ロイとアオイ
朝起き、着替え、顔を洗い、朝食へ。
ロイは寮にある食堂で、オルカと一緒に朝食を食べていた。
今日の日替わりメニューは、なんと厚切りベーコンサンド。普通のベーコンではなく、厚切りだ。
しかも、食堂利用がロイとオルカだけ。
「誰もいないな」
「みんな、ショッピングモールの飲食店行ってんだろ。なんせ無料だしな」
「だよなー」
「失礼する」
と、ベーコン厚切りサンドの皿を持ったアオイが、ロイたちのテーブルへ。
オルカは言う。
「アオイ、こっちなのか? ショッピングモールのが美味いメシ食えるぞ」
「きみたちがこちらで食事しているのが見えたからな。拙者もこちらにした。質問するが……なぜ、ショッピングモールに行かないのだ?」
「めんどくさいから。な、ロイ」
「ああ。別に、無料だからってがっつくつもりないしな」
ロイとオルカは、厚切りベーコンサンドで満足していた。
アオイもクスっと笑い、ベーコンサンドをナイフで切り分ける。
「お上品だなぁ。男ならこう、バクっと行こうぜ。あぁぁ~んっ」
オルカは豪快に口を開け、厚切りベーコンサンドをバクっと齧る。
ロイは、チラッとアオイを見た。
「男らしく、男らしく……あ、ぁぁ……んっ」
だが、大きく口が開けられないのか、小鳥みたいに小さな口でパクっと齧る。正直、可愛い。
男らしく、なんて無理な話だ。
なぜならアオイは……『女の子』なのだから。
「ふぃぃ食った。おいロイ、オレ着替えるから先に行くぜ」
「ああ。後でな」
オルカは行ってしまい、食堂にはロイとアオイだけになる。
ロイは周囲の気配を探り……小さく言った。
「な、アオイ。別に食い方でバレるとかないと思うから、安心しろよ」
「う、うむ……男児というのは難しいな」
「なぁ、気になったんだけど、風呂とかどうしてるんだ?」
男子寮は、共同シャワー室しかない。
女子寮には浴槽があるようだが、それでも『共用』というところに変わりはない。さすがに、男子が使うシャワー室でアオイのような女子がいれば、騒ぎになる。
アオイは言う。
「深夜にこっそり使ったり、外の湯屋を利用する。その……ロイ殿と出会った湯屋。あそこなら人が殆ど来ないからな」
「あ、ああ……」
「部屋が個室で助かった。おかげで、女子ということがバレないで済む。ロイ殿、何度も言うが……」
「わかってる。お前の正体は誰にも言わない。エレノアやユノ、他の七聖剣士たちにもな」
「うむ。かたじけない」
アオイは、黒く長い髪を後頭部で結んでいる。
確かに、女子らしい顔つきだが、男装すれば意外にバレない。
なんとなく胸を見てしまい、アオイが言う。
「乳房はサラシで隠している。それに、胸を押さえる薄手の皮鎧も付けているから、触っただけではわからないぞ」
「あ、ああ。それにしても、男装か……大変だな」
「いや、もう慣れた」
見過ぎた……と、ロイは反省した。
アオイの秘密。アオイは男ではなく女。その秘密を知るのはロイだけ。
ワ国では、強き聖剣士は『男』と決まっているらしい。だが、『雷聖剣イザナギ』に選ばれたのは、女であるアオイだった。
その日から、アオイは女ではなく、男として生きることになったという。
「ちなみに……今代の七聖剣士で、最も早く七聖剣の所有者になったのは拙者らしい。拙者は十六だが、七つの時には七聖剣士としての鍛錬を受けていた」
「へぇ……」
「変形も、七つ全て習得している。だが……悲しいことに、実戦経験が不足している。ワ国は、魔獣がほとんど現れない国でな、対人戦闘しか拙者には経験がない。魔族との戦いでは、正直かなり遅れを取るだろう……」
「待った待った。そういう話は、エレノアたちに。俺はただの剣士だから」
「む。そうか? すまんな、ロイ殿は話しやすいからつい、な」
アオイの笑顔が妙に照れくさくなり、ロイは曖昧に笑ってごまかした。
◇◇◇◇◇◇
ロイとアオイは、並んで学園へ向かっていた。
アオイは、ロイの腰にあるデスゲイズが気になったようで見ている。
「ロイ殿、その木刀……なかなかの業物だ」
『ほう、見る目があるな』
「そうか? ただのボロ木刀だぞ」
『何ぃ!? おいロイ貴様、そのボロ木刀に何度も命を救われたこと、忘れたと言うつもりじゃないだろうな!? おい、聞いているのかむぎゅ』
柄をギュッと押さえるロイ。
ロイも、アオイの腰にある聖剣が気になった。
「アオイの剣……細いな。レイピアか?」
「ははは。『日本刀』だよ、これは」
「ニホン、トウ?」
聞きなれない言葉に、ロイが首を傾げる。
往来で抜くわけにはいかないので、薄紫色に金色の稲妻のような模様が入った鞘を持つアオイ。
「『日の元で戦う本物の武士の刀』……故に、日本刀。『斬る』ことに関しては、七聖剣最強だと拙者は考えている」
「ひのもと、ぶし……? よくわからないけど、すごいな」
「ははは。異国人であるロイ殿にはわかりにくいだろうな」
アオイは剣を腰に納める。
不思議と、鞘を腰のベルトに差す様が似合っていた。
すると、二人の後ろからエレノアとユノが来た。
「おっはよ、二人ともっ」
「おはー」
「おう、エレノアにユノ」
「おはよう、エレノア殿、ユノ殿」
「うんうん。男同士、二人とも仲良しだね。ロイ、男子寮ではちゃんと、アオイのこと気にしてなさいよ?」
「わかってるよ」
「ロイ殿には世話になっている。ああ、エレノア殿にユノ殿、今日は模擬訓練だったな」
「ええ。クラス合同の模擬訓練よ。魔法の授業も始まるし、いろいろ忙しいくなるわ」
「魔法、もっと覚えたい」
エレノア、ユノは魔法を覚えたくて仕方ないようだ。
だが、模擬戦闘訓練のがロイには気になった。
「なぁ、模擬戦って、お前たちが戦うのか?」
「ええ。七星剣士は七星剣士で模擬戦やるようになったのよ。先輩たちも一緒になってね」
「連携訓練するみたい」
「そうなのか」
「七人揃ったし、あたしも最終形態をもっと安定して使いたいからね。いっぱい訓練しないと」
ちなみに、魔法訓練も七聖剣士は別に練習する。
ロイたち一般生徒は、魔法授業が今日から本格的に始まるのだ。
「次は、愛の魔王だっけ……学園が忙しくなる前には、来ないでほしいよなぁ」
なんとなく、ロイはそう思った。