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44.水の精霊と魔法使い

 デザートスコーピオンはそのまま食べても美味しかった。

 しかし、甘酢とあえることで更に味に深みが増した。


 さっぱりとした酸味に、濃厚なカニの身のような味はよく合う。

 それにウリのようなサボボテーンの水分が口に残った酸味を爽やかに押し流してくれている。


 口に残らない軽い味わいによって、パクパクと食べられる一品となっていた。


「うむ、主よ。これはいけるぞ」

「キュルル♪」


 使い魔たちも大満足。

 器に盛り付けた自慢のサラダをあっという間に食べてしまった。


 そして、ゆっくりと味わっていたクラリスの器をじっと眺めている。


「これはボクの分だからね」

「ちらり……」

「キュ……」

「あきらめなさい!」

「無念」

「キュ~」


 かなり多めに作ったのにまだ物足りないとは……。

 二匹の胃袋はとどまることを知らない。


 クラリスはマイペースにもりもり食べている。


「ごちそうさまでした」

「ワン!」

「キュル!」


 久しぶりの二つ名持ち。

 デス力がアップ。ステータスボーナスもゲット。

 言うことなしだ。


 これから四貴族と呼ばれる魔族と戦う。

 もっと強くなっていたほうが安全だろう。


 見たこともない魔物がいたら、食べていこう。

 クラリスがそう考えながら、食器を片付けていたら、部屋のドアが開いた。


「クラリスさん、食事はどうしますか……あれ? もしかしてもう食べられたのですか?」

「うん、ごめん。この子たちがお腹を空かせていたから」

「そうだったんですか。それにしても美味しそうな匂いですね」

「えっ! そうかな……大した料理じゃないよ」

「いえいえ、絶対にすごい料理ですよ。もし残っていたら私にも食べさせてもらえませんか?」

「フランが!?」

「はい」


 それは大変まずい。

 魔物を食べていたなんて知られたら……。

 ここは使い魔たちだけが食べていたことにしよう。


「フランが言っているのは、たぶんデッドとフェンが食べていた魔物料理のことかな」

「魔物料理ですか……」

「うん、だからこれはフランには食べさせられない。理由はわかると思うけど。それに全部この子たちが食べてしまったところ」

「そうですか……魔物なら私には無理ですね」


 がっかりするフラン。

 あの様子なら完成した魔物料理が目の前にあったら、味見と言って食べてしまいそうだ。

 たしかに、匂いを嗅いだだけでそうなってしまうほど、実に美味しい。


「ではクラリスさんは他のものを食べたのですか?」

「う、うん。簡単なものを」

「そうなんですか。自分よりも使い魔を優先するとは、クラリスさんは使い魔思いの方ですね」

「まあ……それほどでも」


 しっかりと一緒に魔物料理を食べていたクラリス。

 返事は歯切れが悪かった。

 そんなことにフランは気がつくこと無く。


「でしたら、一緒に食事をしませんか? まだ食べられるようでしたら」


 簡単な物をといった手前、断るのも難しい。

 それにクラリスは食いしん坊。

 まだまだ食べられる。余裕綽々だ。


「ぜひ!」

「ありがとうございます! エルフの料理をごちそうします。お口に合えばいいのですが」

「楽しみ!」

「クラリスさんは私たちがどのような物を食べていると思いますか?」


 フランは人間がエルフをどのように思っているのかを知りたいようだった。

 クラリスが文献で呼んだエルフは、肉や魚は食べない。

 野菜などが中心の食事だという。


「野菜とか?」

「やはり……そのように思われいるんですね」

「違うの?」

「肉は食べませんが、魚は食べるんですよ」

「ということは!?」

「はい、魚です。窓から見える湖で取れるニジマスです」

「ニジマス!」

「今の時期は脂が乗って美味しいですよ」

「おおおっ!!」


 迷宮都市カトリアで、ずっと魚を食べたい、食べたいと言っていた。

 まさか、このような砂漠のど真ん中で魚を食べられるとは思ってもみなかった。

 クラリスのテンションはうなぎのぼり。


「早く食べたい!」


 ついさきほどまで、魔物料理を食べていたクラリス。

 しかし、ニジマスの話を聞いてしまえば、いつの間にか、魔物料理のことを忘れてしまうくらいにお腹が空いていた。


「では、これを!」


 そう言ってフランから渡された棒を手に取る。


「もしかして……これって……」

「竿です。そして餌です」

「これから釣るの?」

「はい、テラスで釣りができます! いっぱい釣りますよ!」

「我もやるぞ!」

「キュル!」


 使い魔たちも参戦して、釣り大会となった。

 ここで意外にも才能を見せたのは、デッドだ。

 空を飛べるのをいいことに、穴場スポットを見つけて釣り上げていた。


「デッド……すごい」

「我も負けてはいられないな」


 そういうフェンはゼロ匹だ。

 まったく才能を感じられない。


「フェンは下手だね」

「そういう主こそ、一匹も釣れてないぞ」

「これからだよ……、まだ、本気を出していないし」

「怪しいな……」

「そんなことはない!」


 クラリスは餌を付けて、腕を振って遠くに糸を垂らす。

 これほど離れていれば、今後こそニジマスが釣れるかもしれない。

 そう思った矢先、釣り竿が大きくしなった。


「来た!」

「やるな、主よ!」


 喜んだのも束の間、その引きは尋常ではない。


「ぎゃああぁぁ! 強すぎ!」


 あまりの強さに竿ごと湖に引き込まれそうになってしまう。

 クラリスは魔法使いといえども、高レベルとステータスボーナスによって、かなりの力を持っていた。

 それでも、力負けしているのだ。

 並のニジマスとは違っていた。


「助けて!」

「我も力を貸すぞ。デッドも来い!」

「キュル!」


 壮絶な引きに使い魔たちも協力する。

 側で見ているフランは、ありえない光景にオロオロしていた。

 楽しいはずの釣りが、命懸けに様変わりしていた。


「すごい……」

「なんという力だ」

「キュルルルッ!」


 みんなで息を合わせて竿を上げる。

 竿にヒビが入り、折れるかと思われたが。


 水面が盛り上がり、大きな水の塊が現れた。


「なになに!? これは……。 ボクは水を釣り上げたの?」

「おおおおっ、これはまさか……」

「キュル!?」


 ニジマスだと思っていたら、全く違うものだった。

 それを見たフランが驚いた顔で声を上げる。


「水の精霊だ!!」

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