魔界
魔界。
人とはことなる『魔族』たちが住まう領地。
人間の領地を囲うように広がる広大な土地は四分割されており、それぞれ四人の強大なる『魔王』が統治している。
現在、四人の魔王は、『嘆きの大地』と呼ばれる領地の一つに集まっていた。
この領地を治める魔王───『嘆きの魔王』トリステッツァは、ボロボロ涙を流しながら、すでにぐしょ濡れのハンカチで、何度も目元を拭う。
「う、うぅぅ……み、皆さん、お集まりいただき、う、嬉しい……かか、感謝をぉぉぉぉぉぅ」
「うざっ」
棒付きキャンディを舐め、ウザそうにトリステッツァを睨む少女……『快楽の魔王』パレットアイズは、椅子を揺らしながら隣に座る少年に言う。
「ねぇササライ。今度の『手番』はあんたよね? なんであたしらを集めたのよ。しかも、こんな辛気臭いトリステッツァの領地に」
「ししし、辛気臭い……う、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、辛気臭いぃぃぃぃぃぃ……」
トリステッツァはボロボロと涙を流し、新しいハンカチで目を拭う。ごしごし拭いすぎて皮膚が破け、血の涙を流しているが、誰も気にしていない。
ササライと呼ばれた十六歳ほどの少年は、ニコニコしながらテーブルに肘を付いた。
「あはは。面白そうなことがわかったから、みんなに教えてあげようと思ってね。この辛気臭い場所にしたのは、まぁ……特に理由はないよ」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~んっっっ!!」
泣きだすトリステッツァ。
すると、子供をあやすような優しい目で、そっとハンカチを差し出す女性がいた。
露出の多いドレスだ。胸元が大きく開き、スカートも限界まで短い。長いロングウェーブヘアは腰まで伸び、お尻にはなんと尻尾まで生えていた。
「ほら、泣かないの。いい子いい子♪」
「うぅぅ……ば、バビスチェ殿ぉ」
『愛の魔王』バビスチェは、トリステッツァの頭を撫でながら言う。
「ねぇ、ササライ。面白そうなことってなにかしら♪」
「人間たち、七本の聖剣が使えるようになったみたいだよ」
「……ちょっと、それだけ?」
パレットアイズは不機嫌丸出しで言う。
ササライは、そんなパレットアイズに向かって微笑んだ。
「ま、それだけ。でも、久しぶりに七人そろったんだ。ちょっとは面白くなりそうじゃない?」
「数百年前だっけ? そん時も揃ったけど、あんたが捻り殺したじゃない」
「あの時はみんな、使い手がお年寄りだったからねぇ……」
ササライは苦笑して「あはは」と笑う。
灰色の髪、端正な顔立ち、白い学生服のような衣装は、どう見ても人間の学生にしか見えない。
ササライは、指をパチンと鳴らす。
「だから、今回の『ゲーム』は、ちょっと趣向を凝らしてみた」
ササライが指を鳴らすと、背後から一人の青年が現れた。
二十代ほどの、褐色肌に白髪の青年だ。だが、耳が長く頭から二本のツノが生え、長い尻尾も伸びている。青年はササライの傍で跪く。
パレットアイズは、新しい棒付きキャンディを口に入れながら言う。
「誰、そいつ?」
「ボクの部下、爵位は『伯爵』で、名前はベルーガだよ」
「ふーん。そいつに聖剣士を殺させるの?」
「このままでも、三人くらいは殺せるだろうね。でも、七人相手には無理かなぁ」
ササライはおどける。このままでは死ぬと言われたのに、ベルーガは驚きも震えもしなかった。
「だから───これをやろう」
ササライが右手を正面に向けると、黒い穴が現れた。
そこに手を突っ込み、何かを引き抜く……それは、『剣』だった。
漆黒の刀身を持つ、闇夜を具現化したような剣。
バビスチェは「わぉ」と、驚いたように言う。
「すごい剣ねぇ……どうしたの、それ♪」
「聖剣を模して作ってみた。まぁさしずめ、『魔剣』ってところかな?」
ササライは、ベルーガに魔剣を渡す。
無言だったベルーガの表情が、ほんのわずかに『歓喜』へと変わった。
「聖剣士たち、えーと……『一年生親睦会』だったかな? そんなパーティーを開催するみたい。ベルーガ、その魔剣で、新しく生まれた使い手を三人、殺しておいで。ああ、余力があれば全員でもいいよ。その魔剣のデータ収集もしたいし」
「かしこまりました。我が魔王」
「じゃ、がんばってねー」
ササライが手を振ると、ベルーガは闇に包まれ消えた。
パレットアイズは、やや不満そうだ。
「ね、あんたの『手番』が終わったら、次はあたしなんだけど……聖剣士、何人か残しておいてよ」
「『侵略方法に関して文句は言いっこなし』……ボクらのルール、忘れた?」
「わかってるわよーだ。ふん」
パレットアイズはそっぽ向いた。
トリステッツァはいつの間にかスヤスヤ眠っており、バビスチェはそんなトリステッツァの頭を優しく撫でている。
これが、魔王。
人間界を囲うように領地を構え、魔王たちが『ゲーム』と称して人間たちの領地に攻め込む。
人間たちには『聖剣』という僅かな希望のみ。魔王たちは、その気になれば人間界など容易く屠ることのできる力がある。
だから、魔王たちは遊ぶ。
ルールは簡単。魔王一人が、人間界に攻め込み、人間の領地を滅ぼすために策を講じる。
人間が防衛すれば、魔王は次の『手番』……別の魔王が遊ぶ。
それを、人間たちが滅ぶまで続ける。
これが、魔王たちの『遊び』であった。
「魔剣かぁ……何気なく作ってみたけど、なかなか面白かった。もっと改良できるし、データを待とうかな」
『忘却の魔王』ササライは、椅子に深く腰掛けてニコニコ微笑んでいた。
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