デスゲイズは言う。
『バビスチェは狡猾だぞ。恐らく、配下の魔族が全て倒されても姿を見せることはない。だが……間違いなく、王都のどこかにはいるはずだ。『聖域』を展開するために、魔族に直接力の供給をしているはずだからな』
「なら、配下を全員倒して引きずり出す。出て来なくても、何かしら反応はあるはずだ」
「…………ロイ殿」
「ん?」
「先ほどから気になっていたが、誰と会話しているのだ?」
「あー……デスゲイズ、もういいだろ? 今、動けるのは俺とアオイだけだし」
『……やむを得んな』
アオイに頼み、血を一滴デスゲイズへ垂らす。すると、デスゲイズの声がアオイに聞こえるようになった。
『お前にも呪いをかけた。我輩とロイのことを喋ろうとすると、声が出なくなる呪いだ』
「なんと……ふ、だが安心しろ。拙者も秘密を抱えているからな。お互い様というわけだ」
『フン。まあいい……』
こうして、デスゲイズとアオイが会話できるようになった。
◇◇◇◇◇◇
『まず、状況を整理する』
デスゲイズが言う。
現在、トラビア王国全体に、『認識を変える、意識を変える』聖域が展開されている。そしてさらに『感情を増減させる』聖域も展開……人間関係が悲惨なことになるような状態だ。
わかっていることは、魔界貴族が化けた偽の『ロイ』が、エレノアとユノに近づいていること。感情が増減している今、偽ロイが何かをすればきっと、取り返しのつかないことになる。
そして、アオイ。
アオイは、魔族を寮内に手引きした裏切り者、という認識だ。
「な、何? ま、待て、拙者は逃げただけで」
『常に最悪の事態を想定しておけ。それ以下にならなければ、まだ気分的にいい』
「む、むぅ……」
アオイの捜索も行われているだろう。
同時に、認識が変化し、魔族のような外見となったロイのこともだ。
一緒に行動をしたら、間違いなく『敵』とみなされる。
「かなりヤバい状況だよな……直接戦闘する方が楽だと思えるよ」
「同感だ」
『とりあえず、城下町で情報を探れ。と言いたいが……すでに展開されている『聖域』に踏み込むと、お前とアオイの位置はすぐにバレる。本当に厄介───……』
「くそ……どうすればいいんだ」
「くっ、気配を探知されないように動く……のは、無理か」
『くくく、話は最後まで聞け。ロイ……お前に与えた『強欲』の力を忘れたのか?』
「え?」
ロイは数秒考え、「あ……」と何かに気付き、ニヤッと笑った。
そして、『暗殺形態』に変身し、短弓を展開。
「大罪権能『強欲』装填」
「ろ、ロイ殿? な、何を……? なっ!?」
ロイは、弓をアオイに向けた。
警戒するアオイだが、ロイはアオイが剣を抜く前に矢を放つ。
放たれた矢はアオイの胸に刺さる。
「っぐ……? あ、あれ? い、痛くない……」
それどころか、矢が消えた。
矢が消え、ロイの元に矢が戻る。
ロイは同じように、自分にも矢を刺した。刺さった矢がロイの手元に戻り、二本の矢を手元で弄ぶ。
「アオイ。俺とお前から『気配』を奪った。この矢に、俺とお前の『気配』が込められている……こいつを、こうする!!」
ロイは、二本の矢を森の中へ。
森にいた番のリスに矢が命中すると、驚いたリスは森に消えた。
「よし。これで城下町に入っても、俺とお前の『気配』が探られることはない」
強欲の権能、『強奪』で、ロイとアオイの気配を奪った。
それだけじゃない。奪った物を与える『譲渡』の力で、森のリスに打ち込んだ。
奪う力。奪ったものはロイのモノ。それをどうするかはロイの自由。それこそ『強欲』だ。
「姿は見られるけど、気配はない。王都に侵入してもそう簡単にはバレないだろう。アオイ……城下町のどこでもいいから、安宿を手配してくれ。そこを拠点にして、魔界貴族を捜索する」
「わかった。それにしても、恐ろしいな……誰も気づいていない。愛の魔王の手番がすでに始まり、王都が危機に瀕しているなど……」
『これがバビスチェのやり方だ。気を付けろよ、二人とも』
ロイたちは、ようやく移動を開始。
トラビア王国の王都に潜入した。
◇◇◇◇◇◇
アオイが先行し、王都の外れにある宿を手配。アオイだけチェックインし、ロイは窓から部屋に入る。
ようやく落ち着き、アオイはため息を吐いた。
「疲れたな……」
「だな……なぁ俺、魔族に見えるんだよな」
「拙者には何とも見えんが……ふぅ」
アオイは制服の上着を脱ぐ。
「湯を浴びる。ロイ殿も、今日は休むといい」
「ああ。って!?」
この部屋はシャワー付きだ。
アオイは制服を脱ぎ、シャツを脱ぎ、胸を押さえていたサラシを外し、胸を露わにした。
「お、おま!? なにしてんだ!?」
「湯を浴びると言っただろうに」
「い、いや……ここで脱ぐなよ!?」
「かまわん。それに、ロイ殿は拙者が女だと知っているだろう?」
「え、ええぇ?」
初めてアオイが女だと知った時も、浴場だった。
あの時は、アオイは「女」であることがバレるのを恐れ、動揺していた。
そう……性別を知られた今、「女」であることがバレたロイに遠慮することがない。裸を見られて恥ずかしいのではなく、性別がバレそうになり慌てていたのだ。
アオイは下も脱ぎ、手拭いを肩にかけロイの前へ。
「お先に失礼するぞ」
「こ、こっち来なくていいし言わなくていい!!」
「うむ」
そう言い、アオイはシャワー室へ消えた。
ロイはベッドへ身を投げ出し───……ようやく気付いた。
「あれ? そういや部屋……一つだけ?」
こうしてロイは、アオイと同じ部屋で一晩過ごすこととなった。