38.旅立ちと魔法使い
腰にはナイトブリンガー。
手にはネイリング。
あとの荷物はすべてフェンに持ってもらっている。
クラリスたちは迷宮都市カトリアを背に、歩き出していた。
お世話になった人たちが、見送りに来てくれたことをクラリスは忘れない。
何度もお礼をいいながら旅立った。
特にコレットは、クラリスのことを気に入ってくれていた。
そのため、とても別れを惜しんでいた。
このまま、迷宮都市に残ってSランク冒険者としてやっていけばいいと言われてしまった。
たしかに、あれからギルドの方でクラリスに通達があり、迷宮に挑む冒険者たちの育成を手伝ってほしいと申し出をされた。
それを受けることを条件にSランク冒険者として昇級させてくれるという。
ギルド長はすでにクラリスが迷宮制覇をしているのを感づいている。有望な人材を手元に置いておきたかっただろう。
しかし、彼女には新たな目的ができた。
エルフ族に会って、自身のこと――たった一つの魔法しか使えない原因を聞くことだ。
エルフは人間嫌いだというので、難しいかもしれない。
だけどこのまま、何もしないでいるよりはずっといい。
「主よ、良かったのか?」
「何が?」
「あそこは主にとって居心地が良さそうだったからな」
「そうだけど……まだ満足するには、まだまだボクの時間はあるし。全部やりきったら、のんびりと暮らすよ」
「うむ、その日が早く来ることを我も願おう」
「キュル!」
自分の抱えている問題がもし解決したら、クラリスは魔道具屋でもしようかと思う。
せっかく大魔法使いカトリアの魔道具が山のようにあるのだ。
のんびりとこれらを売りながら、使い魔たちと生活するのも悪くない。
「なら、早く太古の森へ行かないとね」
「うむ。急ぐとなれば、我の背中に乗るといい」
「またなの……」
クラリスはギルド内での爆走を思い出していた。
狭い通路を縦横無尽に走るのはなかなかスリリングだったからだ。
「案ずるな。あれよりは、ゆっくりだ。歩いていくよりもずっと速いぞ」
「う……ん。わかった」
しゃがみこんだフェンに乗る。
もふもふの毛並みが心地よい。この毛があるから、速く走ってもクラリスに振動が伝わらない。
カトリアもフェンに乗ってよく移動していたらしい。だからか、フェンは凄く手慣れていた。
「では行くぞ」
「お願い! デッド、ちゃんとついて来てね」
「キュルルル!」
任せておけ! デッドは胸を叩いてみせる。
最近のデッドは大空を飛ぶのが、大ブームになっている。
ちょっと目を離すと雲の上にいたりする。
そんなデッドなので、飛ぶスピードも驚くべきものがある。
試しにフェンと競争させたら、互角だった。
まだ幼体のドラゴンなのに、末恐ろしい子だ。
「おおっ、デッドよ。また競争したいのか?」
「キュル!」
「今度は負けない!と よかろう相手になろう」
「ちょっと待ちなさい。勝手に話を進めない」
クラリスの声は使い魔たちには届かない。
彼らはいつもクラリスの一番であろうとしているのだ。
初めての使い魔はデッド。しかし強さではフェンが圧倒する。
よって、関係は五分五分となっていた。
デッドとしてはクラリスの一番の使い魔として、フェンに負けたくないようだ。
事あるごとに、果敢に挑んでいる。
フェンもそんなデッドが可愛いようで、嫌な顔せずに受け止めていた。
そうなってくると、大概被害を受けるのは誰だか決まっていた。
もちろん、クラリスだ。
「いくぞ、デッド」
「キュル!」
「位置についてよ~いドン!」
「キュッ!!!」
「結局、爆走だあああぁあっ!!!」
ゆっくり走ると言っていたのに、どうしてこうなった。
クラリスはフェンにしっかりとしがみつく。
振り落とされたら大変だ。
「主よ、楽しいな」
「キュル!」
使い魔たちは力いっぱいで運動できて気分上々。
そんなに運動神経が良くないクラリスはそれどころではない。
「早く、決着をつけなさい」
「なるほど、わかった。主がそう言うのなら、準備運動は終わりだ。この勝負、我がもらうぞ。デッドよ!」
「キュッキュッ!」
更に加速していく使い魔たち。
もっと本気を出せと受け取られてしまったようだ。
「やるな、デッド!」
「キュルルル!」
「まだいけるのか。よしっ、もっとだ!」
「キュルッ!!」
「速い、速い! 速すぎるって!!」
土埃を巻き上げながら使い魔たちが大爆走。
徘徊している魔物たちもびっくりして逃げ出す始末だ。
クラリスは乗るというより、しがみつくという方がしっくりしていた。
体は宙に浮いてしまい、フェンの毛を掴んでいる手を離せば、振り落とされてしまうだろう。
迷宮でステータスの力を上げていてよかったと思うクラリスだった。
とどまることを知らない一行は、エルフ族が住まう太古の森へ向けて、東へ東へと進んでいく。
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