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#0 プロローグ

 ――魔法。

 これらを記した書物は、決まって冒頭でこう口を揃える。


 曰く。魔法とは女性の物であると。

 曰く。力で劣る弱者の特権であると。


 だが、奇しくもここに一人。男性の身でその絶大な力を宿した少年が居た。

 まるで、神の目すら欺いたと言われても不思議ではない程、あどけない少女のような出で立ちの少年。彼……いや、彼女を乗せた船は魔導教育機関の集められた人工浮島、オノコロ島へと向かっていた。

 オノコロ島とは本来、大気中を漂う魔力の濃い小さな島の名前だった。しかし、魔法を技術として取り込んだ人類はこの小島を増設し、巨大な人工浮島へ造り替え……魔法を扱う騎士や研究者、そしてそれらを目指す者が集う、最先端魔導技術の聖地としたのだ。

 だが、その少年の運命を幸か不幸かで断ずるならば、間違いなく不幸なのだろう。


 ――何故なら。

 絶大な魔力とさまざまな魔導適性を備えた身体には、己を欺きし者への怒りなのか、神の如く高位の者から施された呪いがかけられている。

 ……他人に男性だと知られた瞬間、性別が逆転してしまうという呪いが。

 かくして、神を憎む少女のような少年が背負う運命の歯車は、音を立てて回り始めたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 透き通るような青い空に煙を浮かべながら、僕達を乗せてきた船が港から離れていく。頭の上で気持ちよさそうに鳴くウミネコの声が、更に僕の気持ちを落ち込ませた。


「はぁ……どうしてこんな目に……」


 遠くで自分と同じ制服を着た女の子たちがはしゃぐのを眺めながら、僕はヒラヒラと海風にそよぐ頼りないスカートに目を落とす。


「もう、いつまで言ってるんですか『お姉さま』? ここまで来てしまったのですから潔く諦めてください!」

「そうは言ってもさぁ……女学園だよ? 周りは女の子しか居ないんだよ?」


 背後から聞こえてきた双子の妹、天子の声に答えながらゆっくりと振り返る。短く整えた栗色の髪が、白い色の制服にマッチしていてよく似合っている。


「何度も言いますが、命お姉さまも女の子なのですよ? そんなに暗い顔をしていては逆に目立ってしまいます。制服、よくお似合いですよ」

「勘弁してよ……」


 新生活の期待からか、キラキラと輝かんばかりの笑顔をしている天子には申し訳ない気もするけれど、だからといってそう簡単に割り切れるものじゃない。


「っ……わわっ!」


 ひと際強い海風とともに、さっきまで頼りなく揺れていたスカートがまくり上げられ、その中身がチラリと覗いてしまう。


「っ~~~……スカートだけは穿かないって……決めてたのになぁ……」

「お姉さま、結局ドロワーズなんですね。普通のよりも丈があるから、そっちの方が見られやすいのに……」

「いくら言われても、これだけは譲れないよ。下着まで女の子になっちゃったら、それこそ奴の思うつぼだ」


 そう。服くらいならいくらでも着よう。でも下着だけは絶対防衛ラインなんだ。たとえ体が蝕まれようとも、これだけは……。


「……勘違いしているようですけれど、ドロワーズも女の子の下着ですからね?」

「うっ……」


 ジトっとした目で天子にたしなめられて命は低くうめいた。どうやら、この忌々しい呪いを受けてからもう十数年。呪いは僕の常識をも緩やかに溶かしていっているらしい。


「どちらにしても、あのお父様の指定なのです。今更ここでどうこう言っても無駄だと思いますよ」

「はぁ……確かにそうだね。父さんが何でこんなことをさせるかはわからないけれど、命じられた時点で私に拒否権は無いからね……」

「そうですよ! それに、秘密にしたいお気持ちはわかりますが、目立つなって言う方が無理なんです。なにせお姉さまは魔力は凄いのに、基礎魔法がぜんぜん使えないのですから! ならいっそ、胸を張ってニコニコしていた方がバレにくいってものです!」


 天子はそう言うと、未練がましく船を見送っていた僕の手を取って、入島ゲートへ引っ張っていくのだった。

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