表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/230

魔界

 魔界。

 人とはことなる『魔族』たちが住まう領地。

 人間の領地を囲うように広がる広大な土地は四分割されており、それぞれ四人の強大なる『魔王』が統治している。

 現在、四人の魔王は、『嘆きの大地』と呼ばれる領地の一つに集まっていた。

 この領地を治める魔王───『嘆きの魔王』トリステッツァは、ボロボロ涙を流しながら、すでにぐしょ濡れのハンカチで、何度も目元を拭う。


「う、うぅぅ……み、皆さん、お集まりいただき、う、嬉しい……かか、感謝をぉぉぉぉぉぅ」

「うざっ」


 棒付きキャンディを舐め、ウザそうにトリステッツァを睨む少女……『快楽の魔王』パレットアイズは、椅子を揺らしながら隣に座る少年に言う。


「ねぇササライ。今度の『手番』はあんたよね? なんであたしらを集めたのよ。しかも、こんな辛気臭いトリステッツァの領地に」

「ししし、辛気臭い……う、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、辛気臭いぃぃぃぃぃぃ……」


 トリステッツァはボロボロと涙を流し、新しいハンカチで目を拭う。ごしごし拭いすぎて皮膚が破け、血の涙を流しているが、誰も気にしていない。

 ササライと呼ばれた十六歳ほどの少年は、ニコニコしながらテーブルに肘を付いた。


「あはは。面白そうなことがわかったから、みんなに教えてあげようと思ってね。この辛気臭い場所にしたのは、まぁ……特に理由はないよ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~んっっっ!!」


 泣きだすトリステッツァ。

 すると、子供をあやすような優しい目で、そっとハンカチを差し出す女性がいた。

 露出の多いドレスだ。胸元が大きく開き、スカートも限界まで短い。長いロングウェーブヘアは腰まで伸び、お尻にはなんと尻尾まで生えていた。


「ほら、泣かないの。いい子いい子♪」

「うぅぅ……ば、バビスチェ殿ぉ」


 『愛の魔王』バビスチェは、トリステッツァの頭を撫でながら言う。


「ねぇ、ササライ。面白そうなことってなにかしら♪」

「人間たち、七本の聖剣が使えるようになったみたいだよ」

「……ちょっと、それだけ?」


 パレットアイズは不機嫌丸出しで言う。

 ササライは、そんなパレットアイズに向かって微笑んだ。


「ま、それだけ。でも、久しぶりに七人そろったんだ。ちょっとは面白くなりそうじゃない?」

「数百年前だっけ? そん時も揃ったけど、あんたが捻り殺したじゃない」

「あの時はみんな、使い手がお年寄りだったからねぇ……」


 ササライは苦笑して「あはは」と笑う。

 灰色の髪、端正な顔立ち、白い学生服のような衣装は、どう見ても人間の学生にしか見えない。

 ササライは、指をパチンと鳴らす。


「だから、今回の『ゲーム』は、ちょっと趣向を凝らしてみた」


 ササライが指を鳴らすと、背後から一人の青年が現れた。

 二十代ほどの、褐色肌に白髪の青年だ。だが、耳が長く頭から二本のツノが生え、長い尻尾も伸びている。青年はササライの傍で跪く。

 パレットアイズは、新しい棒付きキャンディを口に入れながら言う。


「誰、そいつ?」

「ボクの部下、爵位は『伯爵』で、名前はベルーガだよ」

「ふーん。そいつに聖剣士を殺させるの?」

「このままでも、三人くらいは殺せるだろうね。でも、七人相手には無理かなぁ」


 ササライはおどける。このままでは死ぬと言われたのに、ベルーガは驚きも震えもしなかった。

 

「だから───これをやろう」


 ササライが右手を正面に向けると、黒い穴が現れた。

 そこに手を突っ込み、何かを引き抜く……それは、『剣』だった。

 漆黒の刀身を持つ、闇夜を具現化したような剣。

 バビスチェは「わぉ」と、驚いたように言う。


「すごい剣ねぇ……どうしたの、それ♪」

「聖剣を模して作ってみた。まぁさしずめ、『魔剣』ってところかな?」


 ササライは、ベルーガに魔剣を渡す。

 無言だったベルーガの表情が、ほんのわずかに『歓喜』へと変わった。


「聖剣士たち、えーと……『一年生親睦会』だったかな? そんなパーティーを開催するみたい。ベルーガ、その魔剣で、新しく生まれた使い手を三人、殺しておいで。ああ、余力があれば全員でもいいよ。その魔剣のデータ収集もしたいし」

「かしこまりました。我が魔王」

「じゃ、がんばってねー」


 ササライが手を振ると、ベルーガは闇に包まれ消えた。

 パレットアイズは、やや不満そうだ。


「ね、あんたの『手番』が終わったら、次はあたしなんだけど……聖剣士、何人か残しておいてよ」

「『侵略方法に関して文句は言いっこなし』……ボクらのルール、忘れた?」

「わかってるわよーだ。ふん」


 パレットアイズはそっぽ向いた。

 トリステッツァはいつの間にかスヤスヤ眠っており、バビスチェはそんなトリステッツァの頭を優しく撫でている。

 これが、魔王。

 人間界を囲うように領地を構え、魔王たちが『ゲーム』と称して人間たちの領地に攻め込む。

 人間たちには『聖剣』という僅かな希望のみ。魔王たちは、その気になれば人間界など容易く屠ることのできる力がある。

 だから、魔王たちは遊ぶ。

 ルールは簡単。魔王一人が、人間界に攻め込み、人間の領地を滅ぼすために策を講じる。

 人間が防衛すれば、魔王は次の『手番』……別の魔王が遊ぶ。

 それを、人間たちが滅ぶまで続ける。

 これが、魔王たちの『遊び』であった。


「魔剣かぁ……何気なく作ってみたけど、なかなか面白かった。もっと改良できるし、データを待とうかな」


 『忘却の魔王』ササライは、椅子に深く腰掛けてニコニコ微笑んでいた。

お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
【コミカライズはこちらから↓】
gbxhl0f6gx3vh373c00w9dfqacmr_v9i_l4_9d_2xq3.jpg

web原作はこちらから!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

ニコニコ静画さんでも連載中。こちら↓から飛べます!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~


お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[良い点] 1日に複数回の更新有り難いです [気になる点] 一年生親睦会…ここでロイが覚醒しそうですね。例の王子が果たしてまともに闘えるのかな? [一言] 次回も楽しみにしています!
2022/09/12 11:26 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ