45.スライム?と魔法使い
これが水の精霊!?
プルンとしたゼリー状の見た目。
クラリスは警戒しながら、じっと見つめていた。
「クラリスさん、水の精霊は安全です」
フランは感動しながら、説明する。
「このオアシスの守護をしてくれているのです。聖地の精霊ほどの力はないですが、私たちエルフ族を守ってくれています。私は初めて見ました」
「へぇ~、そうなんだ。この精霊とフランは契約できないの?」
「おそらく、できません。水の精霊は今までエルフと契約したことがないのです。人が好きな精霊のようですが……」
「この精霊の他にもいるの?」
「聞いた話では、火、風、土などの精霊がいるようです。聖地の精霊はその頂点の存在です」
「なるほど……」
珍しいものを釣り上げてしまった。
これから会おうとしている聖地の精霊もこのような姿をしているのだろうか。
気になって、更に近づくクラリス。
それに反応した水の精霊は彼女に飛びついた。
「ぎゃああああぁぁあぁ!?」
「クラリスさん!!」
ゼリー状の物体がクラリスの体を取り込んだ。
息ができない!
外に出ようとしても、まとわりついてきて逃れられない。
安全のはずがそうではなかった。
もがくクラリス!
視界の外でフランが大慌てしている。
デッドもフェンも一緒だ。
どうにか、水の精霊を引き剥がそうとするが……。
「これは難しいぞ!」
「キュル!!」
「物理攻撃はまったく効かん。魔法を使いたいが主を傷つけてしまう」
「キュゥ……」
デッドもお得意の炎を使いたいところだが、それではクラリスを丸焼きだ。
万事休す。
と思われていたが、
「あれっ!」
「どうしたのだ! 主よ」
「キュル?」
「苦しくない! それに水の中なのに息ができる!」
「おおおっ! それはまた奇っ怪な」
一時は窒息死させられるかと焦った。
しかし、それは杞憂だった。
包み込まれているだけで、特に呼吸もできるし、なにかされているわけでもなさそうだ。
「フラン、ボクは大丈夫そう」
「よかった」
ホッとしたフランは胸を撫で下ろす。
このオアシスの守護である水の精霊が、攻撃をしてくるわけがない。
そう思っていたが、クラリスが取り込まれてパニックになってしまった。
「そうなると、一体……何が」
「うむ。見たところ、敵意がないとしたら、主に懐いているのかもしれない」
「え! 本当に!?」
これで懐いている?
クラリスとしては、デッドやフェンのように頭をなでてくれと寄ってくるのを想像していた。
しかし、取り込まれることを懐いていると表現していいのだろうか。
傍から見れば、食われている感じだった。
今も取り込まれ中のクラリスはどうしたものやらと悩んでいた。
「あの……そろそろ開放して」
「ちょっと待って!」
子供っぽい男の子の声が聞こえた。
「!?」
一同、その声が聞こえた方を見つめる。
「まさか、水の精霊か?」
「そうだよ。いや~、人間の言葉を理解するためにクラリスの脳を解析させてもらったんだ。もちろん、懐いているよ。こんな感じに」
「ぎゃああああぁ!! どこを触っているの!!」
クラリスは懐かれているというよりは、もてあそばれていた。
「なんてことをするのっ!」
「ごめん。まだ人間とのコミニュケーションがよくわかっていなんだ。不快だったらごめなさい」
悪意はないようだ。
素直に謝ったのなら、良しとしよう。
気を取り直して、クラリスは水の精霊に言う。
「とりあえず、ボクから離れてもらえるとありがたいんだけど」
「あっ、そうだね。僕はこのままでもいいけど」
「早くっ」
「は~い」
クラリスから離れた水の精霊。
ゼリー状の玉となって桟橋の上にちょこんと転がった。
「見た感じは、まるでスライムだな」
「そうですね」
「キュル」
たしかに見た目はブルースライムだ。
しかし、その実態は強力な力を持った水の精霊。
「姿をどうしようかと迷ったんだけど、クラリスの記憶から、ブルースライムをチョイスしたんだ。なんとなく、本来の僕の姿に似ているし」
「そう言われると、そうかも」
「この方が、平凡っぽいし。いらない騒ぎにもならないだろ」
さきほどまで、フェンたちがエルフ族と騒ぎを起こしていた。
今度は、このオアシスを守護している水の精霊の登場となったら、エルフの長老は心労でまたしても倒れてしまうだろう。
「なぜ、今まで姿を現さなかったのにボクたちの前に?」
「それは簡単な話さ。聖地の精霊を開放してくれる人材が現れたから」
「まさか……それって」
「うん、君だよ。僕はずっと待っていたんだ。昔は緑多き場所だった太古の森。今は砂漠になってしまったこの大地を救ってくれる者をね」
そんなことを言われると、クラリスが勇者のようだ。
「ボクは勇者じゃないよ」
「あははっ、知っているよ。勇者はどうやら、世界各地を救うことで忙しそうなんだ。彼、このままだと過労死ラインを越えそうかも」
「えっ……本当に?」
「うん、僕は水を通して世界中を知ることができるからね。今も彼は寝る間を惜しんで人助けをしているよ」
「……ありうる」
あのお節介好きの勇者のことだ。
自分のことなど、まったく気を遣うことなく、誰かのために戦っているはずだ。
「君は少なからず、彼と縁を持っている。切っても切れない縁をね。僕からもお願いするよ。どうか、この大地を救ってほしい」
「もちろん、そのつもり」
「話が早くて助かるよ。なら、僕も力を貸す」
「えっ、いいの?」
「じゃないと、現れないよ。こう見えて、僕は人見知りなんだ。これでも勇気を振り絞ってクラリスの前に現れたんだから」
今までの言動を見るにまったくそのような素振りはなかった。
でも、人間とのコミニュケーションがよくわからないと言っていたし、あれが彼の精一杯だったのかもしれない。
「力を貸すついでに君と契約したかったけど、無理みたいだったから残念」
「どうして?」
「う~ん、それはよくわからないんだ。聖地の精霊なら何か知っているかもしれない」
「そっか……」
クラリスは考える。
精霊契約できなかった原因。
それは、たった一つの魔法しか使えないことに関係しているかもしれない。
フランが言うに、精霊契約はかなり強力なものだ。
普通は精霊が望めば、絶対にできる。
それを拒絶してしまうのは、考えられないことだという。
クラリスには得体の知れない力が宿っている。その力にフランのみならず、水の精霊もびっくりしていた。
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