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36.マイスターと魔法使い

 魔道具屋のおばあさんと別れたクラリスたち。

 只今、メモに書かれた場所に向かって歩いていくところだ。


「かなり街の外れみたい」

「そうだな。どことなく治安が悪そうだ」

「キュ!」


 華やかな大通りを外れて、西へ西へと歩いていく。

 次第に大きな建物は少なくなり、古びた建物が増えてきた。

 どれも外壁にヒビが入っており、修繕がされているようには思えなかった。


 すれ違う人たちも、身なりが良いとは言えない。

 摩耗しやすい肘や膝に布で継ぎ当てしてある。


 スラム街というほどではないが、街の中央に比べると生活水準がかなり低いだろう。

 時折、冒険者らしき者たちも目に入った。

 見るからに簡素な装備。あれでは低階層がやっとだろう。

 鎧や篭手や兜など、己を守るべき防具に錆や変形がある。

 おそらく、他の冒険者が使い古したものを安く買って、使っているのかもしれない。


「主よ。本当にこのような場所にその杖を作った者がいるのか?」

「キュ……」


 フェンとデッドは不安そうだった。

 それはクラリスだって同じだ。

 まかさ、ネイリングの作者がこのような場所にアトリエを構えているとは思ってもみなかったからだ。


「うん……あんな手の込んだことをしておいて、嘘ってことはないと思う。環境的に、いいとは言えないけど。素晴らしいものを作るために、素晴らしい環境が必要なわけでもないし。こんなすごい杖を作るくらいだから、たぶん環境なんて選ばない人なんだよ」

「そうだといいがな」

「キュルル」


 てくてくと進んでいくクラリスの目の前に周りよりも大きな建物が見えてきた。

 メモを見直した彼女は言う。


「ここみたい」

「予想はしていたが、まるで廃屋だな。一応偵察しておいたほうがいいだろう。いけるか、デッド」

「キュル!」


 デッドはひとっ飛びで廃屋の周りをぐるりと飛んだ。

 そして、窓の一つを覗き込んで戻ってきた。


「どうだった?」

「キュ!」

「中には爺さんが一人だけいるか……どうする主よ」


 デッドの様子から危険な感じはしない。

 それにもし危険が及んでも使い魔たちが黙っていないだろう。

 クラリスとしては、彼らの本気の戦いのほうが怖かった。

 この二匹が織りなす超異次元バトルは、是非とも町の外でにしてもらいたい。

 もちろんその時はクラリスはゆっくりと離れた位置で観戦したいと思う。


「なら、中で聞いてみよう。おそらく、これを作った人だと思うけど」

「わかった。では」

「キュル♪」


 ドアをノック。

 コンコン……。


 しばらくして、ドアからおじいさんが現れた。

 デッドが言っていた通り。


 長い白ひげをリボンで結んでいるのが特徴的なおじいさん。

 初めはクラリスの両脇にいる使い魔たちに驚いていた。

 この反応がいつものことなのでクラリスは慣れきっている。

 説明をしようかと思ったら、おじいさんはすぐに彼女が持っているネイリングに目を向けた。


「ほう……やっと来たか。半年前に売れたと聞いて、楽しみに待っていたが、待てども待てどもやって来ない。もう来るつもりがないのかと思っていたところだ」

「話が早くて助かります。ボクはクラリス。訳があって、訪れるのが遅れてしまいました。せっかく安く譲ってくださったのにすみません」

「すまんのう。言い過ぎてしまったわい。さあ、上がってくれ。でも使い魔たちは外でお留守番だ。中に入られては、こんなボロ屋は倒壊してしまうわ」

「わかりました。デッド、フェンいいね」

「うむ」

「キュル!」


 聞き分けのよい使い魔たちだ。

 フェンはおじいさんを見るまでは疑っていたが、今は安心している。どうやら、おじいさんは彼のお目にかなったようだ。


 クラリスは使い魔たちを外に待たせて中へ入る。

 中は質素そのものだ。

 鍛冶屋とは無縁のような生活をしているようにも見えた。

 そんなクラリスにおじいさんは笑っていう。


「儂が鍛冶屋だと思ったのだろう。そして、その杖の作者だとも思ってきたのだろう」

「はい。違うんですか?」


 簡素なソファーに腰掛けたおじいさん。

 向かいに座るクラリスに笑いながら言う。


「昔はそうだった」

「若い頃ですか?」

「そうだ。実は、それは儂の友人が作ったものだ」

「えっ!? そうなんですか!」


 てっきりこのおじいさんが作ったとばかり思っていたクラリス。

 話を聞いてびっくりだ。


「儂は現役を退いたが、儂の友人であるラムザは今も鍛冶屋をしており、最高の武具を追い求めておる」

「その人ってお若いんですか?」

「いや、儂よりも遥かに歳をとっておるぞ」


 なのに現役!?

 クラリスは話が見えなくなってしまう。

 それを見たおじいさんが、予想通りの反応にニッコリしていた。


「そうだろう。儂も出会った時はびっくりしたものだ。そいつは、人間ではなかったからな」

「人間じゃない?」


 おじいさんは昔を思い出すように遠くを眺めていた。


「儂の友人はドワーフじゃ」

「ドワーフ!!」


 ネイリングの作者がドワーフ。

 クラリスはこの杖をつくった人に辿り着くにはまだまだ時間がかかりそうだと思うのだった。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと評価をもらえると嬉しいです。

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