31.面倒な冒険者と魔法使い
知らないふりをしておこう。
なんてことは許されそうにない予感はしていた。
「キュ!」
「魔物!?」
「いや、これは使い魔だ。誰の使い魔だ!!」
キョロキョロと辺りを見回す冒険者たち。
クラリスとフェンは一緒に明後日の方向を向いた。
「誰だ! この使い魔の飼い主は!?」
手を挙げる者がいないので、冒険者たちはカンカンに怒っていた。
しかし、デッドには手を出そうとはしない。
なぜなら、デッドリーファイアドラゴンの強さを知っているからだ。
だから、使い手を呼び出して謝罪させようとしているのだ。
「キュル♪」
そんな中、満足したデッドが飛び立った。
くるりと一回転。宙を舞いながら、クラリスのところへ。
それを見ていた冒険者たちはニヤリと笑う。
「お前だったのか。出来損ないの魔法使い!」
「死んだと思っていたら、生きていたのかよ」
「後ろの大きな狼といい。実力に不釣り合いな使い魔だな。だからちゃんと教育ができていないんじゃないのか!」
自分よりも格下だとわかると、威勢のよいことを言いたい放題だ。
彼らはフェンリルのことを知らないようだった。
大きな狼としか認識していない。
普通なら、デッドよりも危険な魔物だ。
知っていれば、ここまでのことは言うはずがない。
それでもクラリスは自分に非があることを理解していた。
「デッドが食べてしまったのは謝ります」
ペコリと頭を下げるクラリス。
それをいいことに冒険者たちは助長していく。
「ホーンラビッドの耳が全部食べられてしまったぜ。これは魔除けになるっていう高価な品なんだよ」
クラリスはそんな話を初めて聞いた。
角や毛皮ならそれなりの値段でギルドで買い取ってくれるはずだ。
おそらく、彼らはホーンラビッドが倒せなくて、他の冒険者が残した死体から、耳だけを剥ぎ取ったのだろう。
そんなものギルドで売ろうとしても買い取ってもらえないはずだ。
受付嬢を脅してでも買い取らせようとでも思っていたかもしれない。
初めて会ったときから、無茶苦茶なら奴らだった。
やりかねない。
「失礼ですが、ホーンラビッドの耳は価値がないです」
「なんだとっ! 俺たちの頑張りを無駄だというのか!? 集めるのに苦労したんだからな」
「そうだぞ」
「勘違いされているようなので、お教えします。中層にいるというコボルトの耳なら魔除けになるそうですよ」
それを聞いた冒険者のリーダーは黒い笑みをこぼした。
「なら、お前のドラゴンが食べたのは、コボルトの耳だ。全部で50はあったぞ」
「はっ!? さきほどホーンラビッドの耳って言っていたじゃないですか?」
「そうだったか? なあ、みんなはコボルトの耳を取ったような!」
「おう、リーダーの言うとおりだ。お前、耳がおかしいんじゃないか?」
「くっ……やりたい放題だな」
はなからクラリスの言うことなど聞いてはないのだ。
自分たちに都合がよければいい。
それだけだ。
リーダーは近くにいたギルド職員を捕まえて聞く。
「おい、コボルトの耳は1ついくらだ」
「……銀貨5枚です」
「ほう、それならデス子には銀貨200枚を弁償してもらおうか」
「リーダー……計算が間違っています。銀貨220枚です」
「おう、そうか。なら銀貨220枚支払ってもらおうか!」
クラリスは思う。
大間違いだ。銀貨250枚が正しい。
訂正したところでこちらにメリットはまったくない。
馬鹿らしくなってきた。
今のクラリスにとって銀貨220など大した金額ではない。
「わかった」
「おおっ! 素直じゃないか。俺たちの凄さにビビってやがるな。まあまあ強そうな使い魔がいることだし。俺たちのパーティーで使ってやってもいいぜ」
「結構です。お金を用意しますので待っていて下さい」
クラリスはカウンターに近づいて、受付嬢に声をかける。
「換金をお願いします」
「クラリス!!」
大きな声で自分の名を呼ばれてしまう。
よく見れば、コレットだった。
初めてのギルドで冒険者登録を手伝ってくれた受付嬢だ。
実家が宿屋。
そこにクラリスが泊まることになって仲良くなっていた。
「心配していたのよ。生きていたなら教えなさいよ!」
「ごめんなさい。ついさっき、迷宮から帰還したんだ」
「そうだったの……」
「いろいろと話したいところだけど、今はちょっと」
クラリスは後ろにいる冒険者たちに目を向ける。
「さきほどの騒ぎはクラリスだったのか……最近の冒険者は荒っぽいの増えて困るわ。どうする?ギルドの方でどうにかしようか?」
「いいよ。お金で解決しそうだし」
クラリスはフェンにお願いする。
「適当に素材を出して」
「わかった。そこそこ高く売れそうなものを厳選しよう」
フェンは空間魔法で、香木を取り出した。
これは以前クラリスが迷宮70階層で、エンシェントトレントから得たドロップアイテム――古代の枝だった。
高レベル魔物で、しかも二つ名持ちから得たもの。
貴重価値はとても高い。
これからの旅の資金を考えて、それなりの手持ちのお金がほしかった。
「はい、この古代の枝を売りたい」
「ん? ちょ、ちょっと待って」
ギルドではお目にかかれないものを渡されたため、コレットには判断できなかったようだ。
奥からギルドで鑑定をできる者が呼ばれるほどだった。
そして鑑定結果を聞いたコレットは、軽いめまいを起こしそうになった。
「クラリス、すごいことになったわ。聞いて驚かないでよ……私なんて倒れそうになったんだから」
「うん……教えて」
そんなにすごいものだったようだ。
クラリスからするとただの棒きれにしか見えない。
「なんと金貨1000枚! もう一度言うわ! 金貨1000枚よ!!」
「ん!? そんなにするの! あの棒が!?」
「ええ、そうなのよ! 信じられないけど、あの棒はすごい棒なの! なんでも、とても強い武器を作るために使える伝説級の棒だったの!」
武器の素材になるものだったみたいだ。
クラリスの鑑定には、大きな魔力を秘めた棒とだけあった。
しかし、たかが棒だとして、使いみちがないと思い込んでいた。
まさかそんなに優秀な素材だったとは意外だ。
さすがは二つ名持ちのドロップアイテム。侮れないと思うクラリスだった。
いろいろと考えているとコレットが訊いてくる。
「どうするの? 売るの?」
「もちろん売る。今はお金がほしいし」
「わかったわ。直ぐに用意をするね。待っていて」
コレットは古代の枝を大事そうに奥の部屋に運んでいった。
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