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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
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疑心

 アオイが寮に戻ると、ロセ、ララベル、エレノアとユノ、サリオス、スヴァルトの七聖剣士が出迎えた。七聖剣士全員の集合に、男子寮内は羨望と緊張に包まれる。

 スヴァルトは、アオイに言う。


「で、どうだった?」

「すまない。見失った……」

「ほぉ……」


 スヴァルトは「面白くない」と言いたげな表情だ。

 エレノアとユノも、やや不満そうだ。

 すると、エレノアが言う。


「ね、アオイ……何があったの?」

「え?」

「その、オルカの話だと、あんた……魔界貴族と一緒に部屋に入ったんでしょ? オルカが気付いて、あんたが気付かないの、ちょっとおかしいかなって」

「なにかされた?」

「何?」


 アオイは『雷命(ライメイ)』でエレノアたちを見る。そこで見えたのは生体電流の揺らぎ……これは、疑心だ。

 アオイは言う。


「気付いていないのは、むしろそなたたちの方だろう。む……『ロイ殿』は?」

「……なんでロイ?」


 ユノがムッとする。

 アオイは、『ロイ』が偽物だと知っている。だが、ここで『ロイ』が魔界貴族が化けた偽物だと叫んでも、頭がおかしい奴と思われるだけだ。それに、できることなら『ロイ』は、こっそり始末したい。

 偽物だとは確信しているが、大勢の前で斬り殺すような真似をすれば、仲間たちからも正気を疑われる。それに……実感は湧かないが、王都は今、『魔族聖域(デミ・アビス)』とやらで『認識が変化』している状況だ。ロイの話を全て信じたわけではないが、信憑性はある。

 すると、ロセが。


「ね、アオイくん。魔界貴族とあなたが一緒に食堂に入ってきたのは事実なの……もしかしたら、精神作用系の力で、何かされたのかもしれないのよね」

「……つまり」

「テメーは謹慎だ。事態が収まるまで。つまり、オレらが魔界貴族を殺すまでな」

「……」


 能力、『雷命(ライメイ)』発動。

 アオイの能力は、生体電流を読み取ったり『力』の流れを読み取り、動きを先読みする。

 だが、読み取れるのは力や電気だけじゃない。感情の流れ、血流、筋肉、内臓の動きなども読み取ることができる。

 生体電流や力の流れを読み取ることは造作もないが、それ以外のモノを読むには集中力が必要で、戦闘には使えない。

 アオイは、ロセたちの『流れ』を読み取る。


「…………そういう、ことか」


 流れが、不自然だった。

 感情の一部が増幅されている。しかも、不自然な魔力の流れが、この場にいる全員を支配していた。

 これが魔界貴族による『魔族聖域(デミ・アビス)』の効果。

 認識を変える、だけではない。

 心の一部を操ることも可能な、凶悪極まりない能力だ。

 恐らく、『アオイへの疑心』を増幅させ、『ロイへの違和感』を極限まで薄めているのだ。

 このままでは、まずい。

 

「───すまないが、ここで捕まるわけにはいかない!!」

「「「「「「!!」」」」」」


 七聖剣士の六人が、ほぼ同時に収納から聖剣を出すが、アオイのが速い。

 七人の中で抜刀最速のアオイは、雷聖剣イザナギを手にすると一気に弾けた。


「『雷迅(ライジン)』!!」


 紫電と共に、アオイがその場から消えた。

 開いていた窓のカーテン。その一部が、少しだけ焦げていた。


 ◇◇◇◇◇


 『暗殺形態(アサシンフォーム)』に変身したロイは、さっそく王都に戻ろうとしたが。


「すまん……」


 物凄い勢いでアオイが戻ってきた。

 そして、つい先ほどまで腰かけていた岩場に戻り、話をする。

 ロイも、変身を解いてしまった。


「寮に戻ったが、七聖剣士を含むほぼ全ての人間が、魔族の妖術に囚われている……拙者を、魔族の仲間と思い、不当に拘束しようとしてきた」

「ロセ先輩たちが、そんなことを……」

「くっ……あの魔族め、拙者を『除外』というのは、そういう意味か……!!」


 アオイは拳を握り、歯を食いしばる。

 デスゲイズは言った。


『どうやら、動けるのはお前とこの女だけ。二人で魔界貴族と、バビスチェを始末するしかない』

「二人、って……この『魔族聖域(デミ・アビス)』を解除すれば、少なくともみんなは戻るだろ?」

『そうじゃない。完全に、バビスチェの計画通りだ。あいつの力は、他者を攻撃する力じゃない。力ある者を誘惑、困惑させ、狂わせ、内部崩壊させる。このデミ・アビスも、魔界貴族を経由したバビスチェの力の一つ……いいか、バビスチェの恐ろしいところは、自ら作り出した『魔族聖域』を、他の魔界貴族に使わせることだ。あいつは自らの聖域以外に、いくつもの『魔族聖域』を持っている……来るぞ』


 すると───……薄い桃色の霧が、森から漂ってきた。


「「!!」」


 ロイは『狩人形態』へ、アオイは腰に刀形態のイザナギを装備。


『攻撃じゃない。見ろ……この霧、王都を包み込んでいる』

「な……」

「こ、これは……ロイ殿、これは一体!?」


 トラビア王国王都が、桃色の霧に包まれていた。


 ◇◇◇◇◇


 トラビア王国の中心、大中央広場。

 この広場の中心で、 魔界貴族侯爵『虎妹』のシェンフーが、『ロイ』と一緒にいた。

 シェンフーは、両手の指を絡ませ、『印』を結んでいる。


「『魔族聖域(アビス)』展開~っ……ふふん、『虎色桃色魅惑色(ピンキーミスト)』」


 薄桃色の霧は、常人には視認できない。

 小さな女の子が、指を絡ませて遊んでいるようにしか見えないだろう。

 だが……その霧は、間違いなく発生している。


「ね、タイガ。バビスチェ様の命令、これで終わり?」

「うん。霧を吸い込んだ人間は、《愛》がふくらんで行くよ」


 『ロイ』らしいからぬ言葉遣いだ。だが、タイガは気にしていない。

 

「ね、タイガ。エルサの方は?」

「エルサの『聖域』も展開中。いろんな感情が増幅したり、薄まってる。ふふん、『八咫烏』のことも、面白いことになっちゃうかもっ」

「えへへ、ワクワクするね」


 アビスを展開したシェンフーは、ニコニコしながら『ロイ』の腕に抱きつく。


「作戦通り、だねっ」

「うん。ふふふん。『八咫烏』を使って、七聖剣士を仲間割れさせるね」

「うんうん。みんな、この霧を吸い込んじゃって、胸がモヤモヤしてると思う。その隙を突けば、面白いことになっちゃうかも」

「うん! えへへ、楽しくなってきた」


 認識をバグらせ、感情を操り、人間関係をめちゃくちゃにして内部崩壊させる。

 これが、バビスチェの『手番』だ。

 直接戦うのではなく、内側から徐々に、徐々に腐らせる。

 姿の見えない敵。これこそ、恐るべき敵だった。


 ◇◇◇◇◇


 バビスチェは、王都の高級宿にある浴場を貸し切り、泡風呂を楽しんでいた。

 一人ではない。バビスチェの騎士であり、魔界貴族公爵『薔薇騎士(レディ・ローズ)』アンジェリーナも一緒だ。

 バビスチェは、マットの上に寝そべり、アンジェリーナに背中を洗ってもらっている。


「フフ……順調みたいねぇ?」

「はい。シェンフーが『聖域』を展開。エルサの『疑わしき隣人(アヤシキモノ)』と合わさり、王都内は少しずつ、ヒトを信じることができない状態に陥るでしょう」

「そうねぇ……っぁ、そこ、気持ちイイ……」


 アンジェリーナに背中を強くこすってもらい、バビスチェは蕩けた。


「バビスチェ様。八咫烏はどうしましょうか? 七聖剣士の『雷』が逃亡したことにより、学生寮内では雷聖剣は裏切り者だの、魔族に寝返っただの言われているようですが……七聖剣士の分断というなら、もう八咫烏に固執せずとも、目的を達成できるのでは?」

「そうねぇ……確かに、もう必要ないかも。でも……」


 バビスチェは、うつぶせから仰向けに。

 美しい裸体があらわになり、アンジェリーナはゴクリと唾を飲んだ。


「八咫烏。正体は何てことのない子供だったけど、『炎』と『氷』のお嬢ちゃんが惚れこんでいるのよ……私ねぇ、ああいうウブな子を見ると、応援してあげたくなっちゃうし、滅茶苦茶にしてやりたくなっちゃう……」


 バビスチェは手のひらをアンジェリーナに向ける。

 すると、手のひらに小さな光球が集まり、それをアンジェリーナの口に入れた。


「んっ……」

「この『聖域』を、学園に展開……ふふ、子供たちを思いっきり、『愛』で包んであげましょ?」

「本当に、バビスチェ様は『愛』にあふれたお方……」

「ふふ~♪ じゃ、私の番ね」

「っ、あ……」


 バビスチェはアンジェリーナを押し倒し、身体を包むバスタオルを優しく外した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなかの詰み状況の中で、新しくもらった強欲がどのように活躍するか楽しみです。 [気になる点] 楽しく読ませて頂いていますが、この胸糞展開が数十話続くとなるとキツいものがあります…
[気になる点] アオイ以外の七聖剣士が簡単に術中にはまってるのが草…やはり八咫烏がいないと七聖剣士は何も出来ないな [一言] 中々に厳しい状況ですね
2022/12/05 10:23 退会済み
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