43.長老エルフと魔法使い
フェンはエルフ族で一番偉そうな長老を見つけると、駆け寄って追い詰めた。
「お前の頭をボリボリと喰ってやる」
「ぎゃああぁぁ。お助けを」
「やめなさい! 調子に乗りすぎ!」
「うむ」
クラリスがフェンの尻尾を掴んだところでフェンの悪ふざけを終わりとなった。
「これで主のことを悪く言う者はいないだろう。いれば、本当にボリボリと食べるだけだ」
「さらりと怖いことを言わないで」
「使い魔として主が虐げられるのは、絶対に許さない。それだけだ」
眉間にシワを寄せて本気でフェンは怒っていた。
フランは非礼を侘びていた。
「申し訳ありませんでした。予め、クラリス様たちには言っていましたが、このような結果となってしまい」
「いいよ。もう……最後はこっちがやりすぎた感じだし」
「お祖父様は気を失ってしまったので、お話は明日にさせていただけませんか?」
「ボクとしてもその方がいいかな。今はお互いにまともな話し合いができそうになさそうだし」
「そう言ってもらえて、助かります」
騒動が静まったことで、フランが長老エルフの代わりに事態の収束に努めた。
まずは、意識のない長老エルフを部屋に運ぶように指示。
そして、クラリスを客人として扱うように宣言した。
破れば、使い魔たちが黙っていないだろうとまで言っていた。
さきほどしっかりとフェンに脅されたエルフたち。
そのかいあってか、素直にうんうんと頷いていた。
クラリスはその様子を見ながら、フランに聞く。
「フェンやデッドはたしかに強いけど、皆さんは魔物を怖がり過ぎのように思える」
「ええ、最初のうちは魔物と勇敢に戦っていました。それは精霊術という強い力があったからです。しかし、聖地を奪われてから、ほとんどの者が精霊術をまともに使えなくなってしまいました」
「それって」
「もう……ここにいるエルフたちは、力を失った者たちです。まだ精霊術を使えた者たちは、私と聖域へ赴いてほとんどが戦死してしまいました。私たちにとって精霊術とは体の一部のような物です。使えなくなった者たちは、どう戦っていいのかわからなくなり、大きな不安を抱えています」
クラリスはその気持ちはわからなくない。
即死魔法しか使えないために、大変苦労をしたのだ。
ここのエルフたちは、クラリスよりも状況はひどい。
精霊術を封じられて、自分たちのアイデンティティを奪われてしまっている。
クラリスはもし自分が即死魔法が使えなくなったらと考える。
恐ろし過ぎた。
この魔法しか使えないのに、それを失ったら……。
ただの腹ペコな女の子だ。
「なんだか……ボクが即死魔法しか使えない状況に似ていて、他人ごととは思えない。早く、彼らが精霊術を取り戻せるように手伝うよ」
「そう言ってもらえてありがとうございます! さあ、こちらへ」
フランはクラリスたちを自宅へと案内する。
彼女の家は湖のほとりに併設されていた。
作りは木造。
丸太を重ねられており、重厚感があった。
里の中でも地位が高いこともあり、周りの建物に比べて五倍くらい大きい。
これなら、フェンが中に入っても、問題なさそうだ。
「なかなか、良い家ではないか」
フェンはそう言って、尻尾を振っていた。
大概、彼の図体の大きさから外で待ちぼうけが多かった。
そのため、クラリスたちと一緒に家に入れたことを喜んでいた。
フェンから褒められたフランも満更でもないようだ。
「ありがとうございます。この家は父と母が私のために残してくれました。私には大き過ぎて持て余していましたが、やっと役に立ちました」
「あの……フランさんのご両親は……」
家に人の気配はない。
それに娘が生還したというのに、両親が会いに来ることもなかった。
そこから考えられることは……。
「ご察しのとおりです。私の両親はすでにこの世にいません。すでに星の一部となりました」
「もしかして……魔王軍に?」
「はい。私の母は、巫女でした。聖地にいる精霊と心を通わせて、エルフ族が精霊術を使うための橋渡しをしていたのです。しかし、母は殺されて、聖地も奪われてしまいました。父もそのときに母を守るために戦い……」
フランにとって、聖地奪還は両親の敵討ちにもなっていた。
「聖地にいる魔王軍ってどのようなやつなの?」
「魔王直属の配下である四貴族の一角だということぐらいしかわかっていないです」
「四貴族?」
初めて聞く名前だ。
クラリスもこれでも勇者パーティーにいたら、魔王軍についてそれなりに知識がある。
しかし、そんな彼女でも知らない話だった。
もしかして、迷宮で半年以上も時間が経っている間に魔王軍の状況が変わったのかもしれない。
フランは、その予想に答えるように話を続ける。
「勇者によって倒された部下の代わりに新たに生み出されたらしいです。戦いに生き残った者からの情報なので本当なのかどうかは、はっきりとわかりませんが」
「そっか……勇者が……」
「どうかされました?」
「いや、別に」
クラリスは咄嗟に誤魔化した。
勇者エヴァンが今も頑張っているようだ。
話が本当ならば、彼はクラリスが抜けたあとも魔王軍と戦って成果を上げている。
しかし、魔王の部下を倒しても、今回のように新たな敵が生み出されるのなら、終わりのない戦いのようにも思えた。
ここは一つ。
幼馴染のためにも、一肌脱ごう。
エルフたちを圧倒するほどの魔族。四貴族というのなら、聖地にいるのを除いて、あと3人いそうだ。
あのお節介なエヴァンの負担を少しだけ軽くしてあげたほうがいいだろう。そうでなくても、あの腹黒い賢者がいるのだ。
クラリスは彼の顔を思い浮かべながら、呟いた。
「エヴァンに貸し一つ……作るのもいいかも」
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