43.エルフの宿と魔法使い
フランに案内された家。
そこは二世帯住宅だった。
成人したフランと両親が別々に生活できるように考えられた建物だ。
エルフは本来、自立心が強く成人と同時に親元を離れるのが常だ。
しかし、フランはエルフの中でも特別な存在――巫女見習い。
合わせて過保護の両親だったために、このような家になったという。
クラリスは彼女の両親のところを自由に使っても良いと言われた。
リビングに飾られた鉢植えが青々とした葉っぱを保っている。
おそらくフランが今も両親の部屋を管理しているのだろう。
「主よ。いい部屋じゃないか。キッチンもある」
「キュル!」
「そうだね。フランも自室に戻ったし」
「ならば……やることは決まっているな」
「キュルルッ」
フェンとデッドが尻尾を振りながら、期待するような目でクラリスを見ている。
「しかたないな」
「おおおおっ!」
「キュル♪」
使い魔たちはそのために二つ名持ち魔物を倒してきた。
ここでお預けになってしまうなんて考えられなかった。
食べるためである。
やっとエルフの里に入ることを許されたのに、ここで魔物を喰うという暴挙。
もりもり食べているのをもし見られたら、また面倒なことになりそうだ。
それでもやっぱり食べたい。
魔物グルメの称号を持つ者として、譲れないことだった。
「それでは、サボボテーンを召喚!」
フェンが虚空から、倒したばかりのピチピチの魔物を取り出した。
空間魔法で保存していたので鮮度は抜群。
「うん、いい鮮度」
「見たところ動くサボテンと言ったところか。青臭いかもしれないな」
「見た目からだとそう感じるね」
「キュル」
フェンとデッドはヘルシー志向ではない。
見た目からも、肉食系だ。
肉や魚が大好きだ。
今回はどう見ても植物系なので、どういった味なのか心配しているみたいだ。
フェンの発言から青臭い食べ物が苦手のようだ。デッドも横でうなずいているので同じ。
ここはひとつ使い魔たちのためにも、植物系魔物の美味しさに目覚めていただきたい!
調理をするにも、素材の味を知らなければ、どう扱っていいのかわからない。
ナイフを取り出して、小さく切り取ってみる。
ぱくり。
「うううううううぅぅぅ」
「どうした? 主よ。この魔物はまずいのか?」
「キュ?」
ウリ科の植物に似た味がする。
しかも、とても瑞々しい。
歯ごたえはシャッキシャキなのに、噛むほどに水分が溢れてくる。
砂漠で少しずつ溜め込んだ水が、口の中で一気に溢れ出す。
それがやさしく喉を潤してくれるのだ。
「これは……まさに砂漠のオアシスだ」
「ほう。主がそう言うのなら我も味見を。ぱくり……たしかにオアシスだ。たった一口であるはずが、口の中が水で溢れる」
「キュルルル♪」
二匹とも素材を食べただけで、もう肉や魚のこと忘れてしまっていた。
それほどサボボテーンが美味しい野菜だった。
「でもな……」
「どうしたのだ?」
「キュ?」
「これだけでは、メインを張るほどじゃないかも」
「うむ……」
どれほど素晴らしい野菜だとしても、これだけで料理をして満足の一品となるだろうか。
迷宮なら、限られた食材しかないため、これだけでもごちそうだった。
しかし、ここは地上だ。
食材ならたくさんある。
やはり、それだけを食べるには野菜だけでは役不足かもしれない。
クラリスがどうしようかと唸っていると、
「主よ、こういうこともあろうかと、このような物も持っておる」
「これはまさか……」
フェンがまたしても虚空から取り出した物を見て、クラリスは喜んだ。
「デザートスコーピオンのハサミだ!」
「うむ、サボボテーンを追いかけているときに、これに襲われたのでついでに倒しておいたのだ。デッドも協力してくれたぞ」
「キュルル!」
「ありがとう。これなら、お互いに高め合う料理ができそう」
クラリスはルンルン気分で、ハサミとサボテンを持って、料理を始める。
「まずは、ハサミを湯がく! デッド、鍋にお湯を張ってくれる」
「キュ!」
炎の扱いなら、デッドにおまかせである。
匠の技で絶妙な火加減。
彼に任せておけば、ハサミは最高の状態で湯がくことができるだろう。
「今のうちに、サボボテーンを薄くスライスして!」
「表面が緑色だが、中は水晶のようだな」
「うん、綺麗だね。さらに、千切りにする。これでもシャッキシャキ感がバッチリ残っている」
大きなボウルにどんどん切ったサボボテーンを入れていく。
デッドとフェンがよく食べるので、大事なことだ。
「熱い砂漠らしく。今回はさっぱりと食べたいので、これに甘酢を合わせる」
甘酢は迷宮都市カトリアで買っておいたものだった。
そろそろ、デザートスコーピオンのハサミも茹で上がってきたところだ。
「フェン、ハサミを冷やしてくれる」
「造作もない。アイスロック!」
デッドが運んできた鍋ごと、氷魔法で冷やしてみせた。
「どうだ?」
「いい感じ。ハサミの殻を剥いてっと。それもボール中へいれる」
クラリスはボールの中で、食材たちを絡めだした。
「よく混ざったら、アクセントとして、砕いたナッツを振りかけて」
このナッツは迷宮の魔物トレントから採取したものだ。
香りの良いから、クラリスのお気に入りだ。
「砂漠のスコーピオンサラダの出来上がり。暑さの疲れも、甘酢の酸味で解消!」
「おおおおっ! これは美味そうだ」
「キュル!」
「盛り付けるから、ちょっと待って」
出来上がった料理の香り――美味しそうな香りで、部屋中がいっぱいになっていた。
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