表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第四章 胸いっぱいの愛を。愛の魔王バビスチェと君の奇跡の愛
129/230

魔界貴族侯爵『夢魔』のスキュバ③/眠気

 ロイは、自分の部屋に戻って来た。

 ドアにカギをかけ、大きく伸びをする。


「っぁぁ~……疲れたぁ」

「お疲れ様、タイガ」

「ん~……」


 そこにいたのは、魔界貴族侯爵『妹虎』のシェンフー。

 シェンフーが『ロイ』に言うと、その姿が一瞬で変わった。

 魔界貴族侯爵『姉虎』のタイガの姿に変わると、タイガはベッドに座り、ロイ(・・)の頬をちょんちょんとつつく。


「よく寝てるねぇ」

「で、何かわかった?」

「うん。この子、『炎』と『氷』の子に好かれてる。八咫烏のことも知ってるみたい」

「ふーん」

「この弓、『デスゲイズ』って言うみたい」


 タイガが、部屋の隅に立てかけてあるデスゲイズを指さした。

 シェンフーがそれを手に取り、弄ぶ。


「ただの木の弓に、大層な名前」

「変わり者の聖剣鍛冶師が作った武器だよね。だって弓だし!」

「ええ。で、どうなの?」

「うん! ちょ~っと甘い顔したらもうメロメロ。特に『氷』の子はもうベタ惚れかなぁ? 何度か抱いて従順なメスに仕上げれば、バビスチェ様のいいオモチャになると思うけどー」


 と、シェンフーがムスッとする。

 タイガもわかっていたのか、手をブンブン振って否定した。


「わかってるよ。男の身体で女を抱くなんて絶対イヤ」

「ならいいけど。で、『炎』の子は?」

「んー、素直になれないっぽい。でも、時間かければ落とせる」

「うん。スキュバがうるさいから、なる早でね」

「ほーい」


 タイガはベッドに寝転がり、ロイの頬を撫でる。


「きみ、すっごい有能だね。男に興味ないけど、好きになっちゃいそう」


 そう言い、タイガはロイの頬にそっとキスをした。


 ◇◇◇◇◇◇


 シェンフーとタイガが部屋を出ると、入れ違いでスキュバが現れた。

 ベッド際に腰掛け、ロイの額に指を触れさせる。すると「あら」と呟いた。


「賢い子ね。気付いたのかしら」


 スキュバがクスっと笑う。

 魔界貴族侯爵『夢魔』のスキュバ。彼女の唇に触れた生物は、スキュバの『夢』に囚われる。

 スイッチは、睡眠。

 寝ると同時に発動し、『夢の世界』へ引きずり込まれる。恐ろしいのは、その『夢』が現実と一切変わらないということ。

 五感があり、成長もする。

 スキュバが対象の『記憶』を読み取り作る世界は、夢に囚われた者にとって恐るべき悪夢となり襲い掛かる。ロイの場合、ティラユール家で過ごした日常をさらに苛烈にした世界で、味方だったエレノアですら敵に回るという世界だ。

 

「頑張ってるじゃない」


 ロイの額に触れ、夢を確認するスキュバ。

 今、ロイはティラユール家の訓練場で、大勢に騎士に訓練という名の拷問を受けていた。そこにエレノアも混ざり、周囲から嘲笑されながらも耐えている。

 

「もう少しどん底に落として、あえて起こして『炎』の子と対面させるのも面白そうだけど……ふふ、どうしようかしらね」


 スキュバの力は、夢を見せることだけ。

 通常の戦闘能力は、子爵級程度しかない。

 だが───その力は、組み合わせることで大きくなる。

 例えば、とある国の王に『国が亡びるかもしれない夢』を見せ続け、寝ている間の代役としてタイガが王となり戦争準備をして、王を起こし入れ替わらせ、敗色濃厚な戦争を起こし国を滅亡させる。

 直接的な戦法ではなく、内部崩壊を起こし滅ぼす……それが、バビスチェの『手番』だ。


「さて、この子は逃げられるかしら? 私の『夢の世界』から」


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「ッつ……あぁもう、痛ってぇ」


 ロイは、ティラユール家にある自分の部屋に戻って来た。

 愛用の弓を投げ、怪我の手当てをする。

 自分で救急箱に手を伸ばし、少しだけ苦笑した。


「……こういう時、エレノアが必ず来てくれたんだけどな」


 昔から、訓練は苛烈だった。

 才能がないと何度も言われ、木剣で殴打され、ひたすら模擬戦の繰り返し。

 父は、怖い印象しかない。

 母は幼少期に死んだので、覚えていない。

 兄と姉がいるが、家にはほとんど帰らず、魔界と人間界の国境で戦っている。たまに帰ってくるが、嫌味や小言しか言わない。


「俺、本当にエレノアに救われてたんだな……」


 手当てを終え、ベッドへ寝転がる。


「…………」


 ベッドの硬さ、シーツの触感、軋む音。

 全てが現実としか思えない。だが、これは夢なのだ。


「夢。これは夢だ……大丈夫。耐えられる」


 ロイは、部屋の隅にある愛弓を見た。

 訓練場で弓の稽古を始めたら、父に思いきり殴られた。

 ロイは、笑っていた。あの父が、夢の中でも一瞬だけ、呆気に取られていたのだ。

 それだけで、やる価値はあった。


「デスゲイズ……」


 反応がない。

 いつも傍にいる魔王は、存在すら感じなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 スキュバは、ロイの『夢』を覗きながらクスクス笑う。

 やはり、他人の『夢』を見るのは楽しい。そして、その『夢』を作るのも楽しいし、自分の作った『悪夢』で駆け回る人間を見るのは、もっと楽しい。

 

「もっともっと、楽しい夢を見せてあげる。あなたが寝ている間に、『炎』と『氷』の子が、あなたの偽物に篭絡されちゃったら、起きた時にどんな反応するのかしら? あぁ……楽しみぃ」


 スキュバはゾクゾクした。

 ロイの頭を撫で、頬に手を這わせ、その唇に指で触れる。

 

「ふふ……じゃあ、よき夢を」


 そう言い、スキュバはロイからそっと離れた。

 そのまま帰ろうと、ドアに向かった瞬間。


「やはり魔界貴族か」

「!?」


 部屋に、誰かがいた。

 カーテンの隙間から月の光が差し込み、その姿が照らされる。

 腰まで伸びた黒髪、男子制服、手には『刀』を持ち、スキュバを冷たく睨んでいる。

 アオイ・クゼ。『雷聖剣イザナギ』に選ばれし者。

 男。だが、スキュバにはわかった。


「な、なに? ど、どうやって……それにアナタ、女の子? どうして男の恰好を」

「…………」


 チィン!! と、鍔鳴りがして、紫電がアオイの手元で瞬いた瞬間、スキュバの頬が僅かに切れた。

 速すぎる。見えない。死ぬ。

 スキュバは大汗をダラダラ流す。


「あのロイが偽物だと、すぐにわかった」

「え……」

「拙者の聖剣、『雷聖剣イザナギ』の能力は、生命力とエネルギーを感知することができる『雷命(ライメイ)』……生体電流、といえばいいのか? 身体に流れるエネルギーを感知し、相手がどう動くか、どこに《力》が流れるのかを把握できる。ロイ殿の生体電流の流れが、初めて会った時とは別人のような『流れ』だった。清流のような美しい流れが、汚水のような流れに変われば、誰だって偽物を疑う」


 『雷命(ライメイ)

 熱を感知するエレノアの『炎眼(ヘスティア)』とは違う眼だ。

 戦闘力が低いスキュバでは、まず勝てない。

 すると、アオイの背後に誰かがいた。


「!!」


 アオイは抜刀し、背後の敵に回し斬りをする。だが、その人物は人差し指だけでアオイの剣を止めた。


「エルサ!!」

「油断し過ぎよ、スキュバ」

「貴様……」


 アオイの殺気が濃く、沈んでいく。

 エルサはピクッと眉を動かし、一瞬でスキュバの隣へ。


「なかなか強いわね。相打ち覚悟で挑まなきゃ」

「え、あんたでも?」

「ええ。それに、こんなところで騒いだら、バビスチェ様の作戦が台無しになるわ。だから……ここは逃げましょうか」

「え? でもでも、バレたらタイガとシェンフーがマズくない?」

「大丈夫。シェンフーがいるもの……忘れた? あの子の能力、それに、保険」

「あ」


 スキュバはニヤリと笑い、エルサの腕に抱きついた。


「さっすがエルサ。それに、あの双子も」

「はいはい。ああ、あなた……面白そうだし、あなたは『除外』してあげる」

「何?」

「では、ごきげんよう」


 エルサとスキュバの姿が消え、アオイは舌打ちした。

 そして、未だ寝たきりのロイを揺さぶる。


「ロイ殿、ロイ殿……ロイ殿!!」

「…………ぅ」

「起きろ、ロイ殿」

「…………ぁ、オイ?」

「うむ。よかった、起きられたか……」

「…………───ッ!!」


 ロイはガバッと起き上がり、アオイを押しのけデスゲイズを手に取る。


「デスゲイズ、デスゲイズ!!」

『ぐ……ぅ、む? くそ、なんだこの眠気は』

「よかった……おい聞け、敵だ。魔界貴族だ!!」

『何? っく……記憶が曖昧だ。何が起きた?』

「説明する。というか……俺もよくわからない」

『む……?』


 と、ロイはようやくアオイに気付く。


「あ、アオイ?」

「……ロイ殿。決して、ふざけているわけではない、のだな?」

「あ」


 アオイの視線は、たった今まで話しかけていたデスゲイズに向いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
【コミカライズはこちらから↓】
gbxhl0f6gx3vh373c00w9dfqacmr_v9i_l4_9d_2xq3.jpg

web原作はこちらから!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

ニコニコ静画さんでも連載中。こちら↓から飛べます!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~


お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[気になる点] アオイがスキュバを悪即斬しなかったのは物語の展開のため …ではなくロイにかけられた術が解けるか不明だったからだろうか [一言] デスゲイズが迂闊すぎる てかお前、魔王なのにスキュバの術…
[一言] デスゲイズ発覚! アオイ推せるわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ