46.新たな仲間と魔法使い
ブルースライム……いや水の精霊を仲間にしたクラリス。
精霊としての名前はウンディーネ。
しかし、その名前で呼ぶとエルフたちにわかってしまう。
今まで姿を表さなかった精霊だ。大騒ぎ間違いなし。
スライムの姿をしているときの仮初の名前をつけることになった。
命名はもちろんクラリスだ。
「楽しみだな。人間につけてもらえるなんて」
ウンディーネはウキウキしている。
しかし、デッドとフェンはなんとも言えない顔をしている。
二匹はわかっているのだ。
クラリスに名前をつけるセンスがまったくないことを。
当の彼女はかなり必死に考えていた。
そして、何を思いついたような顔をする。
「閃いた!」
「本当かい! どのような名前を僕にくれるんだ?」
「スライムの姿をしているから、今日から君は、スラだ!」
「……」
スラと名付けられたウンディーネは、そのまま固まってしまった。
それを見たデッドとフェンは、スラをいたわる。
「わかっていたが、恐ろしく安直だった」
「キュ」
「よろしく頼むぞ。スラよ!」
「キュルル!」
安直に名前を使えられた者同士。
などの一体感が生まれていた。
それを見たクラリスは頷きながら喜んだ。
「もう仲良くなったんだ。いい感じ!」
「君たちも苦労しているんだね」
「まあな。悪い人ではないのだが、時々抜けたところがあるのだ。使い魔としてしっかりサポートせねば」
「キュル!」
「なになに? ボクをさし置いて何の話をしているの?」
「これは使い魔の話だ。主が気にする必要はない」
「キュッ」
「ええええっ、教えて」
二匹の使い魔たちはそそくさと離れていってしまう。
残されたのはスラのみ。
「使い魔はなんだか面白そうだね。僕も入れてもらおうかな」
「精霊も使い魔契約できるの?」
「可能だよ。精霊契約は僕が主みたいになるけど、使い魔契約はその逆だね」
「いいの? 主従関係的に」
「問題ないよ。僕はそういうのを気にしないし。それに人間の一生と精霊の一生は違いすぎるからね。僕にとっては一瞬だよ」
「そうならいいけど。すぐにする?」
「少しの間はお預け。契約すると僕の力でこのオアシスが維持できなくなってしまう。だから聖地の精霊
を開放してからだね。そうしたら僕は自由に戻れるし」
「なるほど」
精霊を使い魔に。
クラリスが知っている限りでは、そのようなことをやってのけた魔法使いはいない。
クラリスはオアシスを見渡す。
過酷な砂漠でこのような場所を維持できるとは、どれほどの強力な力を持っているのだろう。
検討もつかない。
もし水の精霊を使い魔にできたら、とてつもないほどの戦力アップだ。
感覚的にデッドやフェンを合わせると国を滅ぼせるレベルかもしれない。
「まさかね……」
さすがにそんなことはないだろう。
クラリスは笑ってこれ以上考えるのをやめた。
しかし、水の精霊を使い魔にしてしまえば、冗談抜きで国を滅ぼせるレベルだった。
魔王軍に匹敵する力を得ようとしていることにクラリスは気が付いていない。
「よろしく、クラリス!」
「うん。よろしく!」
スラは透明な体を伸ばして、握手を求めてきた。
それに応えるように、クラリスが握る。
張りがあって、触り心地はなんとも気持ちいい。
「ぷにゅぷにゅしている」
「硬度は液体から個体まで調節可能さ。今は固めゼリーにしてある」
「そうなんだ」
「ご要望なら、さっきみたいに液体になって君を包み込むこともできるよ」
「それは結構です!」
「あらら……残念」
さきほどは包み込まれて、好き放題にあちらこちら触られてしまった。
一度にいろいろな箇所を触られる感覚は耐えられるものではない。
絶対にお断りである。
「あと聞きたいことがある」
「何をだい?」
「スラは食事をするの?」
このパーティーには大飯食らいが一人と二匹いる。
すでにかなりの食料を必要としている。
いざとなれば現地調達。
魔物狩りだ。
ここは精霊が何を食べるのかを知っておきたい。
特別なものなら、聖地に行くまでに用意しておかないといけない。
「僕の食事は吸収なんだ。君たちの食事と表現するのは違うけどさ。僕は何でも食らべれるってこと」
「そうなんだ」
「特に好物は魔力を多く含んだものかな」
魔力を多く含んだもの……クラリスには心当たりがあった。
普通の人間は食べられないけど、とても多くの魔力を内包している。
「魔物とかは?」
「よくわかったね。大好物さ!」
「やっぱり」
小躍りしながら、スラは答えた。
魔物なら、食料に困ることはない。
クラリス、デッド、フェンも大好物だ。
食の好みが同じなら、うまくやっていけそうだ。
クラリスが頷いていると、スラがそっと近づいてきた。
「君の記憶も見せてもらったからね。魔物グルメってことは知っているよ。楽しみにしているからね」
フランには聞こえないように耳打ち。
この様子なら、クラリスのことをいろいろと知っていそうだ。
「どこまで知ってるの?」
「う~ん、どこまでかな」
「はぐらかさないで、どこまで見たのっ!」
「君が勇者のことを特別に想っているくらいかな。それとね……」
「あああぁあ……もういい。よくわかったから……」
続きを言おうとするスラをぴしゃりと止めた。
確定!
スラにすべての記憶を知られている!
精霊は心が清いと言われている。
たぶん大丈夫。だけど一応忠告をするクラリスだった。
「ボクの記憶は、口チャックね」
「は~い。善処します」
飄々としたスラに一抹の不安を感じながら、クラリスは釣りの成果を確認する。
デッドが釣りまくったニジマス22匹!
大漁である。
「今日の夕食は楽しみにしてね」
「おう!」
「キュ!」
「はい」
フェン、デッド、スラの良い返事だ。
フランは手を上げて言う。
「私も手伝います。すごい出会いがありましたが、元々は私が誘ったことですから」
「うん、助かる。一匹増えたことだし」
そう言ってスラを見ると、飛び跳ねてアピールしていた。
お調子者の精霊――スライムである。
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