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30.腹ペコドラゴンと魔法使い

 ギルド長に呼ばれた時はどうなるのやらと思っていた。

 しかし、深入りされることなく事なきを得た。


「よかった。面倒なことにならずに」

「うむ、あのギルド長としては、迷宮を制覇されては困る事情でもあったのだろう。その上で主が吹聴するようなことがないとわかって、すぐに追及をやめたのも頷ける」


 フェンはギルドの通路を闊歩しながら言う。

 職員たちは壁に張り付いて道を譲っていた。

 クラリスは、怯える職員たちに謝りながら、話を続ける。


「そうだと思う。この街は迷宮の探索で発展してきたみたいだし」

「制覇されたとなれば、冒険者たちが他に流れてしまう恐れがある」

「最下層に頑張ってたどり着いても、既に何もないからね」

「うむ、メインディッシュのない迷宮は、ただの素材集めの場所だからな。それはそれでいいが、やはり魅力に欠けた迷宮となるだろう」

「魔道具を全部持ってこずに、少しは残しておけばよかったかな」

「ハハハッ、主は人が良いな」


 ハンスはもうこれ以上、クラリスに関わろうとはしないだろう。

 クラリスとしても、新たな目的がある。


 準備ができたら迷宮都市から離れる予定だ。

 そうなれば、迷宮攻略についての真実は有耶無耶になる。


「この迷宮の冒険者たちの夢は大事するべきだろう」

「そう思う。正直に言っても、今回の場合は変に冒険者たちを刺激しても嫌だし」

「触らぬ神に祟りなしだな」

「うん」


 フェンとクラリスは知らぬ存ぜぬで通すことを決める。

 ここはずっといる場所でもない。

 波風を立てずに静かに出ていくほうがいい。


 そう思っていたら、いつの間にかデッドがいないことに気がついた。

 フェンと話している間は、静かにしていると思っていた。


「ボクから離れることはなかったのに。たぶん初めての地上で、テンションが上がっているんだと思う」

「まだ幼いからな」

「どこかの誰かさんも、似たような感じだったけど?」

「ん? 誰のことだ? 心当たりがないな」

「まったく……それはフェンのことを言っているんだけど」

「よしっ、探すぞ。我に乗れ!」

「ちょっと!?」


 フェンはバツの悪そうな顔して、クラリスを咥えた。

 そのまま、ひょいっと背中に乗せて、走り始める。


 ここはギルドの通路だ。

 フェンリルが爆走していい場所ではない。


「こらこらっ! 走っちゃダメ!」

「そうのんきなことは言ってられないだろう。デッドは見た目に反して、強力な力を持っている。しかも子供だ。うっかり人間を丸焼きにしたら大変だろう」

「たしかに……」


 デッドはずっと迷宮で暮らしてきた。

 そして突然地上へ連れてきたのだ。クラリス以外の人間と接した経験はない。

 そんなデッドが他の人間に迷惑をかけないとは言い切れなかった。


「早く探そう」

「うむ」


 フェンがさらにスピードを上げた。

 職員たちの悲鳴が聞こえてきたが、今回ばかりは許してほしい。


「どこにいるの? デッド!」


 何度も呼んでも返事はない。


「しかたない。デッドの魔力を探るしかないか……」

「できるの?」

「我に不可能はない。だが、これは精神を張り詰めさせる繊細なものだ。こういったことは少々苦手なのだ」

「お願い!」

「主の頼みとあらば!」


 フェンは目を閉じて意識を集中する。

 しばらくして、尻尾をブルブルと震わせた。


「見つかったの?」

「ああ、こっちだ」


 今いる二階から階段で一気に一階へ。

 そこには冒険者たちが、今日の冒険の成果を持って、受付に並んでいた。

 その中の一組のパーティーが持っていた大きな袋がモゴモゴと動いているではないか。


「まさか……」

「そのまさかだ。あの袋の中にデッドがいる」

「うあああぁぁ」

 

 クラリスは項垂れる。

 揉め事や面倒事には関わらないようにしようと思っていたのに。


 おそらくデッドはお腹が減っていたのだ。

 そしてあの袋には商品価値のある魔物の部位が詰め込まれているのだろう。

 今まで魔物しか食べてことなかったデッドにとって、それはもうご馳走でしかない。


 しかも、他の人間のものを食べたらダメとは教育してこなかった。

 弱肉強食の世界だった迷宮では、食べ物を見つけたらとりあえず喰らえ!

 そんな感じで生き抜いてきたのだ。


「これは主の教育が悪いな」

「過酷な迷宮で生き抜くためにしかたなかったの」

「どうする?」


 ばれないように、呼ぶことはできるだろうか。

 デッド入りの袋を持っているパーティーは見るからに乱暴者そうだ。

 それにあの人相には心当たりがある。

 この迷宮都市にきたばかりの頃、新緑の大草原にいるゴーゴンを倒したクラリスに因縁をつけてきた奴らだ。


 それからもクラリスが即死魔法しか使えないことをバカにしてきた奴らでもあった。


「よりによって面倒な人たちに……」


 頭を抱えるクラリス。

 そうこうしているうちに、パーティーが異変に気が付き出す。


「おい、何か変だぞ」

「どうした?」

「袋の中に何かいる」

「何かって何だ?」


 男たちは取り囲んで、ゴソゴソと袋を開ける。

 そして、ひょこりと顔を出したのはデッドリーファイアドラゴン!

 つぶらな瞳がとてもかわいい。

 しかし、冒険者たちはそうとは思わなかった。


「うあああぁぁ、なんでドラゴンが中にいるんだ!?」

「こいつ……火を吹くぞ!」

「逃げろ!」


 一階の広間が突如として現れたデッドリーファイアドラゴンによって大混乱となった。


「主よ。まずいことになったな」

「見ればわかる……」

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