最悪な展開
「ロイ殿、きみは一体何だ? なぜ魔界貴族に狙われた?」
「あ、いや……その」
ロイの部屋で、ロイはアオイに詰められていた。
だが、答えようがない。なのでロイは誤魔化そうとするが。
「無駄だ。拙者に誤魔化しは通じないぞ。生体電流の揺らぎで真偽を判明できるからな」
「うぐ……」
「狙われた心当たりが、あるんだな?」
「…………」
「それと、今……何に話しかけていた? その弓、何なのだ?」
デスゲイズを木刀ではなく、弓形態のまま置いておいたのがあだとなった。
ロイが揺れているのを、アオイの眼が捕えている。噓、ごまかしが通じない相手に、ロイはどうすればいいのか迷う。
すると、デスゲイズが言う。
『ロイ、こいつを『色欲』で奴隷化しろ』
「っ!?」
『それしかない。エレノア、ユノに我輩の正体がバレている以上、これ以上秘密を知られるわけにはいかない。ロイ、やれ』
「……っ」
できるわけがない。
ロイは首を振る。デスゲイズにもそれが伝わったのか、ため息を吐いた。
そして、ロイは言う。
「アオイ。俺は……俺の正体は、八咫烏だ」
「…………なるほどな。七聖剣士を援護してきた謎の弓士。その正体がロイ殿だったとは」
「正体を明かせない理由がある。頼む、俺のことは誰にも言わないでくれ」
「いいだろう。まぁ、そんな予感はしていた」
アオイはため息を吐く。
そして、これまでの状況を説明してくれた。
「あの魔界貴族にロイ殿が眠らされている間、学園には偽のロイ殿が通っている。間違いなく、魔界貴族の能力であろう」
「くそ……っ」
「エレノア殿、ユノ殿は……ロイ殿と、かなり親密な様子だ。早く引き剥がさないと、厄介なことになるかもしれん」
「ああ。じゃあ、行こう!!」
今は深夜。だが……偽のロイは、この部屋にいない。
スキュバを追い払ったことで、偽ロイが警戒したのだろう。
「とりあえず、今日は休もう。明日、生徒会長や仲間たちに報告する」
「ああ……すまない」
「構わない。だが、拙者はありのままを報告するぞ。その結果、ロイ殿の正体が露見することになってもな」
「…………」
「すまんな。ロイ殿のためだけに、危険は冒せん」
そう言い、アオイは部屋を出て行った。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ロイは制服に着替え、やや緊張した面持ちで部屋を出た。すると、アオイがドアの前にいた。
「おはよう、ロイ殿」
「あ、ああ」
「では、朝食へ」
アオイが誘いに来るのは、初めてだった。
二人で食堂へ向かうと、すでにオルカがいた。
オルカは手を上げようとして───ポロリと、咥えていたパンを落とした。
「な、な……」
「む、どうしたオルカ殿?」
「なんで、なんでそこに『魔族』がいるんだよぉ!?」
「「!?」」
ロイとアオイは同時に振り返る。
魔族。
つまり、魔界貴族。
オルカの前で変身はできない。デスゲイズを木刀形態にして構え、アオイに言う。
「どこだ、アオイ!!」
「くっ……昨日の連中か。ロイ殿、気を付けよ!!」
「な、何言ってんだよ!? アオイ、おまえ……!?」
オルカが、剣をロイへ向けた。
ロイは「え?」と首を傾げ、アオイも信じられない物を見るようにオルカを見る。
「な、なんの冗談だ? お、おい……オルカ?」
「くそ、こういう敵かよ。悪いな、オレの知り合いに魔族なんていねぇよ。アオイ、そいつから離れろ!! そいつ、妙なこと言ってやがるぞ!!」
「お、オルカ殿……?」
「いいところに来た!! 頼むぜ!! ロイ!!」
オルカが叫ぶと、ドアの前にいた『ロイ』が、木刀を振るった瞬間だった。
ロイは、『ロイ』の木刀を木刀で受ける。
「オルカ、なんだこの状況!? なんでここに、魔族がいるんだよ!!」
「オレが知るか!! 誰か!! 先輩方でも誰でもいい!! ここに魔族がいる!!」
「な、おい!? オルカ、ふざけんな。俺のことわかんないのかよ!?」
ロイが叫ぶ。
意味不明な状況に、ロイはおかしくなりそうだった。
そして、目の前にいる『ロイ』が言う。
「ふふっ……今、みんなの眼にあなたは『魔族』として映ってる。私が本物の『ロイ』……さぁ八咫烏、遊びましょうか」
「!!」
木剣が弾かれ、ロイは距離を取る。
すると、上級生とスヴァルトが食堂に飛び込んで来た。
スヴァルトは上半身裸で、手には闇聖剣アンダンテがある。
「いい度胸じゃねぇか。こんな朝っぱらから、乗り込んでくるなんてよぉ?」
「ち、ちが……」
「?? ??? な、なんだ、この状況は?? ど、どういう……」
アオイは混乱している。
すると、デスゲイズが叫んだ。
『逃げろロイ!! この状況ではどうしようもないぞ!!』
「くっ……『黒装』!!」
ロイは変身し、窓を破って男子寮から逃げ出した。
「待ちやがれ!!」
「先輩、ここは拙者が追います」
「あぁ!?」
「拙者の方が速い。必ず追いつき、連絡を入れます故」
「……チッ」
アオイも飛び出し、八咫烏を……ロイを追った。
◇◇◇◇◇◇
王国郊外、ロイが狩りをする森まで来て、ようやく変身を解いた。
ロイは、いつも休憩している岩に座り、頭を抱える。
「何だってんだよ、意味わからねぇ……!!」
『迂闊だった。くそ……バビスチェめ!! 『夢魔』が破られた時の保険を用意していたようだな』
「デスゲイズ、どういう……」
『見ろ』
森から見えたのは、王国を守る大きく高い壁。
デスゲイズに言われ、仮面だけを具現化し、仮面越しに見た。
すると、ふわふわした魔力が王国を包み込んでいるのが見えた。
「な、なんだあれ……」
『あれは聖域だ。ただし、バビスチェのではない。あいつに従う魔界貴族の『聖域』だな。覚えているか? トリステッツァの部下で、聖域を展開した魔族がいたことを』
「ああ。『遊戯』のルードスだっけ? 確か……デミ・アビス」
『そうだ。今回もそれと同じ。バビスチェの部下である魔界貴族が作り出した『魔族聖域』が、トラビア王国を覆っている。恐らく、我輩たちが夢に囚われていた間に、展開したのだろう』
「じゃあ、オルカの反応が変だったのは」
『恐らく、お前のことが『ロイ』だと認識できなかったのだろうな。認識を変える聖域か……なかなか厄介だ。それに、向こうには『ロイ』もいる。今、お前が出ても偽物だと判断されるだろうな。さらに、七聖剣士たちもお前を敵と認識する……最悪だな。お前が守り、援護するべき聖剣士が、お前の敵となってしまった……』
「……っ」
ロイは歯ぎしりする。
このままでは、『ロイ』にエレノアたちが、七聖剣士たちがやられる。
「やるしかない……」
『……』
「俺が一人で、魔界貴族を……『愛の魔王』の眷属を倒す」
『それしかないな。だが、できるか?』
「やるんだよ。言わせるな」
『ふっ……ならいい、そのための『力』をくれてやる。ロイ……認めよう、これがお前にやる新しい権能、『強欲』の権能「見つけたぞ、ロイ殿」
と───ロイの前に現れたのは、アオイだった。
ロイは瞬間的に身構えてしまう。
『こ、このタイミングで!? くぅぅ、せっかくカッコよく権能を渡そうと……おのれ!! おいロイ、こいつを奴隷にしろ!! 許せん!!』
「お前ちょっと黙ってろ。アオイ……お前は」
「安心しろ。拙者にはロイ殿がきちんと認識できる。だが……他の連中は、違うようだ」
「…………」
「このままでは帰れんな。どうする、ロイ殿」
「決まってる。俺に化けてる魔界貴族と、聖域を展開した魔界貴族を倒す」
「……聖剣士たちと、敵対する可能性もある」
「わかってる。でも、やる」
「……フッ、いいだろう。ロイ殿、拙者も手を貸そう」
「え」
こうして、ロイとアオイのコンビによる、魔界貴族討伐が始まった。