47.塩焼きと魔法使い
大量のニジマス。
クラリスは何を作ろうか……キッチンで悩んでいた。
「川魚か……海魚より臭みがあるんだよね。悩ましい……」
せっかくの大きなキッチンがある。
これを十二分に使いたい。
しかし川魚は煮るよりも、炭火を用いて高温で焼いたほうがいい。
魚特有の臭みは、180度で熱すると消えるのだ
煮るとなると100度以上は無理。
それに比べて炭火なら、180度以上を簡単に越えられる。
「やっぱり、そうだよね」
クラリスはキッチンを使うのを諦めて、窓から外へ目線を移動する。
「フェン、トレントの薪はあるよね」
「もちろんだ」
「なら、それを使って火を起こして」
「うむ。デッドよ。主より指令だ!」
「キュ!」
イエッサー!
デッドはいつでも着火できるぜ!
軽く火を吹いてみせた。
「お願い。私は下準備をするから。それまでにいい感じの火加減にしておいて」
「任された!」
「キュウ!」
二匹は早くニジマスが食べたいのだろう。
リビングから外へ飛び出していった。
「よほど、お魚がお好きなようですね」
それを見たフランが微笑んでいた。
「まあね。どっちも魚を食べるのは初めてなの」
「そうなんですか?」
「うん。デッドは生まれてまだ半年だし。フェンはずっと迷宮暮らしでね。それで魚を食べたことがなかったの」
「なら、しっかり下ごしらえしないとですね」
「うん!」
フランは腕まくりをして、クラリスの横に立つ。
手には包丁。
慣れた手付きでニジマスをお腹に切り目を入れる。
「うまい」
「こうみえて、一人暮らしは長いんです。このくらいはできますよ」
「ならボクも」
勇者パーティーではご飯の支度をやっていた。
魚の内臓を取り出すくらいお手の物だ。
「早いです!」
「ふふふ♪ いつもたくさんの料理を作っていたからね」
「負けてはいられないです!」
「なら、どっちが多く捌けるか。競争してみる?」
「望むところです!」
目の前には積み上がったニジマスが二十匹以上。
互いに見つめ合う二人。
「準備はいい?」
「はい」
「よ~い、どん!」
一斉にニジマスを捌き始める。
綺麗に内臓が取っては、次へ。
積み上げっていたニジマスはあっという間に無くなってしまう。
「負けました……すごいです!」
「フランもすごかったよ。一人だと大変だからね。やっぱり二人の方が早くて助かる」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
あとはこのニジマスに塩をふりかける。
そして串を差して、
「出来上がり!」
「すごい量ですね。お祭りでみたいです」
「お祭り!?」
その言葉にクラリスは食いついた!
実は無類の祭り好きなのだ。
勇者たちと世界各地を旅した際に、たくさんの祭りに出会った。
その地域の文化に根付いた特色のある催し物。
とても新鮮で、いつまでもそこにいたいと思えた。
戦いばかりだった彼女にとって、唯一の癒しといっても良かった。
魔王軍の侵攻によって、人々は恐れ慄く日々。
しかし、お祭りのときだけは、皆が笑顔に溢れる。
それを見ているだけで、クラリスは幸せな気持ちになった。
今もその時を思い出しただけでも胸が高鳴ってしまう。
フランは、クラリスのテンションの上がりっぷりに少々驚いていた。
「もしかして、クラリスさんはお祭りが好きなのですか?」
「大好き! エルフ族も祭りをするんだ」
「はい。頻繁にしていました。私たちのお祭りは精霊に感謝を捧げるものでしたから」
その言葉は過去形。
つまり、今はもうお祭りはしていないと言っているようなものだった。
「精霊に感謝を捧げるもの……それなら」
「はい! クラリスさんのお考えの通りです」
「聖地を解放したら」
「その時は、精霊祭を盛大に行います!」
「うううううううぅぅぅ……やったっ!!」
これはどんなことがあったとしても、聖地に陣取り魔王軍を退治しないと!
「精霊祭って……何が食べれるんだろうか。楽しみだな」
「もう勝ったつもりなのですか? これでも何度もエルフ族の精鋭が戦いを挑んで、返り討ちにあっているんですが……」
「あはははは。冗談だよ。魔王軍の強さはボクも身に染みてよく分かっているつもり」
クラリスだって魔王軍との戦闘経験はある。
育った村を襲われてから、勇者パーティーにいたときまで、ずっと戦い続けていたと言っていい。
彼女の冒険の始まりとなった出来事。
焼け焦げた臭い。並び立つ墓標。
エヴァンと二人で旅立った故郷。
忘れられるわけがなかった。
勇者パーティーから離れることになったとしてもだ。
「それでも勝つよ。勝たないといけないから」
「……はい」
しばらく二人は見つめ合っていた。
フランにもクラリスの本気が伝わったようだった。
「主よ! 準備ができたぞ」
フェンが尻尾を振りながら、窓から顔を出す。
「どうしたのだ? 二人とも?」
「うん、なんでもない。行こう、フラン」
「はい!」
下ごしらえが終わったニジマス。
大皿に乗せて、クラリスたちは外へ出る。
デッドが丁度いい火加減になった炭火の上を飛んでいる。
「キュルルル♪」
早く焼いて食べよう!
待ちきれないようだ。
「はいはい。今焼くからね」
「キュ!」
クラリスはニジマスを焼き始める。
それを取り囲むようにみんなが集まってきた。
遠目から彼女たちをスラは見ていた。
「なるほどね。なかなか面白そうなパーティーじゃないか」
そして透明な体を転がして、彼もクラリスのところへ。
「僕の分も、もちろんあるんだろうね」
香ばしく焼けたニジマスのなんともいい匂い。
それに誘われるように、精霊であるスラも食事というものを楽しみたいと思ってしまった。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと評価をもらえると嬉しいです。
半沢直樹を見ながら書いていました。
とても良い最終回でした……(T_T)




