表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/230

聖剣に嫌われ、弓に愛された少年の物語

新作です

 この世界には、神様が作った七本の聖剣があるんだって。

 その剣は、魔王を倒すための武器なんだって。

 魔王? 魔王は……わかるでしょ? 一度、この世界を征服した四人(・・)の魔王。魔族を束ねる、魔界の王様たちのことだよ。

 人間は、魔王たちに負けた。そして……住む場所を奪われて、ほんのわずかに残った領地を七分割して、それぞれの聖剣に守らせてるんだって。

 七本の聖剣を守る《聖剣士》たちが、七つの領地に国を作ったの。魔王たちも、聖剣に守られた領地には手が出せず、人間たちは少しずつ、少しずつ、力を回復していったの。

 でも、魔王たちは諦めていない。ううん……勝利を確信している。

 だから、ゲームを始めたんだ。

 どの魔王が、聖剣を壊して人間の領地を奪えるか。


 忘却の魔王、愛の魔王、嘆きの魔王、快楽の魔王。


 四人の魔王たちによる、人間の国を滅ぼして奪うゲームが、始まったんだ。


 ああ───でも、みんな忘れてることがある。

 もう一人だけ、いたんだ。

 四人の魔王以外に、もう一人。


 人のやさしさに触れ、人と一緒に生きようとした、大罪の魔王が。


 大罪の魔王は、四人の魔王に封印されちゃったんだ。

 封印されてどうなったのかは……誰も知らない。

 聖剣を作った神様にも、封印した魔王たちも、人間たちも知らない。


 でも、大罪の魔王は生きている。

 どこかで、誰かが封印を解いてくれるのを、待っている。


 もし、その魔王が誰かと一緒に───人間のために戦うとしたら?

 魔王を討つための聖剣ではなく、魔王に封じられた魔王が、魔王を討つとしたら?


 そんなこと───あり得ないよね。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「何故、素振り一つできないんだ、お前は!!」


 響く怒声、ビクッと震える少年の肩、少し離れた場所でため息を吐く少女。

 ここは、中央諸国トラビア。

 騎士爵ティラユール家の治める領地。ティラユール家の屋敷にある訓練場である。

 木剣を握る少年は、ティラユール家三男のロイ。マメだらけの手で木剣を強く握って振り下ろすが、剣の軌道はフラフラ、ヨロヨロとして頼りない。

 ロイの父であるバラガン騎士爵は、額に青筋を浮かべながら木剣を両手でへし折った。


「どうして、どうして貴様は……!! 無能なのだ!? 貴様に剣を教えて十四年、貴様の兄と姉は『聖剣士』として王都で素晴らしい騎士となり国に尽くしているというのに、なぜ貴様は……!!」

「も、申し訳ございません……父上」

「ええい!! 貴様を見るとイライラしてしょうがないわ!! 見ろ、わが騎士マリオの娘、エレノアを!! 貴様と同い年で、剣を握って一年足らずなのに、もう貴様では相手にならんほどの実力を持っている!!」


 綺麗な赤髪をポニーテールにした少女、エレノア。

 木剣を優雅に振っているが、その軌道は流麗で、ロイとは比べ物にならない。父マリオの指導を受け、ロイのことをチラッと見てすぐに反らした。

 バラガンは、俯くロイに近づく。


「いいか!! 貴様も知っているだろう? 我がティラユール家は『聖剣王エドワード・ティラユール』の血を引く至高なる剣士!! 『聖剣』にこそ選ばれないが、その実力は七大騎士に匹敵する!! 貴様は、家名に泥を塗る落ちこぼれということを自覚しろ!!」

「は、はい……」


 ロイに指をさし、怒鳴りつけるバラガン。

 そして、鼻息を荒くしていう。


「もうすぐ『聖剣の選抜』だ。王都にある『聖剣教会』で、貴様に合う聖剣を手に入れることになる……どのような聖剣を手にするかはわからんが、ティラユール家に恥じぬ聖剣を手に入れるように」

「はい……」

「フン、罰として今日はメシ抜きだ。部屋に戻っておれ!!」


 雷のような怒鳴り声だった。

 バラガンは屋敷に戻った。

 残されたロイは、大きくため息を吐き、木剣を拾う。


「…………はぁぁ」

「何ため息吐いてるのよ、ロイ」

「……エレノア」


 エレノア。

 バラガンの部下であり右腕の騎士マリオの一人娘。

 赤い髪をポニーテールにして、汗を手ぬぐいで拭きながらロイの元へ。

 幼馴染であり、かつてはライバルだった……今では、ロイなんて相手にならないほどの腕前だ。

 エレノアは、ロイの木剣を見て言う。


「あんたさ……どうして、まともに素振り一つできないの?」

「……わかんないよ。ちゃんとやってるつもりだけど」

「できてないでしょ? ったく……そんなんじゃ、ほんとに追い出されるわよ? 使用人たちが噂してるわよ。『聖剣の選抜』で剣を手に入れられなかったら、あんたはティラユール家から追い出されるって」

「…………」

「何か言いなさいよ。あんた……ほんとにそれでいいの?」

「仕方ないだろ。俺……落ちこぼれだし」


 次の瞬間、エレノアの拳がロイの腹を軽く打つ。


「いでっ」

「そういう卑屈で諦めたような言い方、嫌い」

「…………」

「聖剣の選抜はあたしも行くけど、ちゃんと見届けなさいよ。あたしも、あんたのこと見届けるから」

「……俺みたいなやつに合う『聖剣』なんて、あると思うか?」

「あるわよ、きっと」


 エレノアは、少しだけ微笑んだ。

 すると、騎士マリオがエレノアを呼び、エレノアは「あとでパン持って行くから」と言い、走って行ってしまった。

 

「はぁぁ……仕方ない、今日も行くか」


 ロイは木剣を片手に、ティラユール騎士領地にある裏山へ向かった。


 ◇◇◇◇◇


 ティラユール家の裏山は、動物と魔獣の宝庫。

 ロイは、裏山の入口に隠してある『弓』と『矢』を手に取り、矢筒を確認して森の中へ。

 

「ウサギでも狩るか」


 そう呟き、音もなく近くの木に登る。

 枝に立ち、眼を凝らすと───……見つけた。

 約1258メートル先(・・・・・・・・・・)で、草を食むウサギの姿を。

 ロイは「シュッ」と息を吐き、矢筒から手製の矢を抜き、同じく手製の弓の弦に掛けて引く。

 森と気配を同化させ、弦から手を離すと、矢が飛んだ。

 約1・2キロ先。様々な障害物がある。

 森は木々で乱れ、藪もあれば木から伸びる枝も、蜘蛛の巣や飛び回る小さな虫もいる。それに矢が当たれば軌道が変わり、1・2キロ先にある物に着弾させるなど不可能だ。

 だが───ロイの矢は、飛んだ。


『ギュッ!?』


 ウサギの腹に、矢が突き刺さった。

 枝と枝の間を抜け、蜘蛛の隙間をくぐり、飛び回る虫も、空気抵抗すら計算し、1200メートル先にいるウサギの腹に、矢を命中させた。


「よし、回収しに行くか」


 ロイは、誇るでもなく、当たり前のことをしたように枝から枝へ飛び移り、仕留めた獲物を回収しに向かった。

 ロイは、考えてすらいない。

 聖剣という絶対的な武器が存在するこの世界で、弓というマイナーな武器で獲物を狩るということを。

 その弓の才能が、人類最高レベルのモノだということ。

 当たり前のように仕留めた腕前が、神がかっていることも。


「あ、そろそろ弓の調整しないとな……」


 ロイは、弦を引きながら移動する。

 大人が十人がかりでようやく引けるほど張りの強い弦を、指だけで引いていた。

 ウサギを回収し、解体しながら思う。


「聖剣か……選ばれなかったら追放とか。その時は、どこかの山で狩りしながら暮らすのもいいかもなぁ」


 そんなことを呟き、ウサギの肉を持って山を下りた。

 ロイは知る由もない。

 聖剣が人間最強の武器であるこの世界で……ロイの『弓』が、世界を変えることになるかもしれないということに。

お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
【コミカライズはこちらから↓】
gbxhl0f6gx3vh373c00w9dfqacmr_v9i_l4_9d_2xq3.jpg

web原作はこちらから!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

ニコニコ静画さんでも連載中。こちら↓から飛べます!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~


お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[気になる点] 約1258メートル先 ▶ろくに素振りも出来ない程度の腕力・握力・足腰・体幹で1.25kmも先迄矢を届かせる事が出来なおかつそれだけの飛距離を出せる強弓引き絞れそれを作成出来るだけの知…
[気になる点] 獲物の腹に命中させたら、うんちの原料がぶち撒かれる訳で、そんな肉を食べられますか?よく考えたり、調べて書こう!
[気になる点] 1258メートル先のウサギを狩る描写はウケ狙い? 倒した後も普通に「回収しに行くか」と呟いてるの普通に笑いました。 [一言] 遠くの的命中してすごい!って事を伝えたいなら別の表現に変…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ